第38話 キザ野郎からの言葉は何故こんなにも心が煮えたぎるのでしょう。それは……決して似てませんわ。

「待てっ、マリベルとナディア!!」

 

 先ほど不要とつっぱねた赤髪の法衣男ラファエルが、生きよい走りで駆け寄ってくる。

 ナディアの名前は知ってらっしゃいましたが、何故私の名前を?教会が冒険者組合を運営しているのはわかっていますけども、ランクの低い私の名前まで知っているとは。

 

「どうしたのでしょう?ラファエル様」

「そ……」

「失礼ながら先ほど私はあなたに『興味が無い』と申しましたわ。なぜ私たちをお止めになるのです?なにか他に用でもあるのでしょうか?」

「そうだ。この勇者である俺を止めようとしたのだ。ただの注意であるなら、ここで止める必要がないはずだ」

 

 私とナディアに青の勇者ソラと仲間である女3人からの鋭い視線が、ラファエルへと向けられる。顔を引きつるラファエルが、食い下がらずとんでもない一言をぶちまけてきた。

 

「なら、私も青の勇者ソラのゲストに入りましょう」

「いいや、断る。教会の者は信用できない。冒険者ならともかくその身なり、さきほどの言葉からしてかなりの位置にする者とみた」

 

 ごもっとも、不本意ですが青の勇者ソラと同意見ですわ。ナディアも頷いているようですし、それにいきなり現れて突然同行したいとかはっきり言って不審者ですわ。まさか、この中に意中の人がいるとか……ですか?青の勇者ソラと誰かを引き裂く新たな刺客。それとも冒険者組合を運営している教会、ナディアの男勝りながら女性としての見た目、体つきに気づいたのでしょうか?なんと波乱なのでしょう。でもアイリスの情報さえ知れれば関係ないですし、よく考えれば勇者と同行していれば魔将発生の情報を得て最終的にはアイリスと出会えますわ。

 人が行き交う街の中で立ち話をして、ラファエルの服装やら勇者やらで目立っていますし、なにやらざわめく声もちらほらと。

 

「こうみても私は、かなりの魔法を使うことができる。それに武器での応戦もできるぞ」

「――――それなら、いいだろう」

 

 はい?青の勇者ソラよ、さきほど断っていたではないか。それなのに……。

 

「何故、意見が変わったのですか?」

「この先の戦いはきっと今よりも激しくなるだろう。戦力が多ければ多いほど越したことはない。仲間が多い方が旅も楽しいだろう。それに、俺が楽になる」

 

 私の問いに青の勇者ソラが、身振り手振りとキレッキレの動きで女3人を魅了し、格好付けながらも声を張っていたが、最後の言葉はかなり小声だった。たぶん、私しか聞こえないだろう声量だ。

 

「俺の屋敷などは入れないから、外で待って貰うことになるがいいか?」

「ええ、わかった」

「ちょっと待ってください。納得いかないわ」

 

 私の顔が怒りで満ちているその表情に、ナディアが私の耳元で囁く。

 

「彼は、枢機卿の1人。貴族と教会の情報得られるかも」

 

 わたしの怒りが一気にひく。そう、枢機卿となれば教皇様の下の者。つまり2番手のとなれば情報の質は高いし量もあるとおもわれますわ。

 それが近くに2つもあるとすればそれは大きいですわ。

 

「急に怒りだと思ったら、すぐに」

 

 青の勇者ソラとその仲間も私の変わり身にひいていますけど、私は爽やかに優雅に笑顔を向けますわ。

 

「いいえ、お気にならずに。さぁ参りましょう青の勇者ソラとラファエル殿」

 

 周囲に人だかりが多く囲まれている状態に気づく私は何度も辺りを見回してしまいました。中には青の勇者ソラを見ながらうっとりする女性もだが、『赤い髪のお方素敵……』などという男好きな女性の声まで。注目を浴びている状況には変わりませんわ。踵を返して先に進もうとする私。

 

「マリベル。逆の方向だ」

「さっきこっちに進んでいませんでした!?」

 

 青の勇者ソラのあっけらかんとした表情に、怒号を飛ばし再び注目の的になってしまったことは言うまでもありませんわ。

 辱めをうけたことに私の怒りが煮えたぎるのを抑えつつ、到着したのはこの街でかなりの豪邸青の勇者ソラでもあり、マトラスファアス伯爵の屋敷。

 まぁ私が元々住んでいたライフェイザ家の屋敷よりも少し大きいぐらいですわ。……と比べても私はもうあの屋敷とは関係ない人間ですわ、比べるのがおこがましいですね。

 屋敷の敷地に入るや、大慌てで駆け寄ってくる立派なスーツをきた執事っぽい初老男性。

 

「お、おぼっちゃま……ハァハァ……ハァ」

「そ、その呼び方はよせ。客人の前だぞ――――どうした?」

「街に戻られたと聞いて、急ぎで言付けを」

「お前が慌てると言うことは、内容をいえ」

 

 執事っぽい初老男性が息を整えだし、青の勇者ソラの眼を見ながら答える。その状況に仲間である女3人も真剣な表情で耳を澄ましている。

 

「魔将の発生」

「なに?早すぎる」

「ですが、西の領地ナンディアネイル伯爵から通達ありまして、北西の領地と西の領地の間で猛威を振るっていると」

「わかった。今すぐ向かおう。良いかみんな」

「「「はい」」」

 

 仲間である女3人のハキハキとした返事に、ラファエルが私に小声で「あいつらは、ソラの親衛隊か?」と私の頷きに口元がひきつっていましたわ。だけど、魔将と対峙する前にアイリスの居場所をと想い人差し指をピンとはり青の勇者ソラに向ける。

 

「私たちも同行するとして、そう情報をもらうわ」

「そうだな。さっき言ってた――――白のやつの居場所か?」

「ええ、まぁ調べてやるが……」

「なに?」

 

 私は真剣に知りたいのよ。情報は武器、そして行動を誤らせないのですわ。でも青の勇者ソラは私の顔をみながら疑わしい眼で見てくる。

 

「魔将が発生したんだ、そこに白のヤツも来るはずなのにか?」

 

 え?そ、そうですわ。魔将の発生に魔将を滅する事ができるのは勇者のみ、アイリスがその場に行くことは絶対。現在の居場所を知っても向かう場所は一緒。え?えぇぇぇ!!は、恥ずかしいですわ、何故気づかなかったのでしょう。となりでナディアとラファエルが、2人とも背中を向けて肩が上下に揺れていますわ。耳が熱くなってきました、頬も……いえ顔全体に。

 

「ほぉ、マリベルも俺と同じように涼しい顔をしていると思ったが、いがいとそんな顔をするのだな」

 

 へ……。青の勇者ソラに言われた一言。もしかして私もコイツと同じキザっぽい動きを?その言葉でラファエルとナディアは更に肩を動かしていた。

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勇者に恋をしたモブな子爵令嬢、家を追い出されたので勇者を探し出して添い遂げますわ。~勇者は、長くて白い髪が特徴の美少女ですが。なにか?~ なまけものたろう @teru7711

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