第28話 想いと想いが結ぶが、割り込み立ちはだかる壁。割込厳禁、お邪魔ものは退散してもらいますわ。

 アイリスの剣戟が冴える。そしてその仲間達もまた、攻撃をし魔将シワンマガイを苦しめる。

 そして、やっと届いたアイリスへの想いが結ばれたのよ。

 それを邪魔しがって、電撃、火炎、氷結の魔法を放ち、魔将シワンマガイをより一層苦しめている。

 ナディアの猛撃、魔将シワンマガイの反撃をさせない私の魔法、そこにアイリスと仲間の攻撃。

 更に圧され怯む魔将シワンマガイは為す術無く、両膝を着き両手に持つ大剣を杖代わりに体を支えている。

 肩を大きく動かし深呼吸をする魔将シワンマガイ。

 シワンマガイの鎧には勇者3人とその仲間が付けたと思える浅い傷が至る所に付けられている。さらにアイリスやカインの与えた傷はそれよりも深いがシワンマガイにはダメージが届かない。

 その状況に落ち着き体を休めていたシワンマガイは、大剣を握り替えし体を反ると、大きな口から大気を揺るがす。

 まさに、決死の咆哮!

 勇者3人と仲間、アイリスとその仲間も恐慌状態に陥る。目を見開くアイリスが、体を震わしてなんとか剣を構え直した。

 動かない勇者4人と仲間、魔将シワンマガイの不敵な笑み。

 しかし、その間に平然と歩む紺色の髪の剣士ナディアと、その後ろには私。

 

「何度も言っているじゃないの。あなたの負け犬の遠吠えなんて耳障りって」

「マリベル。そんなこと一言も聞いたことない」

「あら、もう一度だけ言ってあげましょう」

 

 ゆっくりと息を吐き出す私。そしてその言葉を放った直後にナディアは、剣を掴み直し魔将シワンマガイに駆ける。

 剣の切っ先を魔将シワンマガイにむけ私は睨む。

 

「負け犬の遠吠えなんて耳障り。それに私の想いは成就したのです。ですからあなたは邪魔なのですわ」

 

 微笑む私の顔を見た魔将シワンマガイは怒りに震え、大剣を振り回し、汚い声で雄叫びを上げる。

 振り回す大剣を軽々と避けるナディアには、もう既に能力向上させる魔法を何重にも掛けている。

 

「後一押しなのに……」

 

 呟き、苛立ちを見せるナディアだが、至って冷静に魔将シワンマガイの大剣を躱す。

 一押し?そういえばナディアってあの剣士助けてたわね……。

 魔将シワンマガイが再び攻撃の速さが戻りつつある。ナディアにも疲れが出てきたのか――――。

 冒険者は決定打が欠けるのよ。勇者とその仲間には、魔障の魔物や魔将そして魔王に有効な力が備わっているって聞いたことあるの。

 アイリスと剣士カインの剣筋が交差し、止まること無く魔将シワンマガイの動きが鈍くなる。

 

「アイリス様。攻撃の手を弛めず」

「わかっているわ。カイン」

 

 アイリスと剣士カインの掛け合いに私は、鼻の付け根がピクピクを痙攣してしまうわ。しかも良い連携で魔将シワンマガイを圧している。

 そこにナディアの斬撃、そしてアイリスの仲間の魔法使いの放つ魔法。さらに3人の勇者とその仲間の攻撃で魔将シワンマガイは翻弄される。

 よろける魔将シワンマガイに赤の勇者グレンが叫ぶ。

 

「勇者よ。今こそ魔を滅する力を放て!!」

 

 高らかに剣を掲げる赤の勇者グレンに答えるかのように残りの勇者も剣を空にむけ掲げ出す。もちろん、アイリスもしている。

 魔将シワンマガイが4人の勇者を見回すと、叫び出し歯を食いしばる。

 

「青の聖法気を解放するっ」

 

 青の勇者が言葉を放つと、掲げた剣に青白い光がまとう。

 

「黄の聖法気を解放するぜ」

「赤の聖法気を解き放つ」

「白の聖法気よ、剣に」

 

 黄色の勇者も赤の勇者グレン、白の勇者アイリスの剣にもそれぞれ固有の色をした光がまとい出す。

 

 

 攻撃を休むこと無くし続けている勇者の仲間とナディア。

 私も魔法で、応戦しているわ。だけど、ダメージが通ってないようだわ。

 聖法気を帯びた剣を構え出す勇者4人を目にした魔将シワンマガイは、驚愕し、怒りに震え、体からどす黒い魔素が噴き出している。

 4人の勇者がお互いに見回し頷く。

 

「みんな下がれ」

「みんな下がって」

 

 勇者4人が叫ぶ声に、勇者4人の仲間が直ぐに、魔将シワンマガイから距離を取る。

 逃がすまいと大きく赤く光らせる目をする魔将シワンマガイが、大きく息を吸って雄叫びをあげる。

 

「遅いっ」

 

 その言葉を吐き捨てるグレン達。

 4人の勇者が赤青黄白の閃光となって一直線に魔将シワンマガイの身体に剣を突き刺す。

 

 グギャッァァアァァァアガァァガガッ――――

 

 身体を振るって4人を振り払おうとする魔将シワンマガイだが、勇者4人は耐える。

 聖法気が魔将シワンマガイの体内へ注がれる。身体から湧き出る魔素と苦痛の叫び。

 藻掻く魔将シワンマガイの動きが徐々に鈍くなると、一部崩れ落ちた身体から聖法気がと漏れ出す。

 

「お前らもっとだ」

「やっているっ。使い切るぞ」

「ここでトドメを刺す」

「やるわ。私の聖法気を――――」

 

 魔将シワンマガイから魔素と聖法気が溢れるように噴き出してくる。苦痛の叫びが枯れてきた魔将シワンマガイは、肩を揺らす程度の動きしか見せない。

 おかしいわ。普通なら……あの時見せてもらったシーンでなら魔将シワンマガイは崩れていくはずですわ。

 勇者の仲間も周りに居る騎士団たち、そしてナディアもざわつき始める。

 それは、勇者4人が放つ聖法気の量が明らかに違う人がいるから。

 

 アイリス――――。

 

 魔将シワンマガイの身体から漏れる聖法気、赤の勇者グレンと青と黄の勇者の聖法気の漏れる量というか数がほぼ同数に対し、アイリスのは見てわかる程少ない。

 無言になる魔将シワンマガイは、動きもしなくなるが、身体から漏れていた魔素が出てこなくなった。

 

「おい、白いのっ」

「まだ、出し渋っているんじゃねぇよなっ」

「ここでトドメさせなかったら、俺たちは守れないんだぞ」

「……」

 

 燃えたぎるように身体からあふれ出る聖法気に包まれるアイリス。

 

 グ……。

 

 グッグゴォォアァァオォォゴォォ。

 

 急に叫び出す魔将シワンマガイは崩れかけていた身体が徐々に戻りつつ回復し始める。

 怒り心頭の魔将シワンマガイは、大きく息を吸い始めるが、最後の最後まで聖法気を放つ勇者4人。

 勇者以外誰もどうすることもできないのは、聖法気が勇者特有の技だからなのよ。それに漏れ出した魔素にふれたら勇者の仲間でさえ火傷程度じゃ済まされないわ。

 でも、アイリスが……。がんばってい――――あれは、がんばっているのではないわ。目が赤く……充血……口から血?

 

 ふ ざ け る なっ

 

 あのままではアイリスがやばい。それに息を吸っているって、あれが恐慌状態にさせないわ。

 

 ――――なに、見入っていたの?

 ――――なんで、動かなかったの?

 ――――勇者しか魔将を倒せない?

 ――――私は、あのメガミさまから何を貰ったの?

 ――――私のギフトはアイリスと……。

 

 心に……潜在意識にそそぐ、私はアイリスが好き。アイリスが1人で苦しませない。だから私はこの場にやってきたの。

 

「マ、マリベル!!」

 

 一歩足を進む私に視線と若干手をだしたナディアを顧みず、私は鞘から剣を抜いて駆けている。

 大きく息を吸い込み軽く仰け反る魔将シワンマガイは、囲む勇者4人を見下し不敵の笑みを浮かべる。

 目を閉じ力尽きるほど聖法気を放つ勇者4人。

 魔将シワンマガイの身体が前に倒れるように動き出す。

 頭を突き出し、吸い込んだ息を吐き出そうとす――――。

 

 ザッ、バーーーンッ

 

 魔将シワンマガイを通り過ぎる一閃。

 よろめく魔将シワンマガイの身体に目を閉じていた勇者4人が、魔将シワンマガイに注視する。

 驚く4人。足下に転がる不敵の笑みをした魔将シワンマガイの頭。

 

 チン……。

 

 剣を鞘にしまう音に4人は視線を変える。

 ボロボロと崩れ落ちる魔将シワンマガイの身体は、煙のように魔素となって消えていった。

 

「マリベル……」

「アイリス。だ……」

 

 周りに見ていた者達が一斉に歓喜を上げる。

 よろめき、ふらつき、地に倒れ込む勇者3人。

 駆け寄るそれぞれの勇者の仲間。

 アイリス。無事でよかったわ。涙目になる私は、何も見向きもせずアイリスに駆け寄る。

 ふらつくアイリスを抱きしめ支える私。

 

「マリベルが、マリベルが傍にいてくれたから私……」

「大丈夫。アイリス今……」

 

 ギュッと抱きしめてくるアイリスに私も抱きしめる。だが力を使い果たしたのかアイリスは、私に全身寄り掛かってきてくる。

 いいのよ、むしろ……ええ、むしろよ。

 その後の言葉は言わないわ。

 周りが徐々に回復し始める。アイリスも次第に力が戻ってきている。たしか、あの遊戯の中でだったら、聖法気を回復する手段はあるのだけどそれは、愛する人との抱擁かキスだったわ。もしかして、これが回復となればいいのですわ。

 アイリスの体温と鼓動を感じ、目前に視界に埋もれるアイリスの顔。

 うっとりですわ。もう、ずっとこのままでも良いのですけれど。

 そう思って居る矢先、回復した勇者3人がアイリスに詰め寄ってくる。

 

「白いの。なぜ、俺たちよりも低い?」

「あぁ、勇者として活動したのが早いアナタが何故?」

 

 アイリスは彼らよりも身分が高いのがわかる言い方。詰め寄ってくるのは、彼らが死にかけた事なので怒っているのです。

 本来、あの中では彼らよりも強かったアイリスと仲間。遅く来たアイリス達で形勢が逆転するのですわ。

 でも、それならあなたたちも弱すぎですわよ。聞いている私のこめかみがピクリ。

 

「でも、それなら男どもの貴殿達も弱いのですわ」

「お、おまえ……」

「冒険者がっ」

「庶民が、調子にのるな」

「あら、じっさいお仲間を多く連れてもあのには決定的なダメージを与えていませんわ」

「マリベルっ」

 

 ナディアが駆け寄ってきましたわ。

 

「ここにいるナディアでさえ、多くのダメージを与えていましたこと、誰も見てないとは言わせませんわ」

「くそっ」

「……」

 

 青の勇者が言葉を吐き捨て離れていき、黄の勇者は、私をにらみつけて離れていった。

 赤の勇者グレンと仲間は、苦笑いをして離れていきましたわ。もうこれで、私とアイリスの無限の抱擁が続けられ――――。

 振り向きアイリスと向き合う。

 微笑むアイリス。朗らかになる私。

 手を広げ再び合わさろうとする私に殺気が身体を冷やす。

 刃が光る剣が私とアイリスの間を切り裂くと、更に剣の切っ先が私を狙ってくる。

 

「カイン!!」

「カイン様ぁっ」

 

 アイリスとナディアの驚きと制止を促す叫び声に、カインが一瞬驚いた表情を見せる。

 アイリスの前に立ちふさがるカインは、向ける切っ先と睨む眼光。

 神官と魔法使いもカインの後ろにアイリスを守るよう武器を構え、そして睨んでくる。

 

「アイリス様。この異常な者から逃げましょう」

「同性同士で、神の意に反してますぅ」

「色欲なもの助けられたが、アイリス様を色欲に染めることなど許さん」

 

 はい?異常で背神に色欲ですって?

 

「ちょっと、みんな!」

 

 アイリスが身を乗り出し訴えようとするが、カインが魔導具を取り出し掲げ出すと、光に包まれるアイリス達は一瞬にて消えていった。

 

「きぇぇぇぇええぇぇぇっ――――どこにぃぃぃぃ!?」

 

 消えていったアイリスに悲痛な叫びを上げてしまう私。

 

「転移の魔導具なんてどうして。カイン様」

 

 ナディアに詰め寄る私。

 

「なに、その魔導具って?」

「上級の貴族やら、教会ですと枢機卿あたりが持っている様々な魔法を封じたアイテム」

「また、アイリスを探さなくてはいけませんわ」

 

 悔しそうな歯を噛みしめるナディアの顔。

 

「そう、ナディアはあの剣士。カインの事が」

「え、それこそマリベルはあの白の勇者アイリス様を?」

「もちろん、心から……心の底、潜在意識から――――好きですわ」

「同性同士」

 

 引き気味の顔のナディアに怒り気味で食いかかる。

 

「愛の形に異性も同性もありませんわ。心から好きになった人が私を想ってくれるならそれで良いのです」

「!!」

「私は、あのカインが邪魔です」

「わ、私は……カイン様が――――好き――――です」

「そうですわ。だから、私はアイリスを。ナディアはカインを」

 

 頷くナディアと私は、熱い握手をし結託をした。

 あのカインは白の勇者アイリスに惹かれている。しかしアイリスは高い爵位の娘、貴族であっても身分の低い爵位の男がそう易々とアイリスを結ばれる事は難しい。カインは剣を磨きこの魔将や魔王との戦いで剣聖となり全てを終えアイリスと結ばれるという想いを知っている。それはあの時見せて貰った遊戯の中で彼がアイリスと結ばれたときに言ったものだ。

 ナディアの声に反応したカインをみて、これは隙があると……いいえ、ナディアにチャンスがあると言って良いでしょう。

 恋に奥手の男カイン、積極的なナディア最高の組み合わせ、そしてアイリスと私が結ばれる。

 騎士団と共に帰路につく私たちは途中の街道で下ろして貰う。

 

「まずは、白の勇者アイリスのパーティー探しですわ」

「ええ、早く冒険者組合へ」

 

 私とナディアは北へ一番近い街へと向かって行く。

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