第29話 怒る王、嫌悪な枢機卿、失墜する王子

 騎士団が到着し勇者たちを介抱し回復をさせている時。グリザイア・ロズヴァール王が鎮座する謁見の間にて貴族達が並列し、1カ所を見つめている。

 その宙に映し出されているのは魔将シワンマガイと勇者達の戦い。激しい戦いに皆、息をのんでいる。

 だが、そこに少し着飾った鎧を身につけた平凡な少女マリベルと、紺色の髪を後ろで縛っている女性ナディアの姿が映る。その者たちの攻撃に手を焼く魔将シワンマガイの動きに貴族達がどよめき、一部は見入っている。

 見入っている内の1人グリザイア・ロズヴァール王は2人の猛撃に、歯を噛みしめ唸る。

 

「ぬぐぐぐ、あいつらは何だ?勇者の仲間か?」

 

 王の玉座の近くに立つ側近が、王の問いに焦りを見せる。

 

「いいえ、騎士団を派遣する際に、冒険者組合に依頼した冒険者かと思われ……」

「なにぃ。冒険者だとっ!?」

「えっ、えぇ」

「何故、冒険者ごときが、勇者の戦いに割って入っているぅっ!!」

 

 怒りをあらわにするグリザイア・ロズヴァール王。そして答えていた側近が後ずさりをすると、すこし貴族の身なりが一段と良さそうな男が、口を開く。

 

「もし、この冒険者が邪魔をして勇者達が魔将を倒せなかった時は、教会に追求できるでしょう」

「む、そうだな。さすがは宰相。邪魔な教会の奴らを黙らせる事ができるな」

「そうですね」

 

 勇者4人と仲間全員回復が終わらない中、勇者達よりも魔将シワンマガイを圧倒させているマリベルとナディアの戦いに、この部屋が沈黙する。誰もが見入ってしまっている中、静まりかえった部屋に扉を叩く音が響く、貴族らそして王も、その音にビクッとしていた。誰もが黙っている中扉の開く音が部屋全体に広がり、入ってくるのは1人の兵士。

 

「失礼しますっ」

「貴様、こちらからの返事も無く勝手に入ってくるとは」

「宰相。まぁよい。ところで何だ?」

 

 兵士は部屋に入るなり頭を下げ、直ぐに王の前に走るとそのまま膝を突き頭を下げたまま報告をしだす。

 

「申し上げます。教会の者が」

 

 息切れしながら兵は部屋を退室するとき、その兵の横を通り過ぎる法衣をまとった男性と取り巻き3人。

 金髪に碧眼で整った顔立ちの男が王の前に立ち笑顔を向ける。

 

「これはこれは、枢機卿……ガブリエル殿」

「ガブリエルでよろしいですよ。グリザイア・ロズヴァール王」

 

 微笑んでいる2人だが、その表情は強ばっている。

 枢機卿のガブリエルは、部屋に映し出された魔将シワンマガイと勇者の戦いに視線を動かす。

 

「ほう、このような事態になっているとは」

「――――面倒なヤツが」

「王よ、今何か言いましたか?声量も衰えていて聞き取れなかったのですが」

「き、貴様っ」

 

 ここに居る兵たちがガブリエルを取り囲む。

 

「武器を引け」

 

 宰相の号で、兵たちは直ぐに武器を収める。ガブリエルは無表情のままでグリザイア・ロズヴァール王へ告げる。

 

「今のは?」

「世間知らずの若造に、目の前に立つ者、対話してやっている者がどういう存在か知ってほしくてな」

「――――そうですね。これは失礼しました。ですのでまた口を滑らせてしまう前に退室させていただきます」

「そうじゃな。世間の常識というのを学んで来た方が良いぞ」

 

 礼をするガブリエルは踵を返し部屋を出ようとするが、そこに王の呼び止める声。

 

「ガブリエル殿。見て下され、今わが勇者達が魔将にトドメを刺そうとしている」

「……」

 

 見上げるガブリエルの顔がヒクつく。ほくそ笑むグリザイア・ロズヴァール王に向けガブリエルが一言。

 

「――――これは良かった。無事に第1の魔将を倒せそうで」

「勇者は、あなた方が飼っている冒険者ならずものよりも全てにおいて上位ですからなぁ」

「それでは、魔将シワンマガイの4本の腕の内2本が斬り落とされているのは、誰がやったのでしょうねぇ。それにあそこまでダメージを与えたのも……誰なのでしょう」

「き……何故それを……」

 

 ガブリエルは再び扉に向かっていく。

 

「ふふ、勇者でない第三者の参戦で形勢が変わったのと、回復のために戦線離脱していた勇者達が今こうして魔将にトドメを刺してるのはどうしてなのでしょう。王よ結果がたのしみですね」

 

 笑いながら立ち去るガブリエルの姿が閉まる扉で見えなくなると、王座の近くあったワインの入ったグラスを扉に向け投げる。

 割れたグラスと赤くしみる絨毯をみつめるグリザイア・ロズヴァール王は強く拳を握りしめる。

 

「宰相。なぜ、勇者達は冒険者に遅れをとった?」

「赤の勇者グレン、青の勇者ソラ、黄の勇者ジョーヌは適正ですが、白の勇者アイリスが」

 

 王の拳が玉座の肘掛けを叩く音が静まりかえった部屋に響く。

 

「ヴァーレッティアはどこだ?」

「ここに」

 

 アイリスの父レイブン・ヴァーレッティアが片膝を床に付け頭を下げる。

 

「率直に聞こう。なぜ、おぬしの娘は3人の勇者よりも弱い?」

「……それは」

「黙っていては、わからんぞ。娘がかわいくて戦いに出さないというわけではあるまい。南西の地サウズヴェスにてゴブリンの群れを勇者のギフトを得た直ぐに成し遂げた勇者だからな」

「実は、言いにくいのですが」

 

 グリザイア・ロズヴァール王は、見下げるようにレイブン・ヴァーレッティアの言葉を待つ。

 

「ウィリルム王子が、その毎日のようにわが家に……アイリスに会いにきて」

「なに?」

 

 グリザイア・ロズヴァール王の眉間にしわが寄ったまま宰相の顔をみると、頷く宰相の動きに頭を抱えるグリザイア・ロズヴァール王が、再び肘掛けを叩く。

 

「レイブン公さがれ。ウィリルムを呼べ!!今すぐにだ」

 

 沈黙が走る部屋に扉が開く音と共に入ってくるのは、ウィリルム・ロズヴァール王子。

 

「お呼びでしょうか父上」

「お前。ここ数ヶ月そこのヴァーレッティアの屋敷に出入りしてたな?」

「え?」

「白の勇者アイリスに会いに行っていたというのはどういうことだ?婚約したあの……ライフェイザの者がいるだろ?」

「いえ、それは……」

「言い訳は聞かん。貴様のせいで勇者の成長レベルアップが低く、この世界に危機を招いたんだぞ」

「で、ですが……魔将は倒したと……聞いております……が」

「バッ――――バッカもんがぁっ!!教会の手先が追い詰めた魔将をただトドメを刺しただけに過ぎん」

「倒したのは……」

「勇者がいなくても魔将が倒せるとなれば、教会はどう思う!そして隣国はどう動くか!!」

 

 怒鳴り散らすグリザイア・ロズヴァール王に萎縮するウィリルム。

 周りの貴族も黙って見ているだけ。

 

「この地に湧き出る魔障。この地を魔障で侵そうとする魔将と魔王。それを倒すことができる勇者を輩出する貴族。これをお前は壊そうとしていたのだぞ。なにか言い訳あるか?言ってみよウィリルム」

「冒険者の協力があれば我が貴族は、魔物討伐にも魔障を沈めるにも無駄な資金を使わずに……」

 

 顔を紅潮させ唾をまき散らし怒鳴るグリザイア・ロズヴァール王に、ウィリルムは顔面蒼白。

 

「きさまっ!!この男をどこかへ連れて行け。二度とロズヴァールの地を踏ませるなっ」

「ち、父上!それは」

「貴様など我が息子では無い。自分の好色にまみれこの国の民に危険を招いたのだ。そんなヤツが王族で許されるわけ無かろうがっ!!」

 

 崩れ落ちるウィリルムに駆け寄ってきた兵士は、ウィリルムを抱えこの部屋から消えていく。

 

「それに、あの女冒険者。だれかわかるか?明らかにギフトを授与されているしか考えられん戦い方だ」

 

 

 更にグリザイア・ロズヴァール王の鋭い視線が並ぶ貴族を見回すと、目をそらし下を向く貴族達。その状況の中、宰相が王の耳元に近付き何やら告げている。

 グリザイア・ロズヴァール王の「――――そうか」と重い息を吐き出し貴族達を見るのを止め、咳払いをした後口を開く。

 

「ここにいるのかサウズヴェスの領主、キンディラーよ」

「はっ」

 

 王の前に小走りで現れ直ぐに膝を床に着けるのは、頭頂部の地肌が見える初老で小太りな男性キンディラー伯爵。

 

「キンディラー、お前の所に確か――――意味不明なギフトを得た少女がいたな?」

「え、あっ……はい」

「その少女はどうした?たしか、嫁いだと報告があったと思ったが?」

「確か――――そうのように……聞いています……が」

「なぜ、あれに映っていた!?」

「わかりませんっ!」

「お前が、わからないとなると……つまりお前は嘘の報告を上げてきたと言うことか?」

「い……いえ、嘘という――――ことは……」

 

 並列する貴族達がビクつく地鳴りのような大きな音が響く。王の怒りの拳が肘掛けを叩く。

 

「鑑定で詳細がわからないギフトを得た者の処置はどうするか?」

「王国の騎士団、女性であれば嫁ぎギフトを使うことを抑える」

 

 顔面蒼白のキンディラーは、身体全体小刻みに震えている。

 王の言葉に宰相が、口を挟む。そして宰相はそのまま王へ小声で伝える。

 

「つまり、この規則を守らずにあの女を冒険者にしてしまった……が、キンディラーお前はしっかりと報告をしていたそうだな」

「えっ?あっ……はい」

「嫁がせた偽の報告書は、お前の補佐をし領地の街スフィースを管理しているライフェイザの者がやったと」

「あっ……はい」

 

 深くため息を吐くグリザイア・ロズヴァール王は、ほんの3秒ほど視線を下に向け頭を抱え無言になる。そして再びキンディラーに視線を戻す。

 

「キンディラーよ。ライフェイザの者、その嘘偽りを報告した者を連れてこい」

「はいっ!」

「お前は、杜撰な管理であり……確認不足。そして貴族として我が王族の側近としての怠慢だ。何かあると覚悟しておけ」

 

 数日後、縛られたダグラス・ライフェイザは、その虚偽の報告を認める。

 グリザイア・ロズヴァール王は、キンディラーに剣を持たせる断首の刑を執行するよう命じる。

 床に額を擦りつけるダグラス・ライフェイザ。キンディラーは剣を大きく振り上げ、剣の重みで勢いよく振り下ろした剣は床を削りダグラスの身体から噴き出る液体は床を赤く染め、転がる頭部は悲痛な顔をみせる。

 その事を知らないフォクスとメリアは、メリアの私利私欲の為に既に討伐されていたオークの討伐へと向かっていた時だった。

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