第14話 目的はアイリス、赤の勇者からの勧誘に。だが、断る……ですわ

 あの赤の勇者グレンの笑い声に腹が立った私は、ナディアの手を引いて冒険者組合を出るとそのまま宿に向かう。

 

「もぅ、なんなの。なんで絶好のランクアップなのにぃぃっ」

「ごめん、多分うちの登録がミスって」

「そうよっ。登録ミスが原因だけど、起きてしまった事はどうしようも無いわ」

「どうするの?」

「また。明日組合に行って依頼を受ける」

「それが懸命ね」

「ナディアのランクで依頼受けれる?」

「出来るかその依頼の危険度によるかな」

「じゃぁ、なんでさっきの、あの依頼は受けれたの?」

「勇者枠かな? 私も詳しくはお兄ち……兄に聞かないと分からない」

「そうよねぇ、組合長のに訊かないと」

「マリベルっ!!」

 

 真っ赤になるナディアは、私を軽く叩いてくる。

 年上のナディアが、真っ赤になって怒るなんて――――その子供っぽい動きや仕草が可愛い。

 

 そんな会話をした後、日が暮れ夜になると私とナディアは街の中を探索。

 日中にはない出店や楽しそうな表情の人々。貴族として知らなかった光景がここにはあり、私はランクアップの事など頭から離れていた。

 頭に浮かぶアイリス。

 ふと、少し顔を下げるとナディアの顔が覗くように私の顔に近づけてくる。

 

「ちょっと、びっくりさせないで」

「マリベルって時々自分の世界に入るのよね。今みたいに悲しい顔したと思ったら、森の時のように不気味な笑顔で妄想してたりとか」

「私はある目的で冒険者になったわ」

「それは知っている」

「冒険者になってランク上げる」

「それも知っている」

「冒険者なんて通過点なのよ」

「冒険者の先なんて……」

 

 拳をギュッと強く握りしめる。

 必ず、この世界に私の強さを知らしめるの。

 そして、今現在アイリスの仲間になっている者達と代われるぐらい――――。

 勇者の仲間は3人と決まっている。

 理由は3人まで勇者の加護が付く。

 しかもその加護、死んでも簡単に生き返られ。更に死んだとしても肉体の腐敗や損傷なく、気を失った状態で蘇生される。

 教会などで生き返られるから不思議。

 

 勇者の仲間は既に決まっている。勇者が旅立つ時に選んでその時点で加護が付与されているから、入れ替わったとしても特例が無い限り勇者の加護が付かないの。

 特例なんて私の知る限り、勇者や別の男性と結ばれ、戦いに出られなくなった時しかないわ。

 だって女神様がやっていた私の世界を題材にしたゲームとやらでは、男の勇者は部毎に力を継承するが、全く別人でその仲間3人とも別の人物なのよ。

  たけど、アイリスパートの時は違ってた。第5部まで仲間は同じ――――だから私はアイリスの仲間に成れない。

 成れないのなら死ぬ事が無い程の強い力、強い存在になる。

 

 想いを心にたぎらせ、私はナディアと共に色々なお店を見て回る。もちろん、洋服屋、仕立て屋、下着屋など必要な物も買った。私の金貨が唸ったのは言うまでもないわ。

 

「フッふふ〜ん」

「嬉しそうで良かったわ」

 

 ナディアの上機嫌な鼻歌。

 嬉しいものよ、今まであんな単調で単色な下着だったのよ。総入れ替えさせるほどに買っちゃったのだから。それにもう見たくもないのよ干されていた、あの寂しげのある下着。

 そんなナディアの嬉しそうな笑顔で今日の休みは終わる。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 高ランクの依頼が無く、雑草狩りや街の巡回に、買い物手伝いの依頼しかない。私達は頭を悩ませる依頼が続いた為、時折カ街の外で魔物を狩ったりしていた。

 そして、あのランクアップが出来なかった悔しい日から数日。

 

「お客様ぁっ、お客様さまっ!!」

 

 ドアをノックする音に続いて宿の主人の声が部屋に響く。

 

「はぃ?」

「ロビーに友達……仲間の方がいらっしゃってます」

「えっ、あっ――――はい」

 

 疑問符が頭の中で渦をまく。

 なに? 友達なんか生まれてからこの方1人も居ないわ。

 その叫びに私の心が締め付けられる程痛い。

 えぇ、いませんでしたよって――――貴族の方が家に来たりとかこちらから出向いたりとかありませんでした。

 フォローをするが、何故か悲しくなる。

 

「マリベル、この地に友達いたんだ……」

「いっません!!」

「何――――急に怒鳴って?」

「友達の1人や2人居なくても元気に過ごせますぅっ」

 

 キョトンとするナディア。

 冒険者組合に行って良い依頼があったら受けて、そのまま行っちゃおうと話していた所。

 既に武具を身につけていた私とナディア。

 主人に言ってしまった手前、会うしかないわ。

 泊まっている部屋は2階、階段を降りきらないとロビーは見えない構造の宿屋。

 ロビーで出迎える4人の姿を見て心が平坦となる。

 まぁ、ほんの少しだけ……期待したかったわ。

 降りた瞬間私の目に飛び込んでくる眩く純潔で無垢の可憐な白い華を――――

 そう、アイリスの姿を期待してた。

 未だに何処にいるか分からないアイリスが、もしかしたら私の事を聞いて……いやそれは無いわ。まだ私の冒険者としてのランクや実績が世界に轟いてない。

 つまり、私がここにいるという事をアイリスの耳に入っていない……だから会いに来ることは無い――――だけど、ねぇ。

 

「マリベル!!」

「えっ、あぁ、はぁ〜」

 

 完全にしかめっ面してたわ。

 ナディアの声で目の前の現実に戻されたけど。

 

「いきなり朝からため息か!?」

「当たり前じゃない。勇者の特に男の顔なんて見たくないわ。3人の綺麗な花が霞んでしまうもの」

「この俺のどこが霞ませてしまうっていうんだ?」

「それも分からないから――――困るのよ」

 

 ロビーにいたのは赤の勇者グレンとその仲間3人。

 私は3人と目を合わせようとするが、騎士の1人エンレイが目を逸らしてしまう。

 だが、それよりも突っかかってくるのは赤の勇者グレン。

 

「まぁ、よい。それよりもマリベル!!」

「は?」

「俺の仲間となれっ! 加護はやれんがお前なら俺が守ってやる!」

 

 赤の勇者グレンの自信満々の顔。

 3人の女性もウキウキしているのが解る笑顔。

 

「嫌だわ」

「はぁぁぁっ。 お前バカか?」

「バカ?」

「俺の仲間になれば冒険者組合で高ランクの依頼が受けられるし、様々な街や村でもてはやされるんだぞっ」

 

 高ランクの【B+】のナディアがいるから多分高ランクの依頼受けられそうだし、アイリス以外の勇者の仲間になるなんて絶対お断りたわ。それに、ちはほやさてたくないのよ……アイリス以外からは。

 グレンの後ろにいる3人が、私の回答に驚いていると同時に悲しげになる。

 

「もてはやされるって――――どういう?」

「ほら、あれだ。『勇者の仲間の方で〜』とか良いとこの宿に泊まれたりとか。なりたくなっただろ?」

「全く!!」

 

 私は既に呆れてる。

 その視線を感じた宿の主人が、目を光らせ勇者グレンに怒りを見せる。

 

「なんだ!! 俺はだなぁ――――」

「はいはい、勇者様。他のお客様に迷惑なので」

「他のお客って、あいつら2人しか……」

「はぁっ? 冒険者組合に言うぞ」

 

 主人の言葉に勇者グレンは驚き、そのまま宿の外へ追い出される。その時「マリベル、仲間になれっ!!」大声で叫ぶ。

 

「断るぅっ!!」

 

 被さるように返答してやると、それと同時に宿の扉が閉まる。 

『もてはやされる』というだけで勇者の仲間になるの?

 私とナディアは、現状に疲れ果て共にため息を吐きながら倒れるようにイスに座る。

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