第30話 教皇と枢機卿4人の思惑

 王都アヴァロンの西に数多くの尖塔が建つセントラル・カセドラル。そこは冒険者組合を運営する教会堂であり、多くの礼拝者が訪れる。

 その奥に教会と冒険者組合を束ねる中枢、装飾され背もたれの長いまるで玉座のような椅子に鎮座する、年老い立つことも動くこともままならない教皇がいる。

 教皇の後方には壁から天井にかけて空から降り注ぐ光によって歴史的な意味を持つステンドグラスが印象的、中央に黒い球のような丸が塗りつぶされ、下には赤と青と黄色の人物が黒い丸に剣を向ける。黒い丸の左上に白い人が黒い丸に剣を向けるも片手は右に手を伸ばす。しかしその左側には黒く塗りつぶされ、空からの光で薄らと見えるか見えないか程度の人のような形が浮かぶ。

 空の光以外この部屋には微かに灯る明かりがあるが、ただでさえ広い部屋でやはり薄暗い。

 鎮座する教皇の前に4人が跪いている。1人はあの枢機卿であるガブリエル。

 この部屋に響く低く枯れた声が彼らに届く。

 

『ガブリエル。どうであった?』

 「は、彼らは魔導具で魔将と勇者の戦いを見ておりました」

『勇者の劣勢であったろう。どうだ勇者達は逃げたか?』

 「いいえ、勇者達は魔将シワンマガイを倒しました」

『なにっ!!ど、どういう事じゃ』

 

 驚く声を上げる教皇だがその口調とは違い表情が寝ているかのように変わっていない。だが、ガブリエル含む4人はそれが当たり前のようだ。

 

 「2人の冒険者が応戦。魔将シワンマガイを追い詰めました」

『冒険者だと?』

 

 ガブリエルの言葉に変わることの無い表情の教皇の声。そしてひざまずく3人は驚きをみせる。

 緑色の髪をした幼くも顔立ちのよく少しだけ背いミカエルがもの申す。

 

 「おかしいではないかガブリエル」

 「勇者ができてなかった事を冒険者が」

 「お前たち教皇の御前だぞ」

 

 しかめるガブリエルにミカエルに合わせ、赤い髪の目鼻立ちもよく背もガブリエルに近い男ラファエルが、焦りの表情を見せる。

 しかし取り乱すミカエル、ラファエルに青い髪のウリエルが顔色変えず鋭い視線だけ向け静かな声で2人を気を静めさせる。

 

『ふぉ、ふぉふぉふぉふぉ』

 「教皇様?」

『まさか……ガブリエルその冒険者は?』

 

 本来ならあの場面で知ることもできないガブリエルは、淡々とマリベルの名をだし元貴族であり、恩恵ギフトの不明な事も明かす。

 

『おぉ、あのライフェイザ家の……確かあの者の父親のギフトは鑑定で……レベル5の最高位だったはず。それでも解明できなかったあのギフトをもつ者が』

 

 教皇の笑い声が部屋にこだまするなか、教皇の言葉に枢機卿4人が目を丸くする。

 

『その冒険者をなんとしても、勇者に――――貴族どもに取り籠めさせるな。枢機卿であり四聖天でもあるお前たち』

「はっ」 

 

 立ち上がる表の顔の枢機卿、裏は四聖天の4人は教皇に頭をさげこの部屋から出て行く。

 教皇しか残らないこの部屋。その教皇は見上げステンドグラスに薄らと目を開ける。

 

『繰り返してはならぬ。繰り返していく。漆黒に光が当たらぬように……』

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