第4話 家族の思惑通りにはいきません。だって私、強いですもの……ですわ

「マリベルだっ。俺の妹だ何かあったら守ってくれ」

 

 この領地の騎士団の団長を務める兄フォクスの声に騎士達が、元気よく返事をする。

 しかし、どう見ても兄の言葉通り私を守ると思えない。

 それに、兄が満面の笑みで一人の女性を連れ私に対面させる。

 紺色の長い髪を後頭部で束ねた私よりも歳上の女性。

 私の姉メリアよりも少し上のような気がするが、それにしても冒険者なのか姉よりも細身なのに鎧を纏って帯剣をしている。 

 あの腰に帯びた剣、少し強力な武器のようね。鞘に収まって実際何の剣か分からないけど。

 

「マリベル。こちら冒険者組合に要請してお前を守る冒険者だ」

「ナディアです。本日から数日よろしくお願いします」

「はい、マリベルです」

「何かあったらすぐ呼べ。兄は何時でも駆けつけるぞ」

 

 高笑いして離れていく兄の背中を見ている私にナディアは、ため息を吐いている。

 まぁ、駆けつけるとか言うなら、近くで見守るか自分の部下を護衛に付ければ良いのに。兄の言動に呆れているわ。

 ナディアは私を見てさらにため息を吐く。まぁ、そうよね――――外行きのドレスの上に皮の胸当てに短剣を付けているのだもの。

 

「それにしても、何故護衛を冒険者に任せる? 自分の家族だろに」

「同意見ですわ。ナディアさん」

「ナディアでいい――――というか何故それを言わない」

「私は冒険者になりたいのです。それを阻止したいのでしょう」

「はい? 貴族様が冒険者に……やはり聞いた通りだ」

「どのような話を聞いていらっしゃるか存じ上げませんが。まぁ、私の父親と兄と姉は、私を家から穏便に追い出したいと思ってるのですわ」

「どういう事? 穏便に済ませたいのであれば冒険者になった方が」

「私のもつギフト――――これが問題ですわ」

「聞いている。鑑定でも不明なギフト……。話を貰った時本当かと疑ったわ」

 

 ナディアと話し込んでいると、騎士団達が兄の号令と共に動き出す。

 

「あっ、動き出しましたわ」

「おい、あなたの兄はおかしい……」

「多分ですが、私の考えではお父様……父親は私を亡き者にしたいのでしょう。ですが兄は助けて優越感を浸りたいのですわ」

「それなら……言動に納得できる」

「私は亡き者となっても良いのですけれど、そうすれば家名を捨て晴れて冒険者になれますもの」

「死んだら冒険者になれないぞ」

「死んだ設定ですわ。実際死んだら意味ないですから」

「それほど冒険者に憧れを?」

「いいえ、目的の為にです。親や家のしがらみさえ取れれば」

「目的?」

「それは言いません」

「言えない理由があると」

「言えない理由なんて無いわ。むしろ言いたいのだけれども、この状況、兄の息がかかった人達の中では言いたくないだけですわ」

 

 私の言葉に納得し頷くナディア。兄とその副団長らは馬に乗り先頭を進み、それ以外の騎士達とナディアに私は歩いて後を着いていく。

 何度も私の顔を見るナディアに、私は幾度も顔を横に振る。

 そりゃぁねぇ。妹であり家族でもある貴族が、他の騎士達と歩くなんて、もし仮に騎士団長が爵位が高くても貴族として歩かせるのはどうかと思うわ。普通なら有り得ないわ。あの兄、騎士達に多分言い聞かせているのね『妹マリベルは、体が若干弱い。体力向上の為に歩かせる』とか。まぁ、実施として受けてやるわ。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 大きく生い茂る森を目の前にする。

 馬から降りた兄は、何か掛け声をして騎士達と森に入ってしまった。

 そう、私とナディアもあとについて行くが、騎士団を見失っている。

 

「遅れを取らないと思ってたのに。見失うなんて」

「ナディア――――そんな兄から私たちに素敵なプレゼントが届くわ」

「プレゼント?」

 

 私の言葉に首を傾げるナディアは、遠くから聴こえる汚い鳴き声が耳に入り、剣の柄に手をかけ向かってく相手を待ち構える。

 敵意がある存在を察知するスキル【危険察知】が、知らせてくれるわ。ほんと、お兄様……兄ったら私が冒険者になる為に――――いや、アイリスに逢う為に魔物を譲ってくれるなんて。

 聴こえてくる複数の鳴き声。見えてくる姿。

 

「あれは、ワイルドウルフ――――数が多い」

 チラッと私の姿を見るナディアは、剣を抜きさらに身構える。そんな視線を向けられて私は、少し後退しナディアから距離を取る。

 戦力に数えられてないのだわ。まぁ私には死と隣り合わせの戦いという経験が無いのだもの。実際魔物と対峙してまともに動けるか私だって今は分からないわ。

 だけど、迫ってくる魔物は見ているの。

 

「黒いっ!!」

「ナディア! そいつらはブラックウルフよ」

「ブラック!? 魔障を受けた」

「ええ、この先に魔障が発生している証拠ね」

 

 真っ赤な目に全身黒いウルフ、ブラックウルフが5体。唸り声を上げこちらを威嚇している。

 私とブラックウルフの間に立つナディア。

 1体のブラックウルフが、吠える。

 2体のブラックウルフがナディアに襲いかかる。

 ナディアの剣に警戒し距離を保ちつつ2体のブラックウルフは、交互にナディアを攻撃している。

 ナディアも少しずつだがブラックウルフにダメージを与えている。

 ナディアとブラックウルフの攻防が続く中、最初に吠えたブラックウルフが再び吠えると、残りが動く。

 あぁ、そうよねぇ、そう動くわよね。

 2体のブラックウルフがナディアを抑えて、残り3体は、ナディアの間合いを避けつつ、あからさまに見た目が弱そうな私をめがけ駆け出す。

 

「ちょっ、ふざけんなっ!!」

 

 ナディアの斬撃が、猛威を振るう。

 赤い血のような液体が体を染めるブラックウルフは、震える足でようやく立っている。

 だが、ナディアの間合いを避けたブラックウルフの3体が、口を広げヨダレを垂らし私に向かってくる。

 顔が引き攣る私。魔障を浴びた狼でしょ――――まるでお腹を空かした野犬のようだわ。仮想だけど何度も倒しているの。

 私はスっと向かってくるブラックウルフに手を上げる。

 焦りに満ちたナディアの顔が見えると同時に、ナディアの周り鋭く尖った拳大の石が、幾つも現れ宙に浮いている。

 目を見開くナディア。

 飛び跳ね襲いかかるブラックウルフ。

 鋭く尖った石が、矢が放たれた速さでブラックウルフに突き刺され地面へと落下。

 3体とも首か頭を突き刺されていて、既に動くことすらない。

 残りの2体も既に倒れ、ナディアは呆然として私を見ている。

 見られても困るわ――――その表情、ナディア何か言いたげだけど。そんなナディアに微笑んだわ。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 マリベルとナディアがいる所から少し離れた草木が生い茂った所。2人のフォクスの部下の騎士が、マリベルとナディアの戦いを覗いている。

 

「おい、見たかあの冒険者」

「魔法だと。魔法使えるなんてあの冒険者……貴族なのか?」

「貴族が冒険者になるなんて有り得ん」

「もしかして、没落した貴族か?」

「わからんが、凄腕の冒険者だ。早くフォクス団長に報告しにいくぞ」

「あぁ」

 

 草むらを掻き分け森の奥へ消えていった。

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