第18話 探索して遺跡



 資金集め3日目



 各々昇級のために、テューナとパントラは緑依頼を、旭とマカリーは赤依頼を受けていた。


 銀級に上がるための条件として、色種別の内、3種類以上のレベルを一定のレベルまで上げる事が条件の一つとして入っているからだ。


 旭は自分のレベルに合った『角ウサギ』の討伐をこなしていた。


「うりゃ!!」


 角ウサギの頭に剣の一撃を入れ、確実に討伐していく。


 エナジードリンクの『身体強化』『集中力上昇』『俊敏性上昇』を使えば、割と簡単に討伐ができる。


「これで10。討伐完了だな」


 一息ついて、討伐した角ウサギを持って来た長い棒に括り付ける。角ウサギは角、肉、毛皮が素材になるのだ。


 角ウサギを括り付けた棒を肩に背負う。


「マカリーはどうだ?」

「こっちも終わったわよ」


 マカリーは後頭部の木の芽を成長させた木の腕で仕留めた角ウサギを持っていた。どれも状態が良い。


「一緒の棒に括り付けさせてもらうわね」


 そう言って旭の背負っている棒に括り付けていく。


「テューナ達は大丈夫かしら?」

「苦労してるんじゃないかなあ」


 3、4回受ければ最低限必要なレベルに到達するので、そこまで問題ではない。しかし、討伐しかやって来なかったテューナとパントラには、とても難しいだろう。


「とりあえず早く戻ろう。ジャンボカイトに襲われたらひとたまりもない」

「そうね」


 2人は足早に町へ戻るのだった。



 ◆◆◆



 早々に戻った2人だったが、


「遅かったな」


 先にテューナ達が戻って来ていた。


 受付には山盛りに積まれた薬草類がある。それを一つ一つ丁寧にギルドの職員達が判別していた。


「お待たせしました。まず一つ目の依頼ですが、規定の量があることが確認できましたので、依頼達成となります。他五つの依頼も確認中ですので、もうしばらくお待ちください」


 受付嬢が急いで知らせ、また判別作業へ戻っていく。


 テューナは欠伸をしながら


「人間は大変だな。目で判断しないといけないのだから」

「鼻で探す獣のやり方をするそちの方がどうかと思うのじゃがな」

「やるか?!」


 互いにファイティングポーズを取る。


「止めい二人共!! ギルドの中だぞ!!」


 旭が間に入って止めに入り、事なきを得る。


「それにしても、よくこれだけ集めたわね」


 マカリーが感心して山積みになった薬草類を見上げる。


「我輩は鼻で」

「余は家来達を使って」

「なーる」


 短い文章で全てを理解したマカリーだった。


 

 しばらくして、テューナ達の依頼の薬草の判別が終わった。


「6つの依頼全て確認した結果、全て規定の量に達していましたので、全依頼達成となります。お疲れ様でした。報酬の合計銀と剣50枚となります」


 受付嬢は疲れた表情でテューナとパントラに報酬を渡す。


「まあまあだな。しかし討伐と比べたら足りない位だ」

「その分命の危険性が低いからだよ」


 文句を言うテューナを黙らせる旭だったが、テューナは鼻を小さく鳴らすだけだった。


「アサヒさん、マカリーさん、角ウサギの討伐お疲れ様でした。こちら報酬の銀と花10枚になります」

「ありがとうございます」

「ありがとうね」


 旭とマカリーも受付嬢からそれぞれの分の報酬を受け取る。


 これで4人の今日の報酬は51万エルクトになる。まだ国境越えの金額には程遠い。


「お金も足りなきゃ階級も足りない……。そもそも色が足りないんだよなあ……」


 色種別が3種類以上必要な時点で、かなり厳しい状況だった。


 依頼掲示板に張り出されている依頼の大半は、緑か赤だ。白もちらほらあるが、昇級するには数もポイントも足りない。


「俺は白もやって来たからいいけど、テューナ達は確実に届かない。どうしたらいいんだ……」


 旭が頭を抱えていると、


「おう、アサヒ。困っているようだな」


 コンヂートが声をかけてきた。


「コンヂートさん……。このままじゃ国境を超えるのがいつになるか分かりませんよ。色が足りない……」

「そうだろうと思って、ホレ」


 旭に一枚の依頼書を渡す。そこには『青依頼』と書かれている。


「実は町の近くにある遺跡に魔物が湧いたみたいでな、どれ位いるのか調べて来て欲しいんだ」

「遺跡ですか」


 遺跡と聞くと、壮大な物を想像してしまう旭。


「分かりました。喜んでお受けします(遺跡と絶景は関連性が高いし、足りない色もカバーできるから一石二鳥だ)」


 言葉の裏で得を感じている旭を見たコンヂートはニッと笑い


「よし! じゃあ4人のパーティー編成で受注を……」

「ちょっと待ったギルドマスター!!」


 旭達の依頼受注を完了させようとする寸前で、横やりが入る。


 横やりを入れてきたのは、剣士の男、魔法使いの女、戦士の男、弓使いの女のパーティーだった。全員10代後半くらいで、青さを感じる。


 先陣を切って声を出していたのは、剣士の男だ。


「どうしてそんな新参者に貴重な依頼を任せるんだよ!! 納得いかねえ!!」

「『パウル』、この依頼はアサヒ達の実力を見込んでのことだ。ジャンボカイトを各々撃破できるパーティーなんて、この町にはいない。首都に要請したら最低でも30日以上はかかる。だから今いるアサヒ達に頼む事にしたんだ」

「でも俺達だって実力は……!」

「何があってもおかしくはない。それに対応できる実力が本当にあるのか?」

「それは……!」


 徐々にコンヂートに押され、パウルの威勢が小さくなっていく。コンヂートは溜息をついた。


「お前たちの事は昔から知っている。実力もな。だから不測の事態に対応できるだけの力はまだ無いと思っている。お前も自覚してるだろう?」

「………………」


 パウルは完全に押し黙ってしまい、俯いた。


 諦めたのを確信したコンヂートは、旭達に話を戻す。


「それじゃあ任せたぞ。期限は一応5日後までだから、気楽に調査してくれ。遺跡の場所はココだ」


 旭に簡単な地図を渡し、正式に依頼を任せる。


「はい。しっかりとやらせていただきます」


 旭はコンヂートから依頼を受けた。


 その様子を、睨むように見ていたパウルの視線に、テューナは気付いていた。



 ◆◆◆



 翌日 早朝



 旭達一行は、早速遺跡へと向かう。


 遺跡は町から北へ2時間程歩いた距離にあり、草原と森を抜ければすぐなので、焦らず進んでいく。


 途中、テューナが旭に向かって手を伸ばす。


「おいお主、エナジードリンクを寄越せ」

「? 朝飲まなかったか?」


 記憶が正しければ、朝食の時にエナジードリンクを7本飲んでいた。


「それでも足りない。最近中々満タンにならなくてな」

「おいおい、中毒起こしてる訳じゃないよな?」

「そうなる前に拒絶反応が出るだろ」

「……確かに」


 一定の量を飲もうとすると飲めなくなる拒絶反応を思い出し、その可能性は無いことを察した。


 ならば何故飲む量が増えているのか、と考えたが、すぐに結論が出ないので、取り合えず一本渡すことにした。


「それでいい」


 テューナは旭からエナジードリンクを受け取り、即座に飲み干した。


 

 それから1時間進み、森に入っていく。


 草原とは違い、鬱蒼とした森では遠くまで視界が届かない。いつ魔物が襲い掛かってもおかしくはない。


 こういう時はテューナの鼻と耳が頼りになる。


 魔物の臭い、近付いて来る音を感知してくれるので、非常に助かる。


 パントラの幽霊を使えばもっといいのだが、


「余をこき使うなぞ、千年早いのじゃ」


 と山羊の上に乗ったまま拒否された。


 テューナが煽って無理にでも動かそうとしたが、遺跡に着いてからということで、この場は煽らないことにした。


 マカリーはこの間日光浴をしながら歩いていた。


 その一方で


(後ろから付いて来てる童共はどうするか)


 テューナは後ろから付いて来ている男女4人、パウル達のパーティーの存在に気付いていた。


 大した障害にならないので放っておいているが、いつまでも付いて来るので鬱陶しく思っていた。


(まあいざとなったら何かしら役に立ってもらうか)


 雑用させるか、囮にでも使えばいいと考え、黙っておくことを選んだ。




 ◆◆◆



 町を出発してから2時間



 鬱蒼とした森が開け、ようやく遺跡へと辿り着いた。


 

 遺跡の周辺は長い草ばかり生えた土地が広がっており、その先に遺跡がドンと構えている。


 遺跡は石造りの神殿の様な場所で、1ヘクタールもある土台が広がり、テューナの背丈の何倍も高い石柱が並び立ち、床には石のタイルが敷き詰められている。


 屋根は長い年月と共に崩壊したのか、土台の床の上に大きな破片があちこちに落下している。その破片には草と苔が生え、足を踏み入れた者は殆どいないことを教えてくれる。


 神殿の奥には、一枚だけかろうじて残った壁があり、そこには半壊した像も置いてある。像は原形を留めておらず、何の像だったのか見当もつかない。



 そんな荒れ果てた遺跡には、魔物の気配が一切感じられなかった。



 旭とマカリーは首を傾げる。


「おかしいな。依頼書には魔物を目撃したって記載されてたんだけど……」


 依頼書をもう一度確認する。



『遺跡にて大型魔物の目撃情報複数あり。体長6mあり。正体不明。魔物の正体解明のため、探索を依頼する』



 内容が正しければ、ここに大型の魔物がいるはずなのだ。


 しかし、探しても遺跡には大型の魔物の姿は無く、足跡も痕跡も無い。


「普通、何かしらの手掛かりが残っててもいいはずなんだが」

「我輩の鼻でも、何も臭わんな」


 テューナがスンスンと嗅ぐが、それらしき臭いはしない。


「見間違いだったんじゃないの?」


 マカリーも何か無いかと探すが、何も見つからなかった。


「うーん。期限まで時間はあるし、張り込むしかないか……」

「余に野宿を強要するのか?」


 パントラが山羊に乗ったまま文句を言って来る。


「仕方ないだろ。その魔物は夜行性かもしれないんだから、期限一杯使って調べる他ない」

「それなら家来達だけでやればよいじゃろう。余は帰る」


 山羊の手綱を操って一人引き返そうとする。


「何だ。女王は都合が悪いと尻尾を巻いて逃げるのか」


 テューナの発言に、パントラの動きが止まる。


「何じゃと?」


 パントラはテューナを睨みつける。テューナはここぞとばかりに畳みかける。


「分かりやすく言ってやろうか? 女王様は腰抜けだ。そう言ったんだ」

「不敬!!」


 テューナの言葉に怒ったパントラは山羊から跳躍し、テューナに飛び蹴りを放つ。


「やるか?!」


 テューナも拳を放ち、蹴りと拳がぶつかり合う。


 攻撃は連続し、周囲に衝撃波を巻き散らす肉弾戦が始まった。


 その傍らで、


「じゃあマカリー、俺は右側をもう一度調べるから、反対側を頼んでいいか?」

「いいわよ。その前に集中力を上げたいからリジョンちょうだい」

「あいよ」


 旭とマカリーは魔物の捜索を再開していた。


 2人の喧嘩が始まった以上、気が済むまで終わらないので、放っておくのが吉だ。


「それじゃあよろしく」

「はーい」


 テューナとパントラの激闘を放っておいて、旭とマカリーは探索を続ける。そして山羊は巻き込まれないように距離を取って草を食べていた。



 その様子を、パウル率いるパーティーが茂みから覗き見していた。


「何だありゃ……。チームワークもへったくれも無いじゃないか……」

「ま、まあ、喧嘩くらい誰でもするから……」


 魔法使いが苦笑しながら何故かテューナ達をフォローする。


「にしても、あのパントラって人、色気凄いな。あ、あとちょっとで見えそう!」

「スケベしてるんじゃないわよ!」


 鼻の下を伸ばしていた剣士は弓使いに引っ叩かれるのだった。



 そんな会話が近くで行われている事に気付いていない旭は、魔物の足取りを一向に見つけられずにいた。


「うーん。どうして見つからないんだ……?」


 足跡、食べかす、臭い、他にも何かしらの痕跡は残るものだ。


 それが一切見つからないのは、どう考えてもおかしい。


(見間違い? けど、ハッキリと大きさが書かれてるし、複数人見てるから、その可能性は低い)


 一人だけなら見間違いの可能性はとても高いが、複数人いるため、集団幻覚でもない限り選択肢から消える。まして全長まで分かっているなら猶更だ。


(だとしたら、その魔物がどうやって姿をくらましたのか、だ)


 もし本当に6mにもなる魔物がうろついていたとしたら、デカくて目立つし、何より痕跡が何か残るはずだ。


 それなのに何も無い。


(残る可能性は、目撃されたのが、痕跡を一切残らない魔物、という可能性)


 しかしそんな魔物がいるのだろうか、旭の前の世界の記憶を頼りに、該当する魔物がいないか、頭の中で探す。


(足跡が無い。飛んでいる)


 飛んでいるなら、鳥型と分かるはず。その情報が無いということは、鳥型の可能性は限りなく低い。


(……足が無くて、飛ぶ?)


 旭は該当する種族に行き当たる。だが、6mもある存在は聞いたことが無い。


(でも、それ以外の可能性は……)



 ◆◆◆



 パウル達は聞き耳を立てて、旭達の様子を窺っている。


「ちくしょう……。戦闘音が激しくて全然聞こえない」


 まだテューナとパントラの戦闘が続いており、その戦闘音が激しく、周囲の音を消している。


「いやいや、あの人会話してないから」

「何かブツブツ言ってるだろ。もしかしたら魔物の正体に気付いたかもしれない。何とか聞いて先回りで俺達で討伐すれば、手柄は俺達の物だ!」

「「せこいなあ」」


 魔法使いと剣士に嫌な顔をされる。


「な、なんだよ!? 上を目指したくないのかよ!!」

「いやいや、上に上がるのとせこい真似するのは別の話だから」


 魔法使いに拒否され顔を真っ赤にするパウルだったが、


「ねえ、何か寒くない?」


 弓使いが自身の体を摩りながら聞いて来る。


「……そういえば肌寒いな。雨か?」

『COoOOOOO……』


 背後から突然聞こえてきた囁きに、パウル達は肩を一瞬震わせ、ゆっくりと振り向く。


 そこには



 

「うーん。どうなんだろう……」


 一人悩んでいた旭。



「「「「うわあああああアアアアアアアア!!!!!」」」」



 次の瞬間、森からパウル達が飛び出して来た。


 旭とマカリー、そして山羊は驚いてパウル達の方を見る。


 

 パウル達の後ろから、追いかける巨大な魔物が見えた。



 体長6m。白濁で半透明の巨大な骸骨が、パウル達を追いかける。


 骸骨は神官の様な衣服を着ており、周囲に青白い火の玉も浮いている。



「やっぱり幽霊ゴーストだったか!!?」


 旭は巨大な幽霊を見て、自分の予想が当たっていたことを確信する。


「た、助けてくれえええええ!!!」


 パウルは慌ててテューナとパントラの元へ走る。


 2人は戦闘をしながらパウルを睨み、 



「「うるさい!!!!!」」



 顔面に蹴りとパンチが叩き込まれた。



 パウルは顔面から出血しながら、綺麗に回転して宙を舞う。


「「「パ、パウルウウウウウウウウウウ!?!?!?」」」


 パーティーメンバーが思わず絶叫し、


「何やってんだアイツら……!!」


 旭は思わず顔を伏せ、


『Ee……』


 巨大な幽霊も思わずドン引きして声を漏らすのだった。


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