第5話 求めて情報
山賊達を倒した翌日
旭達はギルドの奥、応接室に呼ばれていた。宿代はギルドが出してくれて、野宿にならずに済んだ。
「こちらが報奨金になります。お受け取り下さい」
受付嬢は対面して座る二人に、袋に入った報奨金を渡す。
こちらの世界でのお金は、プレス加工で作られた様な精巧な作りをした硬貨だ。銅、銀、金の金属、硬貨に描かれている花、剣、女神の図柄で金額の桁を表している。銅と花で1桁,そこから順に上がって、最高は金と女神で9桁になる。単位は『エルクト』だ。
今回渡されたのは、昨日倒した山賊の報奨金分として、銀と花の硬貨が200枚。円換算で20万円になる。
(これはいきなり大金を手に入れてしまったぞ)
焦る旭だったが、テューナはお金の存在を最近まで知らなかったため、無関心だった。
「あ、ありがたく頂戴します」
旭は丁寧にお礼を言って、報奨金を受け取る。
「あと、これはギルド長からです」
受付嬢は懐から更にお金の入った小袋を渡してきた。
旭は小袋を受け取る。
「中身を確認しても?」
「どうぞ」
中身を覗くと、そこには銀と女神の硬貨が10枚入っていた。つまり100万円に相当する。
「ぶは?!!」
あまりの金額に旭はひっくり返ってしまう。
「どうしたお主? 蛙みたいにひっくり返って」
「な、なんでこんな大金を……???」
受付嬢はコホン、と軽く咳ばらいをして、説明を始める。
「この間テューナ様が倒したゴリアですが、実は山賊達と裏で繋がっていたんです。それで不正に利益を得ていました。ですが、テューナ様に叩きのめされたのが効いたのか、自分の罪を全て話し、膝を抱えて大人しくしています」
旭はテューナの方を見る。
「……何したの?」
「大したことはしていない。軽く骨を何本か折ってやっただけだ」
(全然軽くねえよ)
あえて言葉にせず、心の中に留めた。
旭は受付嬢の方に視線を戻す。
「で、どうしてこんな大金を? 俺達に伝えたら漏洩する可能性だって……」
「……この事はいずれ表に出ます。その時になって隠蔽していた事がばれれば、ギルドの信用問題に関わります。ギルド長は熟考の末、然るべき報酬をしっかりと渡しておくべき、という結論に至ったそうです」
「そういう理由ですか……」
ここのギルド長は善良な人だと感じた旭だった。
「そして、これはお二方が昨日受けた依頼分の報酬になります」
旭の牧場での依頼分銅と女神の硬貨5枚、テューナの討伐依頼分銀と花の硬貨4枚を受け取る。
これで当面の資金を得られてホッとする旭だった。
「ここまで依頼の報酬の話でしたが、ここからはお二人のレベル、階級の件になります」
受付嬢は応接室に入る前に受付で受け取ってた二人の冒険者カードを返す。
「今回の件で、テューナ様、アサヒ様は銅級から鉄級へ昇級になります。おめでとうございます」
冒険者カードの階級の欄が更新され、『鉄級』になっていた。
「お話は以上になりますが、何か質問はございますか?」
「じゃあ、俺から」
旭は受付嬢に質問する。
「『夜天の主』について、何か知りませんか? 天海の島のこととか」
「夜天の主に、天海の島、ですか……」
受付嬢は自身の記憶を辿る。
「……すいません。私が知る限りではその2つに関して何も知りません……」
「そうですか……」
すぐに手掛かりが掴めるとは思ってなかったとはいえ、それでも少しガッカリする。
「この町だと、知っている人はいないと思います……。何分田舎なので……」
「そう、ですか……」
明らかに肩を落とす。受付嬢は少々慌てて
「で、ですが! ここより大きな町に行けば情報も得られるかもしれません! ここから西に行った『ザンメング』はここよりずっと立派な町ですので、きっといい情報が得られますよ!」
「ザンメング……。……次の目的地は決まったな」
旭はすぐに立ち直り、顔を上げる。
「情報ありがとうございます受付嬢さん。俺達はザンメングに向かいます」
「……分かりました。ギルド長には私から伝えておきます。道中、お気をつけて」
受付嬢は惜しそうな表情になりながらも、冒険者の本質を理解しているので、引き留める事はしなかった。
◆◆◆
旭達はギルドを後にし、ザンメングへ向かう準備を始める。
「まずは物資調達だ。食糧に着替え、装備も欲しいな」
「それはいいが、我輩は腹が減ったぞ」
テューナは腹をグウグウ鳴らしていた。
元の姿は全長5mもあるキマイラだ。それ相応に腹が減るのは当然の事だ。
「……分かった。確か向こうに飯屋があるはずだから、そこで食べててくれ。その間に色々買ってくる」
「そうさせてもらう」
テューナにさっき受け取った報奨金の4割、銀と花の硬貨80枚を袋で渡す。
「支払い方は分かるな?」
「お主の記憶を見てるから分かる」
「そうですか……」
旭は苦い表情をしながら、テューナと別れた。
旭はまずザンメングまでの道のりを調べる。
ギルドに地図があったので、受付嬢に地図を出してもらい、道を調べる。
(ここからザンメングまでは歩いて2日程度かかるのか。なら余裕を持って食糧は4日分位買うか)
算段を付けて、食糧調達を始める。
露店で長期間持つ干し肉、果物、硬いパンを買い込んでいく。ついでに荷物が簡単に零れないように、丈夫なバッグも買っておいた。
次に装備。
防具屋へ出向き、装備を見ていく。
「お前さん、装備を買うのは初めてかい?」
店主である小太りの老人が声を掛けてくる。
「……分かります?」
「挙動を見てれば嫌でも分かる。しかしその歳で装備を買ったことないのか。元々商人か農民だったか?」
「まあ、そんなところです……」
異世界人と言っても信じてもらえないと思い、言葉を濁した。
「お前さんみたいな素人なら、これとこれがいいだろ」
そう言って店主は旭に革鎧と剣、革製ブーツを渡してくれた。
「靴もですか」
「長距離歩くんだろ? その靴の状態を見れば分かる。鎧はなるべく動きの邪魔にならず重過ぎない革製が良いし、あらゆる地形で戦いやすく素人でもそこそこ戦える剣も最適だろう」
旭は店主の説明に納得し、
「確かにそうですね。ではこれを」
店主に注文する。
「あいよ。銀と女神2枚。無けりゃ銀と剣20枚だ」
「はい」
旭は素早く銀と女神2枚を渡した。
「気前がいいじゃねえか。装備していくならそこの隅で着替えな。剣を吊るための腰ベルトと鞘はおまけで付けてやる」
「ありがとうございます」
素早く鎧と剣、靴を装備し、ちゃんと動けるか感触を確かめる。
「……よし。問題なし」
「そりゃ良かった」
旭は買い物が済んだので、店を後にした。
◆◆◆
「これで全部かな」
着替えを買おうと探したが、この町には服屋が無く、月に2回来る商人から買い付ける他無いとのこと。なので服は諦めた。
それでも荷物の量は多く、バッグ5つ分になってしまった。何とか紐でまとめているが、一歩間違えれば落としそうだ。
(とりあえずテューナのいる飯屋に行くか)
「おや。君は昨日の冒険者じゃないか?」
振り向くと、昨日依頼を受けた牧場主がいた。その手には縄を持っており、縄は山羊の首に括り付けられていた。
「牧場主さん。今日は町に用事ですか?」
「急な肉の注文でな。さっき卸して来たんだ。……それにしても、随分な荷物だな」
牧場主は旭の背負っている荷物を見る。
「ええ。ザンメングに行くための準備をしてまして」
「そうか、町を出ていくのか。忙しいな」
牧場主は連れている山羊を見る。
「……どうだろう。この山羊を荷物を運ぶ駄獣として買わないか? 安くしとくよ」
「いいんですか?」
「食肉用に育ててたんだが、如何せん力が強過ぎるオスで手が付けられないんだ。こうして駄獣にしたのは良かったが、いまいち活用できていなくてな。だから大荷物の君にならいいかと思って」
この大荷物をテューナが交代で持ってくれるとは思えない。ならば、荷物を運んでくれる存在がいてくれるのは非常にありがたい。
旭は持ち金の入った袋に手を入れて
「いくらですか?」
値段を聞く。
「今なら銀と花10枚」
「……買った!」
少し迷ったが、今後の事を考え惜しみなく金を払うことにした。
「まいど」
牧場主は山羊を旭に渡し、牧場へと帰って行った。
旭と山羊は、互いに顔を見合わせる。
山羊は体長2m弱あり、肩高は1mある大柄だった。全身白で、角は立派な物が生えている。
「思ったよりデカいが、まあ荷物を運べるならいいか。よろしくな」
旭が手を伸ばすと、山羊は伸ばしてきた手にガブウ!! と思いっきり噛みついた。
「アイタタタタタタタタタ!!?」
思わず手を放そうとするが、中々離さない。
何度か手を全身で振って、ようやく放してくれた。
「痛いなもう!!」
「メ~」
ドヤ顔で鳴いて来る山羊に殺意が湧いて来る。
(こんのクソ山羊……!! 今に見てろ……!)
思っても口には出さない旭だった。
噛んできた割にはすんなり荷物を背中に乗せてもらえた。山羊は素っ気ない態度だが、素直に縄で引っ張って方へ来てくれる。
「しつけてくれた牧場主さんには感謝だな」
そんなことをぼやきながら、テューナがいる飯屋へ向かう。
「ん?」
飯屋まで行くと、飯屋の前に大勢の人だかりができていた。人だかりからは時々歓声が聞こえる。
「何だ? 何かあったのか?」
旭は気になって何とか中を覗こうと背伸びしたり横へ回り込んだりと動き回る。
すると、店の中から
「おい。追加注文」
「はいただいま!!」
聞き覚えのある声が聞こえた。
(今の注文する声、テューナだったような……)
聞き耳を立てて声をもう一度聞こうと試みる。
「おいすげえぞあの女!!? 一体どんだけ食うんだ!?」
「あんなになっても食い続けるなんて、どんな体の構造してるんだ……?!」
「……ん?」
人だかりの言葉を聞いて、嫌な予感がした。
さっき牧場主が言っていた急な肉の注文。そして人だかりの言葉の内容。
そこから導き出されることは。
「まさか!!?」
旭は慌てて窓から店に侵入する。
目に映ったのは、飯屋の真ん中で、ひたすら食い続けているテューナの姿だった。
そのお腹は、漫画で食べ過ぎて腹が膨らんでいる描写をそのまま体現されたように大きくなっており、自身の体よりも二回り以上膨れている。
それでもなお食べ続け、次々運び込まれてくる料理をペロリと食べ尽くしていく。
「ガッ! ガッ! ガッ! ガッ! ガッ!!」
凄い咀嚼音を上げながら、料理をこれでもかと食べ続ける。
目の前のテーブルには、テューナが食べた料理が乗っていたであろう皿や器が山積みになり、調理された大型の家畜の骨が転がっていた。
旭はその光景を唖然と見ていた。
テューナは食事をしながら、旭の存在に気付いた。
「おう、来たか。足りない分は任せた」
「はい???」
「あ、お連れ様ですか?」
店員が旭に近付く。
「こちら、追加注文分の料金になります。お確かめ下さい」
渡された木板には、合計100万エルクト分の請求が書かれていた。
キマイラの食欲を舐めていたわけではないが、ここまで食べるとも思っていなかった。
旭は膝から崩れ落ちた。
「…………ふぐう!!!」
手に入れた大金の殆どはテューナのおかげなので強く言えないが、それでも大金が一瞬で消えた喪失感には耐えられず、短く叫ぶしかなかった。
所持金:1万エルクト 銀と花10枚
◆◆◆
翌日 早朝
旭、テューナ、山羊はネオンガーヘンから出発した。
山羊に荷物を載せ、旭が縄で連れているが、旭は明らかに肩を落としていた。
「どうしたんだお主? そんなに不貞腐れて」
「誰のせいだ誰の!」
詫びれるどころか疑問を感じているテューナにツッコミを入れてしまう。ちなみにテューナの体形ははすっかり元に戻っていた。
「今後は狩りをして食費を押さえないとなあ……」
「狩りなら任せろ。大抵の奴なら食い殺せる」
「食うな!!」
2人は言い合いながら、次の町『ザンメング』へと向かうのだった。
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