第4話 稼いで資金
ギルド直営の宿で一晩泊り、朝になった。
男女一緒でも、片方が魔物なので何か間違いが起きる事はなく、2人共普通に起きて伸びをする。
2人は朝からエナドリを飲み、頭を冴えさせる。
「今日はどうするんだ?」
「とりあえず金を稼ごう。じゃないと明日が無い」
次の町に行くにしても、資金が無いとお話にならない。なので朝一でギルドに向かって仕事を探す他無いのだ。
ギルドの扉を勢いよく開け、依頼掲示板を見る。
「えっと、俺達が受けれそうな依頼は……」
「これでいいだろ」
テューナが一枚掲示板から剥がす。
「これを受付に持って行けばいいんだな? おい受付の童。依頼を受けさせろ」
「待てい!?」
独断専行するテューナの肩を掴んで止める。
「何だ?」
「その依頼、見せてもらおうか」
依頼種別:赤
依頼内容:ブラックウルフ討伐
「ダメです」
旭は最初の部分だけで却下した。
「これ位なら食い殺してたぞ?」
「俺が食い殺されるわ!!」
旭は安全を取り、
「受けるんだったらこっちの緑の方が良い! 安全第一!」
緑の採集の依頼を提示する。
「そんなものではいつまで経っても金が入らないだろ。ここは大きい依頼を受けるべきだ」
「リスクが高すぎる!」
「あの~……」
言い合いする2人の間に、受付嬢が割り込んでくる。
「それでしたら、別々で受けてはどうですか?」
「「…………………………」」
少しの間の後、2人は同時に手を打つ。
「「それだ」」
◆◆◆
旭は町のすぐ近くにある牧場に赴き、牧草の運搬の『白』の依頼を受けていた。
牧場は町から歩いて30分程度の場所、長い草が生えた草原の中にある。肉食用の家畜が飼われており、のびのびと放牧されている。
刈り取った草原の草を乾かして作った牧草を籠に詰め、家畜のいる小屋へと持って行く。これを何往復も行う。籠一杯に詰めると重さ10㎏近くになるため、重労働だ。
旭はエナドリの力を借りながら、せっせと運搬作業を進めていく。
(しんどいが、これも今日の稼ぎのためだ。頑張らないと)
息を切らしながら、牧草を次々と運んで行った。
作業は夕方までかかり、何とか全部の牧草を運ぶことができた。
旭はヘトヘトになっていた。
「つ、疲れた……」
「ご苦労さん。はいこれ依頼完了書」
依頼は依頼人に依頼完了書を渡し、完了次第依頼人がサインして冒険者に返し、ギルドに提出して依頼完了となる。
旭は依頼人である牧場主から依頼完了書を受け取る。
「ありがとうございます……」
「こちらこそありがとう。こういう依頼を受けてくれる人、中々いないから助かったよ」
笑顔でお礼を言われ、旭は嬉しくなった。
(……こうやってお礼を言われるのって、久し振りだな)
旭もつい笑顔になる。
依頼完了書を持ってギルドに戻る途中、先を歩くテューナを見つけた。
「テューナ、依頼は終わ……」
テューナに話しかけようとして、先に気付いたテューナが振り返る。
全身に返り血を浴びており、えぐい見た目になっていた。
「お主か。こっちも終わって完了するところだ。そっちは?」
「あ、うん。ちゃんと終わったよ」
返り血まみれの姿に引きながら、肩を並べて町へ戻る。
「ああそうだ。エナジードリンクを寄越せ。そろそろ切れそうだ」
「切れる? 何が?」
「【変化】がだ」
テューナの体がボコボコと変形し、今にもキマイラに戻りそうだった。
「え、は?! 何で!?」
「説明は後だ。5本寄越せ」
「お、おう!!」
旭は慌ててエナジードリンクを出現させ、テューナに渡す。テューナは素早く缶を開けて飲み干し、5本全て空にした。
「ふー、これでよし」
「い、一体何が起きたんだ?」
動揺する旭。テューナは平然と説明を始める。
「魔力切れだ。そのエナジードリンクには濃縮された魔力が入っている。そのおかげで我輩はこの姿を保っている」
「そんなの聞いてないぞ」
「聞かれなかったからな。てっきり気付いていると思っていたぞ」
ここ数日バタバタしていて、スキル『エナジードリンク』について全く調べていなかった。
むしろ自分が知らない事ばかりなのに気付き、何も言えなかった。
「まあ知らないというのなら、エナジードリンク100本で知らない事を教えてやってもいいぞ?」
「……お願いします」
「ではエナドリの魔力についてだが……」
テューナが話始めようとした時だった。
草原の中から、複数の男達が現れた。
人数は10人。全員武器を持っていて、どう見ても敵意をむき出しにしている。
「……何だお前ら?」
テューナが不愉快そうに男達を見る。
「お前らが連れを捕まえた奴らだな?」
「報復させてもらうぜ!!」
その風体と口ぶりからして、どこの関係者かすぐに分かった。
「あの山賊の仲間か。わざわざ仇討ちに来るとか、律儀だな」
「御託は良い!! やるぞお前ら!!」
蛮声を上げて旭とテューナに突っ込んでくる。テューナは面倒臭そうにしていたが、何か思いついた。
「ちょうどいい。狩りついでにどんな能力が備わっているのか教えてやろう」
そう言って指をパキパキと鳴らしながら前に出る。
「まずはエナドリによって得られる大量の魔力。これで我輩はこんな身でも……」
大きく拳を振りかぶり、山賊達に向かって振り下ろす。
ドゴン!! という爆発と共に、地面が抉れ、山賊の半数が吹き飛んでいく。
「ギエー!!!?」
「アバー!!!?」
吹き飛びながら絶叫し、道に真っ逆さまに突き刺さった。見事に上半身だけが刺さり、下半身をピクピクさせている。
「こんな風に、元の力を存分に発揮できる。普通なら大幅に減衰されるがな」
「この女!! 舐めやがって!!」
山賊の一人が剣を振り上げて襲い掛かる。
「魔力を得られると同時に、飲んだ種類によって効果が得られる。例えばこの『クリーチャー』」
さっき飲み干した『クリーチャー』を旭に見せる。
「こいつは『身体強化』が得られる。おかげで」
山賊はテューナに剣を振り下ろす。
振り下ろしたのと同時に、テューナの蹴りが炸裂する。
蹴りは剣の側面に直撃し、見事へし折って見せた。
「へ?」
山賊が間抜けな声を出して隙を見せた瞬間、テューナの左ストレートが山賊の顔面に叩き込まれる。
顔面に拳がめり込み、悲惨な状態になって気絶し、倒れた。
「硬い金属を素手で破壊する力を得られる。他には『ルビーホース』で『俊敏性上昇』、『リジョン』で『集中力上昇』、『ファンタジープラチナ』で『魔法魔術威力増加』等がある。というか、缶の側面に書いてあるぞ」
「え」
エナジードリンクを出して確認すると、確かに成分表の効能欄にこちらの世界の文字で書いてあった。
「嘘だろ……。今まで気付かないって……」
本気で凹み、その場で膝をついてしまう。テューナは呆れた表情で旭を見つつ、襲ってくる山賊を蹴散らしながら説明を再開する。
「欠点を言うならば、どのエナジードリンクも共通して有限という所だ。使い続ければ使えなくなるし、効果も切れる。その目安がこれだ」
テューナは右肩を露わにし、そこに描かれているモノを見せつける。
それはスマホのバッテリー残量を表す、電池の様な模様が浮き上がっていた。
残量は満タンより少し減っているように見える。
「この模様の器に入っているモノが、エナジードリンクで得られた魔力の残量になる。これが無くなると、効果切れ、魔力切れというのが一目で分かる」
「俺にも同じモノが……?」
「いや、お主は腕だ。昨日寝ている間に見させてもらった」
「ぎゃー! 変態!!」
思わずツッコんでしまう旭だったが、恐る恐る両腕を確認する。
旭の右腕に、テューナと同じ模様を見つけた。
残量は満タンから2割程減っていた。
(もしかして、エナドリを飲んで体が軽かったのは、これのおかげか……?)
山を登った時、牧場で仕事をした時に感じた漲る感覚は、そういう事だったのかと納得する。
テューナは山賊達を地面に突き刺し、最後の一人まで追い込む。
「こ、この化け物が……!」
山賊は狼狽えながら、剣をテューナに向ける。
テューナは退屈そうにあくびをした。
「つまらん。相手にもならない」
後ろにいる旭の方をチラリと見る。
「丁度いい。実戦で効果を試してみろ。あれ一人ならお主でも十分勝てるぞ」
「いやいやいや!! 凶器持った人間相手とか勘弁してくれよ!?」
旭の人生で、殴り合いの喧嘩は記憶上一回もなく、まして凶器を持った人間を相手にすることなど無縁だと思っていた。
そんな経験貧弱の人間が勝てる見込みなど絶対に無い。
拒否する旭にテューナが凄む。
「いいから。やれ」
「はい」
あまりの迫力に負け、しぶしぶ前に出る。
山賊の男は剣を構えて旭に近付く。
「連れを柵みたいに刺しやがって……! 絶対許さねえぞ!!」
剣を振り上げ、旭に襲い掛かる。
逃げ腰になる旭。後ろには殺気を放つテューナが待ち構える。
(前門の虎後門の狼!! もうやるしかない!!)
窮地に追い込まれた旭は、歯を食いしばって前へ出る。
(こういう時は、初撃を躱して反撃で一撃だ!!)
決意が固まったせいか、体が思ったより早く、力強く動ける。柔らかい地面の道を踏みしめ、一気に距離を詰める。
山賊の男は大振りの一撃を振り下ろす。
旭にはその一撃が、ほんの少し遅く見えた。おかげで、ギリギリのところで体を反らし、回避することができた。
剣は空を切り、山賊は切り返しをしようと体を捻り、下段斬りを放ってくる。
「あっぶね!?」
旭はすぐさま頭を下げて回避し、またしても剣は空を切った。
(ここだ!!)
大きく足を振り上げ、剣が戻って来る前に蹴りを放った。
グシャ!!! という音を立てて、蹴りは山賊の股間に直撃した。
「まおばあ!?!?!?」
意味不明な言葉を放ちながら、山賊は変顔をしながら股間を押さえて悶え苦しみ、地に付した。
旭は苦しんで動けなくなった山賊を見下ろした後、テューナの方を向く。
「た、倒したのか……?」
テューナは微妙な表情をしながら
「まあ及第点だ。初めてならよくやったほうじゃないか?」
一応褒めてくれた。
緊張の糸が切れ、旭はその場で尻もちをつくようにして座り込んだ。
「よっし……!」
そう言って、小さくガッツポーズをして、喜ぶのだった。
2人は山賊達をギルドに捕縛してもらい、臨時収入を得ることに成功した。
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