第3話 ギルドで冒険者



 キマイラと共に行動を開始した旭は、次の町『ネオンガーヘン』へ向かっていた。



 その途中



「おい兄ちゃん。持ってるもん全部出しな」

「出さなきゃ殺すぜ!」


 計8名の山賊に絡まれた。



 ボキ!! ドス!! グシャ!!



「で、何だって?」

「「「すみませんでした……」」」


 キマイラの手によって、山賊はボコボコに叩きのめされた。


 この間僅か3分。


(コントかよ)


 旭は心の内でツッコミながら、正座させている山賊達をどうするか考える。


「このまま置いていくのも他の人達の迷惑になるし、かと言って町まで連れて行くにもなあ……」


 次の町まで世話をする余力は無い。


 旭が困り果てていると、


「なら食い殺すか」


 キマイラが元の姿に戻ろうとする。


「待て待て! 食うって発想から離れろ!! おっかない!」

「何を言う。我輩からして見ればそこら辺の獣と変わりないぞ」

「獣に失礼だよそれは」

「サラッと俺達の事獣以下って言ったぞこのガキ」


 思わず口に出してしまう山賊だった。


「とにかく、むやみやたらに人を殺すのは駄目だ。OK?」

「……まあ食っても骨ばかりで美味くはないからな。受け入れよう」


 思いとどまってくれた事にホッとする旭だった。


 

 再びどうするか考えている最中


「おい、何があった?」


 目的地の方向から、革鎧を着た剣士の男に話しかけられた。後ろには似たような装備を着た男達が数人いる。


「あなた達は?」

「俺たちはネオンガーヘンの冒険者チーム『ガード』という者だ。山賊討伐に来たのだが、これは一体……?」

「これはですね、そこにいる彼女が倒したんです」


 そう言って旭はキマイラの方を指を差した。キマイラは山賊達を踏んでいた。


「何だ? 何か用か?」

「えっと、山賊を倒したのは、貴方ですか?」

「我輩だが」

「お名前をお聞きしても?」

「我輩の名前? 我輩はk……」


 キマイラが自身の名を喋ろうとした瞬間、旭が勢いよく止める。


「(お前!? 今キマイラって言おうとしたか?! それはマズイ! 騒ぎになる!!)」


 旭は小声でキマイラに言わないよう釘を刺す。


「(ではどう名乗れと?)」

「(そ、そうだな……、じゃあ……)」


 旭は急遽名前を考え、とりあえず良さげな名前を伝える。


 キマイラは数度頷いた後、改めて自己紹介を始める。


「我輩は『テューナ』だ。よろしく」


 キマイラは胸を張ってテューナと偉そうに名乗った。


「そ、そうか。よろしく」


 何だか偉そうだなコイツと思いながら、挨拶するガード一同だった。



 ◆◆◆



 ガードの面々に山賊を捕縛してもらい、旭達は帰還するガードに付いていくことにした。


 旭は髭面のお兄さん、ガードのリーダー『メイカル』に自分達の事をかいつまんで話す。


「なるほど。君達はその夜天の主のいる天海の島を目指して旅をしているのか」

「はい。何か知っていれば教えて欲しいんですが」

「すまないが、俺達も今初めて名前を知ったからなあ。町で聞き込みをすれば何か分かるかもしれないぞ」

「なるほど、ありがとうございます」


 そんな会話をしながら歩いて行き、半日しない位で目的の町『ネオンガーヘン』に到着した。


 町は平原の真ん中に位置しており、魔物対策として町の周りは堀が掘られている。堀を超えた所に木の柵も立てられ、簡単には侵入できず。防衛もし易い構造になっている。


 町に入るゲートには、番兵が立っていた。


「ガードの皆さん、お疲れ様です」

「ああ、番兵さん。お疲れ様です」


 互いに挨拶し、軽く会釈する。


「山賊達を捕縛しましたか! これでしばらくは安心ですね」

「そうだな。これ以上山賊が湧かないのが良いんだが」

「ですね。……ところで、そちらの方々は?」


 番兵は旭達の方を見る。


「彼らは旅人らしい。男性の方がアサヒ、女性の方がテューナだそうだ」

「初めまして、アサヒです」

「テューナだ」


 2人はメイカルに紹介され、挨拶した。


「これはどうもご丁寧に。そしてようこそ、ネオンガーヘンへ」


 番兵は2人を歓迎し、ゲートを通す。



 町はのどかな田舎町といった雰囲気で、穏やかな空気が流れていた。


 石造りの家が点在し、川と小さな水路が緩やかに町中を流れており、町人はにこやかに過ごしており、子供たちも元気一杯に走り回っている。


 店は露店が開かれ、そこそこ活気がある。野菜と果実、肉、日用品等が売ってある。


 

 しばらく進むと、町の中心に大きめな建物が姿を現す。


 石造りの3階建て、城下町と同じオレンジ色の屋根をしている。


 建物には多くの人が出入りしているのが見えた。看板には、『ネオンガーヘン冒険者ギルド』と書かれている。



「ここがこの町のギルドだ。立派だろ?」

「ギルドって何だ?」


 テューナが腕を組んだ状態で質問する。メイカルは目を丸くしながら


「ギルドを知らないのか?」

「森で暮らしてたからな」


 堂々と答えるテューナ。それに動揺してしまうメイカル。


「そ、そうか。じゃあ簡単に説明すると、ギルドは冒険者をまとめている所だ。俺達冒険者に仕事を斡旋したり、仲介してくれたりする。冒険者の登録もギルドがしてくれるから、色々と世話になる場所でもあるな」

「なるほど。大体分かった」


 テューナはメイカルの説明で何となく理解した。


「それじゃあ俺達はギルドに行って山賊を引き渡すが、アサヒ達も来るか?」


 旭達には身元を証明する物が無い。ギルドで証明書を手に入れるなら好都合だ。


「そうですね。お言葉に甘えて」


 ガードに付いていき、ギルドに入っていく。


 ギルドの中は、広いラウンジの奥に受付カウンター、サイドに冒険者が休むテーブルと椅子、依頼を張り出す掲示板がある。


 入って行くと、山賊を連れて来たガードの面々を見て、受付嬢が慌てて近付いてくる。


「山賊をもう捕まえたんですか!? てっきり明日までかかるかと……」

「実は、山賊を捕まえたのは彼女なんだ」


 メイカルが紹介しようと振り向くと、テューナの姿が無かった。


「あれ? テューナさんは?」


 ガードの面々、旭も周囲を見渡すが、どこにもいない。


(まさか、町を歩いているときにはぐれたのか?)


 旭がギルドの外へ出て確認しようとした時だった。



 大男が壁をぶち破ってギルドの中に放り込まれた。



 男は勢いそのままでテーブルに落下し、テーブルは音を上げて破壊される。


 そして、壁に空いた穴から、テューナが入って来る。


「この程度で一番強いだと? 笑わせてくれる」


 テューナは悪態をつきながら、気絶している大男の頭を踏みつけた。


 突然の事態に、周囲の人達は驚いていたが、旭だけは絶望に満ちた表情で頬をすぼめていた。


(おいいいいいい!!? 何いきなりトラブル起こしてんだコイツぅ?! いくら世間知らずだからってこれはダメだろオ!!!?? てか足退けろ!!)


 心の中で絶叫し、テューナを睨む。


「何を変な顔で睨んでるんだお主は?」


 全く気付いていないテューナに更に頬をすぼめて睨みを利かす旭だった。


「す」


 受付嬢が震えながら声を漏らす。そして


「凄いですテューナさん!? あのゴリアさんを倒してしまうだなんて!!」

「素行が悪くて注意したくても強過ぎて手が付けられなかったあのゴリア倒すだなんて、とてつもなく強いじゃないかテューナさん!!」


 周囲は歓喜してテューナを褒め称えた。


(まさかのギルドにいた悪者倒した展開かー。何やってたんだギルド……)


 旭は内心呆れつつ、結果オーライになったことに安心した。


 

 ◆◆◆



 気絶しているゴリアを退けた後、旭達はギルドの説明を受けることにした。



 受付嬢がカウンターで説明を始める。


「お二人とも、冒険者やギルドに関してお聞きしたいとのことでしたので、ご説明させて頂きます」


 受付嬢は説明用の資料(木板)を二人の前に出す。


「まず冒険者についてですが……」


 冒険者とギルドについては、さっきメイカルから聞いたものと一緒だったので割愛。


「次に、冒険者の『レベル』と『色種別』、『階級』についてご説明します。『レベル』はこなした依頼に付与されているポイントが加算されることでレベルが上がり、その冒険者がどれだけ依頼をこなしたのかが分かるようにするための仕組みです。依頼は基本的に『採集』『討伐』『探索』『雑用』『護衛』の5つに分類されてまして、『採集』=『グリーン』、『討伐』=『レッド』、『探索』=『ブルー』『雑用』=『ホワイト』、『護衛』=『黄色イエロー』で分けられています。ですが、どれかに偏ってポイントが貯まってレベルが上がっていると、高レベルでも得手不得手が出てしまいます。それを分かりやすく判断するのが『色種別』になります」


 受付嬢は資料の該当する部分を指差しながら説明を続ける。


「『色種別』はいわゆる内訳、どのようにしてレベルを上げたかを一目で分かりやすくした仕組みです。これによって緑、赤、青、白、黄色の依頼をどれだけこなしてポイントを貯めてレベルを上げてきたかが分かります」


 そして、最後の『階級』について説明する。


「『階級』は冒険者のレベルに応じて付けられ、階級が上がるにつれて受けられる依頼の種類、報酬の追加等が特典として付与されます。階級は一番下から『銅級』『鉄級』『鋼級』『銀級』『白銀級』『金級』『白金級』となります。昇級の条件は後程別の資料でご確認ください。お二人は『銅級』からになりますので、頑張って昇級を目指してください!」


 受付嬢は笑顔で応援してくれた。


「はい。頑張ります」


 旭も笑顔で答えたが、テューナは素っ気なかった。


「説明は以上になりますが、ご質問はありますか?」

「ないです」「我輩もない」


 2人同時に返事をする。


「かしこまりました。では冒険者の証明書になる『冒険者カード』をお作りします。こちらの木板に必要事項を記入してください」


 旭とテューナは木板に氏名、年齢、性別を書いていく。


「おい、年齢とは何のことだ?」

「四季を越した回数」

「そうか」


 テューナはそう聞いて『19』と記入した。


「それは詐称では?」

「事実だ」

「マジか……」


 そんな会話をしている内に、2人は必要事項を書き終え提出する。


 

 それから1時間後


「お待たせしました。アサヒ様とテューナ様の冒険者カードです。どうぞお受け取り下さい」


 受付嬢が二人にカードを渡す。


 カードにはさっき書いた情報と、右側に銅を表すこちら側の世界のスペルが書かれていた。カード自体は壊れにく金属製となっており、簡単には破損しないようにできている。


「冒険者ギルド連合公認カードですので、他の町でも有効です。本日から使えますので、お気軽に依頼を受けてみて下さい。それでは失礼いたします」


 そう言って、そそくさとその場を去っていった。


 テューナは初めて見るカードを様々な方向から眺めていた。


「こんな物で存在が証明されるのか。薄っぺらいな。お主もそう思わないか?」


 旭の方を見ると、旭は黙々と『冒険者のしおり』と称された木板を読んでいた。


「……とりあえず一通りの事は覚えた。そして今、重大な問題に直面している」

「何だ?」


 旭は真剣な表情でテューナを見る。


「金が無い」



 旭の所持金:本日の宿代で0


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