第8話 戦ってミイラ



 襲い来るミイラから逃げる旭達



 テューナは助けたくてもどうしようもないので、一旦放置して倉庫から撤退する。


「これからどうするんだい!?」


 ドムトルは走りながら旭に聞く。


「とりあえず外へ連れ出しましょう! ここじゃ物理的に被害が出ます!」

「それはいい案だ!」


 使用人が窓を開け、そこから3人は中庭に脱出する。後から追いかけてくるミイラは、足の跳躍だけで外に飛び出してくる。


「何で動きが機敏なんだあのミイラ?!!」


 思わずツッコんでしまう旭だったが、中庭の広い場所まで出て、足を止める。


「ここなら戦っても被害は少ないですよね?」

「ああ、問題ない。しかし、勝つ手段はあるのかい?」

「それを今から探ります」


 旭は前に出て、ミイラと対峙する。ミイラは唸りながら旭に近寄って来る。ドムトルとザバスは花壇の裏に隠れて、2人の戦いを見届ける。


(口を開けて迫って来る様が不気味過ぎる。映画で立ち向かってる主人公は相当肝が据わってたんだろうなあ……)


 剣を抜き、へっぴり腰でミイラに剣先を向ける。


「さあ来い!!」

「何と頼りない」

「すいませんね!!」


 後ろにいるザバスにツッコミながら、戦闘が開始される。


「UAAAAAAAAAA!!」

「うおおおおおおお!!」


 同時に突撃し、旭は剣で突きを放つ。心臓を狙って真っすぐ放たれ、胸に一直線に伸びる。


(もらった!!)


 確信を得た旭だったが、ミイラはそこまで甘くなかった。


「UA!!」


 刺さる直前、ミイラは足蹴りを繰り出し、旭の剣を弾いた。


「何!?」


 弾かれた剣は勢いよく上へ跳ね上がり、旭の懐がガラ空きになってしまった。ミイラは口を大きく開け、半透明な物体を吐き出そうとする。


「やべ……!!」

「UAAAAA!!!」


 半透明な物体は勢いよく発射され、旭に向かって襲い掛かる。


 しかし、旭は剣を弾かれた力で、大きく仰け反り、ギリギリのところで回避する。


「UA?!」


 驚くミイラだったが、旭が下から蹴り上げてきたのに気付き、咄嗟に後退して回避する。


 旭は背中から地面に転倒し、後頭部を強打した。


「イッテエ!!?」


 打った所を押さえながら転がり、ミイラから距離を取る。


「カウンターからのカウンター……! 何という高度な攻防戦だ!!」

「剣の構え方で不安になりましたが、戦闘センスはあるようですね」


 ドムトルとザバスは感心していたが、


(弾かれた勢いで足ごと投げ出して転んじまった!! その上悶絶して転げまわるとか恥ずかしい!!)


 全然そんなことはなかった。


 ミイラは旭の動きを警戒して、一定の距離を保つ。旭も立ち上がって剣を構え直し、再び対峙する。


(ミイラの攻撃手段は蹴りとよく分からない半透明な攻撃。蹴りは剣を弾くほど強固、半透明な攻撃はテューナを一撃で沈めた。どっちを喰らっても危険すぎる……!!)


 旭も警戒して、剣先を向けたまま距離を取る。


 しばらく硬直状態に入るかと思われたが、


「UAAAAAAAAAAAAAAA!!!」


 ミイラの方から攻撃を仕掛けてくる。


 口から半透明な物体を吐き出し、半透明な物体は旭に向かって飛んで来る。


「あぶな!!?」


 今度は余裕を持って回避に成功する。その時、半透明な物体に顔の様な模様が付いていることに気付いた。


(顔って、まさか……)


 旭は半透明な物体を目で追い続け、その正体に気付く。


「もしかして、幽霊か?!」


 半透明な物体は真っすぐ飛んだ後、宙を舞って旋回を始める。それは間違いなく旭が知っている漫画的幽霊だった。


(こっちの世界に来て幽霊を見ることになるとは……。心霊なんて信じてなかったけど)


 そんな悠長なことを考えている隙に、ミイラが幽霊を口から乱射してくる。


「UA! UA! UA!」


 幽霊は真っすぐ旭に向かって発射され、全身のどこかに当たるように飛んで来る。


「おお!!?」


 飛んで来る幽霊を回避するのに、今の身体能力では足りない。


(あんまり使いたくないけど!!)


 エナドリで貯めた魔力を開放し、『身体能力強化』を使用する。


 さっきの3倍くらいの脚力を発揮し、回避に成功する。だが、着地に失敗し、地面を転がる。


「うぐう、上手く動けん……!」


 慣れない力加減に四苦八苦しながら、身体を動かし続ける。


「UAAAAAAAAAAAAAAA!!!」


 ミイラは旭に向かって乱射し続け、攻撃を止めない。


 旭もまた、攻撃に当たらないように動くのを止めない。


 旭の防戦一方だが、その間に攻略法を見出していた。


(首を斬ってしまえば幽霊を発射することもできなくなるはず! なら、懐に飛び込んで斬るだけだ!! 自信は無いけど!!)


 覚悟を決めて、ミイラに突撃を仕掛ける。



 その時、旭の足の動きが悪くなった。



「何……?!」


 足だけではなく、全身の動きが悪くなって来ていた。


 その原因は、


「何だ、この寒さは……!!?」


 異様な寒さだ。


 この寒さのせいで旭の身体が震え、動きを悪くしているのだ。


(し、心霊番組で見たことがある! 幽霊が傍にいると、気温が下がると言っていた! この寒さはそれが原因か!?)


 旭はあまりの寒さに膝をついてしまう。空を見上げると、先ほど発射した幽霊たちが旋回を続けている。


(冷気は下に降りてくるのを利用している。しかも、俺に悟らせられないように絶え間なく乱射していた。あのミイラ、想像以上に知能がある!!)


 険しい表情で睨み、何とか立ち上がろうと足に力を入れる。しかし、あまりの寒さに上手く動けない。


「UAAAAAAAAAA!!!」


 その隙をミイラが見逃すはずはなく、再び幽霊を発射する。


「しまった!!?」


 旭は躱すことができず、幽霊の直撃を受けてしまう。


 

 直後、急激に体温が無くなっていくのを感じた。



 血の気が引くように冷たくなり、意識が遠くなっていく。


(これは、そうか。一気に、熱を、奪われた、のか。だから、テューナも)


 目の前が暗転し、うつ伏せで倒れ始める。


 そして、ドサリと音を立てて、地面に伏してしまった。



「アサヒ君!?」


 隠れていたドムトルが叫ぶ。


「何て事だ……。あんな怪物が入っていただなんて……!」

「旦那様、ここは逃げましょう! 我々でもあれはどうしようもありません!」

「……やむを得まいか……」


 ドムトルは悔しい表情で、その場を後にしようとする。



 背を向けた瞬間、屋敷の壁が吹き飛んだ。



 爆音と粉塵が起こり、周囲に響き渡る。


 ドムトル達は振り向いて、何が起こったのかを確かめる。


 煙の中から出てきたのは、テューナだった。


「こんの生意気童が。よくもやってくれたなあ……」


 怒りに満ちた表情で、ミイラに近付く。


「おお!! テューナさん!! ご無事で……」


 ドムトルの言葉が途中で止まる。


 何故なら、テューナの腹が大きくなっていたからだ。


 今にも地面に付きそうな程の大きさに膨らみ、テューナ自身もかなり歩きにくそうな状態だった。


 ドムトル達はその姿に呆気に取られてしまう。


「な、な、何ですかそのお姿は?!!」

「ああ、食糧庫を漁らせてもらった。悪く思うな」

「何故食糧?!」


 思わずツッコんでしまうドムトルだったが、テューナはお構いなしにミイラに近付く。


「U、A?」


 ミイラもテューナの変わり果てた姿に首を傾げていた。テューナは四股を踏んで、しっかりと体を支える。


「さっきお主から喰らった技。急激に体温を奪う中々嫌な技だ。だが、その攻撃はもう我輩には効かん」


 ニッと笑い、ミイラと対峙する。


「UA!!」


 ミイラはもう一度幽霊を発射し、テューナに直撃させる。これでテューナの体温は急激に下がった。


「ああ!! また!!」

「あの状態では回避することもままならない! もうおしまいです!!?」


 ドムトルとザバスは頭を抱えた。しかし、


「…………効かんと言ったろう。この童が」


 テューナは不敵な笑みを浮かべ、立ち続けていた。


「UA?!」


 攻撃が効いていないことに、ミイラも驚いている。テューナはドッシリと構えながら、ミイラを睨む。


「これだけ食い溜めすれば、下がる体温を一定までに戻すことなぞ造作もない。冬眠の時にはよくやったぞ」


 テューナの身体は高温で保たれていた。周囲の気温が下がっているせいで、湯気が見えるほどだ。


「さあ、こっちの番だ」


 テューナは大きく息を吸い、ドンドン体を膨らませる。そして、最大まで貯まったところで、吸うのを止める。


「む、ぶ」


 仰け反った体を勢いよく戻し、口を思いっきり吹いた。




 【火炎放射】!!!!!




 キマイラには火を噴く能力が備わっている。これは竜の頭が持っているスキルで、それを使用することができる。テューナはエナドリの補助があるおかげで、人間状態でも使えるのだ。



 テューナの口から炎が噴き出し、ミイラに吹き付ける。


「UAAAAAAAAAAAAAAA!?!?!?」


 凄まじい炎は瞬く間にミイラの全身を包み、周囲に取り巻いていた冷気を吹き飛ばす。


 ミイラの包帯から着火し、枯れた肉体に難なく到達する。


「UA、UAAAAAAAAAA!! UAAAAA!!!」


 炎に耐えられなくなったミイラは、テューナから離れようと逆方向に走り出す。火が届かない所まで逃げ出し、花壇に飛び込んだ。


 土の上を転がり、燃えている部分に土を付けて消化しているのだ。


「UUU、AAAAA……!!」


 何とか消化できたが、燃えたのが相当答えたのか、動きがかなり鈍くなっている。


 【火炎放射】を噴き切ったテューナは、腹に貯めた食糧を使い果たし、体形は元に戻っていた。


「ふん、対処法が分かればこんなものだ」


 倒れている旭に近付き、しゃがんで身体を揺さぶる。


「おい起きろ。もう体も暖まっただろ」

「う……」


 旭は目を覚まし、ゆっくりと身体を起こす。


「全く、乱暴な起こし方をする……」

「すまんがこれ以外思いつかなかった」

「そうかい……」


 旭が目を覚ましたのは、テューナの炎が冷え切った空気を暑くし、旭の身体を暖めたのだ。おかげで正常な体温にまで戻り、動けるようになったという訳だ。


 2人は花壇の上に転がったミイラに近付く。ミイラは呻き声を上げながら這いつくばっていた。包帯は焼け落ち、遺体には金の装飾品が見える。


「悪いが、ここで討伐させてもらう」


 剣を向け、首を斬ろうと振り上げる。その時、


「―――、―――――。――――――――――。―――――」


 微かに、何か言葉らしき声が聞こえた。その声はテューナの耳に確かに聞こえた。


「待て。殺すな」


 テューナは旭の剣を止める。


「どうしてだテューナ? 俺達を襲って来た敵だぞ?」


 旭の当然の疑問に、テューナはミイラの付けているペンダントを取って説明する。


「この童、どうやらこの光る石で操られてたそうだ。墓荒らし対策の防衛装置だとかなんとか」


 その説明に、旭は納得ができた。急に襲って来たこと、必要以上に追いかけ回して来たことが、防衛装置によるものなら合点がいく。


「…………何となく理解した。それで、殺さずどうするんだ?」

「エナジードリンクを飲ませてやれ。そうすれば話ができる」

「……襲って来ない?」

「その時はまた返り討ちにすればいい」

「テューナらしい……」


 とりあえずミイラを花壇から引きずり下ろし、さっきまで戦っていた場所に横たわらせる。


 旭はエナドリを出現させ、ミイラの口を開けて飲ませようと試みる。


(どう見ても飲める状態じゃないだろう……。本当に飲めるのか?)


 恐る恐るエナドリを口に注ぎ、ミイラに飲ませる。ミイラは口をパクパクさせながら、エナドリを飲んでいた。


「おー、本当に飲んでる」


 感心しながら飲ませていき、1本飲み干した。


「U、AAA」


 ミイラは旭の方を向いて、求めるような動作をする。


「まだ飲むのか? まあいいけど」


 エナドリを追加で口に注ぎ、ドンドン飲ませていく。そこへ、ドムトルとザバスが近付いてきた。


「あ、あの、一体何を……?」

「見てれば分かる」


 テューナは短く答える。ドムトル達は顔を見合わせ、とりあえず待つことにした。


 10本目を注いだところで、ミイラがビクン!! と身体を震わせる。そして、跳ねるように起き上がり、直立する。


「うお?! 何だ!?」


 旭が驚いているのも束の間、ミイラの肉体に変化が起こり始めた。


 徐々に枯れていた筋肉が生気を取り戻し、骨と皮だけのミイラが、人間の姿へ戻っていく。


 ムクムクと全身が膨らみ、あっという間にその姿を取り戻した。


 

 それは、目がくらむ程の絶世の美女だった。



 180㎝もある高身長、黒いぱっつん切りのロングヘア、男を狙う獣の様な青い眼、艶めかしいふっくらした唇、テカリのある褐色の肌、細い上半身とは真逆のアンバランスな大き過ぎる尻と太腿と脚。


 服装は黄金でできた乳首を最小限隠すだけの装飾、前と後ろだけ隠した長く黒い腰布、黄金の頭飾りと首飾り、そしてロングバングルをしている。黄金のヒール付きサンダルを履いている。



 あまりの変貌に、旭達は唖然としていた。


 そして、ミイラだった美女は、旭達に向き直り、


「余! 復活!!」


 声高らかに復活を宣言するのだった。



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