第16話 現れて自動販売機


 ミフエルを出発してから3日



 旭達は山を越え、草原を進んでいた。


 途中魔物に襲われたりしたが、テューナ、パントラ、マカリーの3人が返り討ちにしていた。


 今は魔物との遭遇も無く、順調に進んでいる。


「あともう少しで次の町『ローエント』だ。着いたらゆっくり休もう」


 草原を歩いていると、何か大きな影が飛んでいるのが見えた。


「何だあれ?」


 旭は目を凝らすが、遠すぎてよく見えない。代わりにテューナが目を凝らして見てみる。


「ほう、何かが巨鳥に襲われてるな。馬車か?」

「それってマズイだろ!?」


 呑気に報告するが、どう聞いても一大事である。


 旭は一人駆け出し、その後ろをテューナ達が追いかける。



 近付いて行くと、全長6mはある巨大な鳥が馬車を襲っていた。


 鳥は全身が茶色の羽で覆われており、赤く鋭い目、黒く鋭利な爪を持っている。


 その巨鳥が馬車を襲い、横転させていた。馬は逃げ出したのか姿が無く、馬車本体はズタズタに引き裂かれて破壊されている。


 そして傍には、何とか逃げようとする女性がいた。清楚で胸の大きい女性だ。


「今助けます!!」

「お主今胸見てやる気出したな???」


 テューナに厳しい指摘をされたが、旭は構わず剣を抜いて巨鳥に突っ込んでいく。


「おい巨大鳥!! こっちだ!!」


 剣を振り回して挑発する。それに気付いた巨鳥が旭に視線を向ける。


「GUAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!」


 翼を羽ばたかせ、旭に向かって襲い掛かる。


 旭は巨鳥を誘導し、馬車から引き離す。


(よし! このまま遠くへ連れて行った後、撒くなりやり過ごすなりするだけだ!)


 エナジードリンクの『身体強化』、『集中力上昇』、『俊敏性上昇』を使い、ギリギリの所で巨鳥の攻撃を躱していく。


「ちょっと! 1人じゃ危険よ!!」


 マカリーが追いかけようとするが、


「そうも言ってられないぞ。見ろ」


 テューナが見上げる空に、さっきの巨鳥と同じ鳥が3羽迫って来ていた。


「助けるのはアレを倒してからだ!」

「ああもう!!」


 テューナ達が応戦している間、旭はまだ巨鳥に追いかけられていた。


(素の身体能力が人並み程度しか無いから回避全部ギリギリだ!! もうちょい鍛えておけば良かった!!)


 日頃の行いを後悔しながら、旭は巨鳥を誘導し続ける。


 草原の草の大きさが徐々に大きくなり始め、腰位まで隠れてしまう。歩きにくくなり、巨鳥の攻撃も掠るようになってきた。


「あっぶねえ!?」


 危機感を感じながらも、誘導を止めず走り続ける。


(馬車からは大体500mくらい離れられたか? 念のためもっと離れた方が……)


 その時だった。


 旭は見えない足元にある何かにつまずき、飛び込む形で倒れてしまった。


(マズイ!!)


 すぐに起き上がり、逃げようと足を動かすが、


「GUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!」


 それよりも早く巨鳥の爪が旭に襲い掛かる。長さ30㎝もある爪で切り裂かれれば、ひとたまりもないだろう。


 目を見開き、自らの死すら悟った。


 ここまでかと思ったが、死にたくない気持ちが溢れてくる。こんな所で死ぬわけにはいかないと、強く思った。


 そう思った時には、咄嗟に剣を持っていない方の手を前に突き出していた。そして、唯一持つ力を開放する。



 スキル『エナジードリンク』!!!!!



 かざした掌から大量のエナジードリンクの缶が飛び出し、巨鳥を呑み込んでいく。


「GU、AAAAA!?!?!?」


 巨鳥はガンガンぶつかる缶の濁流をぶつけられ、攻撃は止まり、全身を痛めていく。人間でも空の缶をぶつけられれば痛いのだから、中身が入った缶なら重量が追加され猶更痛いだろう。


「GUAAAAAAAAAAAAAAA!!!??」


 何度も何度も大量の缶をぶつけられた巨鳥は耐えきれなくなったのか、地面に落下し、缶の山に埋もれていく。


 缶を全て出し切った頃には、完全に埋まって動けなくなっていた。それに気付いたのは、缶を出し切ってから少し経ってからだ。


「た、助かった……」


 山積みになった缶を前で旭はへたり込み、危機が去ったことに安堵する。


「何だ、一人で倒したのか」


 そこへ、テューナが返り血を浴びた状態で近付いて来る。さっきの巨鳥を倒したものだろう。


「てっきり怪我の一つや二つしてるものだと思っていたぞ」

「俺だってやる時はやるさ」


 テューナに手を引っ張られて、旭は立ち上がる。


「あっちの方は大丈夫そうだな」

「他愛なし、と言ったところだ」


 馬車が横転した場所まで戻ると、その周りに巨鳥数羽落ちていた。


 一羽はボコボコに、一羽はガクガクと震え、一羽は木で出来た巨大な縄で縛られていた。それぞれ誰が対処したのかが分かる状態だった。


「良かった! 無事だったのね!」

「家来も倒したようじゃな。褒めてつかわす」


 全員怪我はしておらず、むしろ元気な位だ。


「俺が必死で倒した相手を簡単に倒すなよ……」

「それが現実だ。受け止めろ」


 テューナが旭の肩に手を置いて慰める。


「それで、さっきの女の人は?」

「巨鳥が押し寄せたタイミングでこの世の終わりみたいな顔をして気絶しているわよ」


 マカリーが指差した方に、さっきの女性が草原の上で横になっていた。どうやら気絶から目覚めていないらしい。


「それよりも、さっきの戦いで魔力を消費した。エナジードリンクを出せ」

「はいはい……」


 旭は手をかざして、エナジードリンクを出現させようとする。


(10本くらいまとめて出すか)


 そう思って発動する。



 ドン!!! という音を上げて、煙と共に『自動販売機』が目の前に現れた。



 一列に10本並んだ3段式の自動販売機で、ラインナップは全てエナジードリンクだ。今まで出現させてきたエナジードリンク全種類揃っており、エナジードリンクに特化した自動販売機だというのはすぐに分かった。


 

 突然現れた自動販売機に、全員が固まった。


「な、は、え???」


 一番驚いていたのは、旭だった。


 それもそのはず、エナジードリンクを出そうとしたら突然前の世界で見慣れた自動販売機が出て来て、しかもラインナップが全てエナジードリンクなのだから、処理が追い付いていないのも無理はない。


 他のメンバーはいきなり巨大な鉄の箱が出てきた程度の認識しかないため、旭程の驚きはなかった。


「……何だこれは?」


 ようやく言葉を発したのは、テューナだった。


「鉄の箱に透明な板が張り付けられているのか……? その中に缶が陳列されている……。随分と珍妙な棚だな」


 テューナの冷静な分析を聞いて我に戻った旭は


「あー、それはこう使うんだ」


 自動販売機の押しボタンスイッチを押し、ガコン!! という音を立てて下の取り出し口から取り出し、テューナに渡す。


「こうやって選んで出すことができるんだ。便利だろ?」

「なるほど、これがあればお主がいちいち出さなくてもいいわけか」


 テューナは旭の真似をして、次々とエナジードリンクを出していく。


「ほれ、パントラもマカリーも飲んどけ」

「言われなくても」

「ありがとう」


 パントラとマカリーにエナジードリンクを投げ渡し、自分で蓋を開けて飲み始める。旭も一本受け取って飲む。


 全員に生き渡った直後、自動販売機は姿を消してしまった。


(消えた。一体何だったんだ……?)

「おそらくスキルが進化したのじゃろ」


 パントラが飲みながら説明する。


「進化?」

「そうじゃ。一定の条件を達成すると、スキルは進化するのじゃ。その条件は誰にも分からぬが、今回はスキルで敵を倒したことで条件を達成したのじゃろうな」

「……博識だな、パントラって」

「馬鹿にしたじゃろ今」

「う、ううん……」


 飲んでいる途中、女性が目を覚ました。


「あれ? 私、死んだんじゃ……?」

「生きてるから大丈夫ですよ」


 旭が声を掛ける。女性は驚きつつ


「あなた達は、さっきの」

「初めまして、旭と言います。ちなみにあのデカい鳥なら倒しました」

「『ジャンボカイト』を!?」


 更に驚いて、信じられないといった表情になる。


 彼女は周囲を見渡し、テューナ達が倒した巨鳥もといジャンボカイトを見つける。


「本当みたいですね……。助けて頂きありがとうございます。私はローエントで受付嬢をしている『サラ』と申します」

「サラさん、ですか。サラさんはジャンボカイトに襲われてたようですが、この地域ではよくある事なんですか?」


 旭の質問に、サラは首を縦に振る。


「はい。この時期は繁殖期ですので、かなりの数のジャンボカイトが餌を求めてこの草原に現れます。なので、護衛で冒険者の方と一緒にいたのですが……」

「そいつらは逃げた、と」

「そのようです……」


 サラは肩を落としていた。信頼していた冒険者から裏切られたのだから、落ち込みもするだろう。


「もし皆さんがいなかったらジャンボカイトに食べられていたところです。本当にありがとうございます」

「礼はいい。それよりこいつらは食べてもいいのか?」


 テューナが会話に割り込み、ジャンボカイトについて聞いて来る。


「えっと、できればギルドに卸してもらえるとありがたいのですが……」

「我輩は食べていいのか聞いている」


 毅然とした態度でサラにもう一度質問する。


「ど、どうぞ」

 サラはテューナの食欲におされ、諦めてテューナの好きにさせることにした。

「そうと分かれば首を落として羽を取らないとな。これだけデカいと時間がかかりそうだ」


 舌なめずりするテューナを見たマカリーによって捕まったジャンボカイトは、慌てた様子で暴れ出した。


(まあ、食われたくは無いよな)


 内心同情する旭だったが、運の尽きだと手を合わせるのだった。


 テューナが締めようとした時、遠くから馬の足音が聞こえてきた。それも複数。


「何だ?」


 旭達が来た反対方向から音が近付いてくる。


「サラ!! どこだサラ!!」


 足音と共に、男の野太い大声が聞こえてくる。


「この声、もしかして!」


 サラは急いで足音と声がする方へ駆け出した。


「ギルドマスター!! ここです!!」


 手を振って場所を知らせると、馬に乗った男達がやって来た。


 先頭を走って来たのは、色黒で筋骨隆々の大男だった。ウェーブのかかった黒髪と背中に背負った大剣が特徴的だ。


「サラ! 無事だったか!」

「はい。この方たちに助けてもらいまして……。ギルドマスターはどうしてこちらに?」

「サラを護衛していた冒険者達が先に戻って来てな、少し問い詰めたら置いてきたと吐いたからボコボコにして縛ってから急いで人を集めてここへ来たんだ」


 大男は旭達の方を見る。馬から降りて旭達の前に近寄る。


「俺はローエントでギルドマスターをしている『コンヂート』だ。サラを助けてくれてありがとう」

「旭と言います。旅人兼冒険者です」


 互いに挨拶を済ませ、握手をする。


「それで、後ろの女性たちは……?」

「彼女達も冒険者です」

「マカリーです! よろしく!」

「パントラじゃ。余の美貌にひれ伏すがよい!」

「メ~~~」


 マカリー、パントラ、山羊は挨拶をするが、テューナはジャンボカイトを締めようと模索していて、聞こえていなかった。


「おーいテューナ。返事位したらどうだ?」

「今忙しい。後にしてくれ」


 旭はバツの悪そうな顔をして


「すいません。どうしても食べたいみたいで……」


 コンヂートに頭を下げる。


「いいさ。それより、彼女はジャンボカイトを解体したいみたいだな」


 コンヂートは顎を触りながら


「ならウチのギルドで解体してあげよう! ジャンボカイトは解体にコツがいるからな」

「いいんですか?」

「ああ。綺麗に始末したならその方が良い。ギルドも綺麗な素材が手に入るから得しかない」

「だってさテューナ」


 テューナは少し考えて


「……分かった。そういう事なら任せる」


 渋々任せることにした。コンヂートは手を鳴らして


「よし! 話は決まったな! 早速持って行くぞ!!」

「「「「「はい!!!」」」」」


 コンヂートの後ろにいた男達、冒険者達が命令に大声で答える。


 テューナとパントラ、そして旭が倒したジャンボカイトはすでに死亡していた。


「死んでるなら俺のスキルの番だな」


 コンヂートは死んだジャンボカイトに手をかざす。



 『収納インベントリ



 直後、ジャンボカイトが一瞬で消えてしまった。


「い、今のは?」

「ギルドマスターの『収納』です。あれで大抵のものを自由に出し入れできるんです。便利ですよね」


 サラは旭にコンヂートのスキルを説明する。


「あれは誰でも使えるんですか?」

「そこまで多くはありませんが、珍しい訳でもありません。冒険者ギルド連合本部の記録では保有者は結構多いみたいです」

「そうなんですか」


 2羽目、3羽目のジャンボカイトも『収納』に入れられ、残るは生け捕りになっている一羽だけだ。


「さて、残りのこいつをどうやって持って行くか……」

「こうすればいい」


 コンヂートが考えている隙に、テューナが手刀でジャンボカイトの首を斬り落とした。面白い程綺麗に斬れ、鮮血がピューと出る。


「鳥はこうやって締めるんだろ?」

「「「「「合ってるけどやり方ぁ」」」」」


 コンヂート、他の冒険者、旭は思わずツッコんでしまう。



 最後の一羽と散乱した荷物を『収納』に入れ終わった後、旭達はコンヂート、サラ達と共にローエントへ向かう。


 旭達は他の冒険者達が乗って来た馬に一緒に乗せてもらい楽をさせてもらっていた。山羊も器用に馬に乗っていた。


「ジャンボカイトは後日清算してアサヒ達に報酬として渡す。あれだけ綺麗に討伐されてたから、期待していいぞ」

「ありがとうございます」


 そんな会話をしている内に、大きな壁が見えてきた。その壁を越えて突き出す建物も見えてくる。


「もうすぐ到着だ! 少し早いが、ようこそローエントへ!!」


 

 こうして、旭達一行はローエントに到着した。



 

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