第17話 ゴブリンで把握
旭達一行は、ギルドの面々と共にローエントへ入った。
ローエントは草原の中に造られており、外からの攻撃に備えて高い城壁に囲まれている。
中の町は白一色に染まっていた。緑の広がる外の世界とは一転し、町は建物、道路、構造物全てが白に統一されていた。建っている建物の形状は他の町と一緒だが、屋根、壁、扉、全てが白色に塗られている。
眩しいほど白い町に住む人達は、他の町でも見た服装の人以上に、白い修道服を着た人達がいる。男女問わず着ている人達がおり、自分達が浮いているように感じた。
「この町は随分と白に覆われてますね」
「ローエントは『聖マルニエ教会』ゆかりの地で、教会を中心に建てられているんです。その教会の修道院が教会の象徴としている白色なので、建物も構造物も白に合わせて建てられていったため、町全体が白くなったそうです」
「そういう経緯があったんですか」
サラに町の成り立ちを教えてもらい、町を見ていく。
「そうなると、黒とかは嫌われるんですか? 白の反対色ですし」
「いやいや! そんな事は無い! マルニエ様が白を好んでたってだけの話で、嫌ってた訳じゃない。というか、マルニエ様の髪は黒だから、嫌うなんてとんでもない」
コンヂートは笑い飛ばして否定した。その話を聞いて、旭はホッとする。
(もし黒嫌いだったら、俺とパントラが危なかった……)
旭とパントラは黒髪なので、万が一もあった。色で差別する話は前の世界でもあったので、気になってしまったのだ。
「何を見ている家来?」
「何でも」
しばらく町を進むと、大きな建物の前で止まる。
他の民家よりも大きい3階建ての建物で、看板には『冒険者ギルド』と書かれている。
「着いたぞ。ここがローエントの冒険者ギルドだ」
旭達は馬から降りて、ギルドの中へ入る。
ギルドの中は他のギルドと同じ、奥に受付、サイドに休憩用のテーブルと椅子、依頼掲示板が設置されている。内装は至って普通で、白色にはなっていない。
「中は普通ですか」
「中まで白いのは熱心な信者様くらいです」
サラが簡単に説明しながら入ると、中にいた冒険者達が一斉にサラの方を見る。
「サラ!! 無事だったのか!?」
「良かった! 一時はどうなるかと……!」
冒険者達は次々とサラに近寄り、無事だったことを喜んでいた。
「ご心配おかけしました。この通り無事ですので、もう大丈夫です」
サラは笑顔で答え、皆を安心させた。
「安心したところでお前ら!! 早速ジャンボカイトの解体だ!! 手の空いてる奴は手伝え!!」
コンヂートは集まった冒険者に大声で指示を出す。
「ギルドマスター、ジャンボカイトを倒したんですか?」
冒険者の一人が質問する。コンヂートは首を横に振る。
「いや、俺じゃない。倒したのはここにいるアサヒ達だ。しかもほぼ無傷で」
コンヂートは旭達の方へ視線を向けて、旭達を紹介する。
旭は軽く会釈して挨拶する。
「ど、どうも」
「こんな時くらい胸を張れ」
そう言われながら、テューナに背中をどつかれた。
冒険者達は旭に近付く。
「凄いなアンタ! ジャンボカイトを倒しちまうなんて」
「そうなると結構な階級なんじゃないか?」
「どうやって倒したんだ?」
「うお胸デカ」
「胸デカって言った奴前に出ろ。しばく」
ワイワイと旭達を質問攻めしてくる。返答に困る旭だったが、
「質問するなら後だ! 先に解体を済ませるから解体班、運搬班、整理班で分かれて作業するぞ! 早くしろ!」
コンヂートの指示に従い、冒険者達は急いで移動する。
「アサヒ達は適当に休んでてくれ。解体が終わったらジャンボカイトの肉料理を振舞
ってやる」
「それはいい。楽しみにしてるぞ」
テューナは舌なめずりする。
「任された!」
コンヂートは笑顔で答え、ギルドの奥へ行ってしまった。残ったのは旭達とサラだけだ。
「さて、どうしようか……」
「休んでいる間に、冒険者カードの更新をしませんか? この時期は赤依頼としてジャンボカイト討伐が随時出てますので」
「依頼を受けてないのに、いいんですか?」
「はい、大丈夫です。こういう事例は少なからずありますので」
サラは4人の冒険者カードを預かり、受付で更新を行う。それもかなりの手際の良さで行い、あっという間に終わらせてしまう。
「早っ!?」
「慣れてますから」
微笑んで答えるサラは、4人に冒険者カードを返却する。
「今回の依頼で、アサヒ様、マカリー様は『鉄級』へ、テューナ様、パントラ様は『鋼級』へ昇級となります。おめでとうございます!」
カードの右側の書かれているスペルが鉄に変わっており、少しだけ豪華になった感じだった。
(昇級にはあまり興味無かったけど、実際上がると中々嬉しいな)
言葉には出さず、心の中だけで喜んだ。
◆◆◆
それから数時間後
ジャンボカイトの解体が終わり、清算が始まる。
解体した場所はギルドの裏にある広場で行われ、血生臭さが充満していた。
「詳しい査定は後で出すが、全部買い取りならざっと銀と剣80枚だな」
「80?!!」
コンヂートの口から出た金額に、旭は驚いた。
「そんなに高いんですか、これ?」
「ああ。羽は防寒具や装飾、矢の材料なんかに使われるし、骨や爪も防具の一部として使われる。肉も結構売れるんだ」
肉は一カ所にまとめられ、山積みになっていた。今まで見たことのない量に、旭とマカリーは唖然としていた。
「凄い量だ……」
「山ね……」
一方で、パントラは見慣れたような雰囲気で、テューナは涎を垂らしている。
「これは凄いな。これだけあれば今までの空腹分を満たせそうだ」
「全部食べる気か?」
「いや、半分だな」
「そうか……」
(半分???)
旭とテューナは慣れた会話だが、コンヂートからして見れば、かなり異常な内容だった。
「マカリーはどれだけ食べる?」
「そんなに食べないわよ。せいぜいこれの3分の1ね」
「じゃあ肉は殆ど残らないな」
(いや結構な量だが???)
心の中でツッコむコンヂートだった。
「で、肉の分を抜くとどれくらいになります?」
「ん? そうだな……。肉の分を抜くと60前後、だな」
「それでも60ですか……」
十分過ぎる金額なので、
「分かりました。肉の分を抜いて買取をお願いします」
「よし! 交渉成立だな!」
旭はコンヂートと握手し、買取をお願いした。
「まずは半分の銀と剣30は先に払おう。正確な値段が出次第残りの金額を払う形でいいか?」
「それで大丈夫です。正直、明日のお金にも困っていたところだったので」
「そう言ってくれるとありがたい」
細かい内容を決めた後、次の話題に移る。
「さて、この肉を料理する話だが、この町で一二を争う腕を持つ男がコックをしている店を紹介しよう。ついて来い」
コンヂートは肉を『収納』に入れ、店へ案内する。
ギルドから10分程歩くと、店に到着した。
店ではマッチョのコックが待機しており、持って来た肉をすぐに調理し始めてくれた。料理は焼きのみだが、一羽丸々調理しているため、様々な部位が楽しめる。だが、テューナとマカリーからして見れば、全て胃袋に入れてしまうため、そんな事はあまり関係ない。
「ガッ! ガッ! ガッ! ガッ! ガッ!!」
「ハグハグハグハグハグハグハグハグハグハグハグハグハグハグハグ」
凄まじい勢いで食べ進め、料理よりも空になった皿の方が多くなっている。
その食べっぷりにコンヂートは呆然としていた。
「これは、凄い食べっぷりだ……」
「だからいつも金欠なんですよ」
旭も鶏肉を食べながら日々の苦労を語る。
「ところで、アサヒは旅人だったな。何か目的があるのか?」
「ちょっと夜天の主のいる天海の島まで」
コンヂートは旭の言葉にキョトンとしていた。
「夜天の主って、あの御伽噺に出てくるアレか?」
「実在してるんですけど。実際見ましたし」
「本当か!? 俺は今まで見たことないんだよなあ」
「そうなんですか……」
ドムトルもそうだが、実際見たこと無い人間が大半なのだと実感する。
「その夜天の主を追うために、西の国へ向かう途中なんです」
「国境を渡るのか。だとしたら今のお前たちじゃ無理だぞ」
コンヂートの言葉に、旭の食事の手が止まる。
「え?」
「国境を超えるには冒険者の階級を銀級以上、加えて通行料が必要だ。それも高額な」
「……いくらかかるんですか?」
旭は恐る恐る質問する。コンヂートは指を立てて
「1人当たり金と花3枚」
金額を教える。
あまりの金額に、旭は顔面蒼白になるのだった。
◆◆◆
翌日
「という訳で、手始めに銀級になるため、ゴブリン討伐にやって来たが……」
旭は早速昇級のために、赤依頼の『ゴブリン討伐』に乗り出した。現在ゴブリンがいる森の巣穴に突撃をしたところだった。
のだが、
「君ら秒で終わらすの止めてもらえませんかね???」
テューナとパントラ、マカリーがゴブリンとエンカウントした瞬間、ゴブリン達が武器を持って襲撃したのだが、3人があまりにも強過ぎるため、あっという間に討伐を完了してしまったのだ。
テューナ達の足元には、モザイクをかけないといけない惨状が広がっていた。
「何か不都合でも?」
「俺の実力が上げられない」
「諦めろ。我輩達といる間は出る幕は無いぞ」
「ぐうの音もでねえ」
気を取り直して、転がっているゴブリン達をどうするか考える。
「とりあえず討伐の証明として、ゴブリンの身体の一部を持って行けばいいんだが……」
テューナが派手に暴れたせいで、ボコボコにされて原形を留めていない。
「それなら」
おもむろにテューナがゴブリンの身体をまさぐる。そして、素手で何かをむしり取った。
「頭髪全部なら文句ないだろう?」
「それはちょっと嫌だなあ」
あまりの大胆さに旭の感覚が麻痺してきた。
テューナは鼻をスンスンと鳴らし、何かの臭いを感じ取る。
「……奥にまだいるな。ゴブリンよりデカい童が」
「余も感じ取った。酷い臭いなのじゃ」
「そんなに臭うのか? 俺には全く……」
「私も。臭いは感じ取れないわね」
臭いの敏感さに差が出ているが、キマイラのテューナが言うなら間違いないのだろう。
テューナとパントラは戦闘態勢に入り、巣穴の奥を睨む。
ドスン、ドスン、と、何か大きな足音が聞こえてくる。
そうして現れたのは、身長1m程度のゴブリンよりも遥かに大きいゴブリンの魔物、ホブゴブリンだった。しっかりと武装し、手には棍棒を持っている。
それも一体だけではなく、3体もいる。テューナ達を見て、ゲヘゲヘと笑っている。
「これはこれは、多少は歯ごたえのある童が出てきたか」
「余をその様な汚らわしい目で見ると、死罪じゃ」
2人の気合の入れようからして、ホブゴブリンは相当の実力があるようだ。
旭とマカリーも遅れて戦闘態勢に入る。
全員が身構えたところで、先に襲い掛かって来たのはホブゴブリン達だった。
「GAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!」
棍棒を振りかぶり、テューナ達に殴りかかる。
テューナはホブゴブリン達より出遅れたが、それでも瞬時に懐に入ってみせた。
拳を大きく振りかぶり、ホブゴブリンの胸目掛けてパンチを放つ。
「フン!!!!!」
直撃したのと同時に、ボン!!! という音を立ててホブゴブリンの胸に大穴を開ける。
「GA???」
穴を開けられた瞬間、ホブゴブリンは何が起こったのか分からなかったが、数秒してふらついてその場に倒れてしまった。その際、テューナに返り血が当たる。
「悪いな。お前のような童相手に手は抜けないんだ」
テューナが足元に転がったホブゴブリンに対し吐き捨てる。
その様子を見た他のホブゴブリン達は足を止め、完全に怯んでいた。
「余の前で怯むとは、大した度胸は無かったようじゃな」
パントラは両手にそれぞれ氷と火の魔法を発動する。
「燃えてる凍るのじゃな」
両手の魔法を怯んだホブゴブリンに向かって放った。
狭い巣穴では逃げ場は無く、見事に直撃する。
「GAAAAAAAAAAAAAAAA!?!?!?」
燃えながら凍り付くホブゴブリンは断末魔の叫びを上げながら、炭となって氷塊に包まれていく。
そうして出来上がった物は、残酷で美しい立体物となって完成した。
「余の実力を舐めるからじゃ」
パントラは自身に纏わりついた冷気に息を吹きかけて払う。
最後のホブゴブリンは、完全に怖気づいてしまい、後退を始めていた。その隙を見逃すわけはなく。
「逃がさないわよ!!」
マカリーが強襲する。
後頭部にある木の芽が一気に成長し、二つに分かれて巨大で筋肉質な腕に変貌する。
その巨大な腕を振り上げ、ホブゴブリンにパンチを繰り出す。
逃げそびれたホブゴブリンの顔面に当たり、顔面をグシャグシャに粉砕する。それは一度だけでは終わらず、すかさず反対の拳を叩き込む。その動作をコンマ1秒足らずで繰り返す。
「ゼララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララ!!!!!」
怒涛のラッシュを叩き込み、ホブゴブリンの全身を破壊する。
「ゼラアアア!!!!!」
とどめの一撃を入れ、巣穴の奥の壁まで吹っ飛ばす。
ドゴン!! という音を上げてめり込み、完全に気を失っていた。
「やったね!!」
マカリーは旭に満面の笑みでVサインを決める。
旭も微笑んで親指を立てて返事をする。
(しかしまあ、テューナ達の戦闘スタイルって本当に違うなあ)
テューナは肉弾戦と火炎放射。パントラは霊術と氷と炎の二属性魔法。マカリーは変幻自在の木による戦闘。
それぞれ違いはあるが、どれも強力で、大抵の敵に勝ててしまう。とてもじゃないが普通の人間の旭には追い付けない領域だ。
(俺は俺に出来ることをしよう。無理の無い範囲で)
心の中で決意を固めながら、気絶しているゴブリンの頭髪を剃るのだった。
◆◆◆
その日の夜
「ガッ! ガッ! ガッ! ガッ! ガッ!!」
「ハグハグハグハグハグハグハグハグハグハグハグハグハグハグハグ」
「一日で稼いだ8割を食費で消すなお前らあ!!!!!」
ゴブリン討伐の報酬はテューナとマカリーの食費で消えた。
国境越えの資金集めは、まだまだ続きそうだと痛感する旭だった。
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