第26話 そして旅立ちへ
吹っ飛ばされた旭は、地面に転がって空を見上げていた。
雲が少ない晴天だ。
「わー、綺麗」
「何を呆けているお主は」
そこへテューナが顔を覗き込んでくる。
「さっさと起きろ。倒した童を一カ所に集めておくぞ」
旭は上半身だけ起こす。まだ爆発の衝撃で体が痛いのだ。
「何で一カ所に?」
テューナは検問所とは反対側、今まで来た道の方を見る。
「こういう事だ」
そう言うと、遠くから馬車が一台やって来た。馬車の御者は鎧を着た一人の兵士だ。
兵士はやられたケンタ達を見て、
「あー、ダメだったか……」
小さくぼやいた。
馬車をケンタ達の横につけ、周辺の状況を見て、何があったのかを推測する。
「…………大体は分かりました。うちの勇者達が迷惑をかけたようだな。心からお詫びする」
「責めないのか?」
旭は兵士に問う。
非常識な行動があったとはいえ、勇者は勇者、何かしら咎めてくる可能性があった。
しかし、
「その権限は私にはない。もし何かあったら連れ帰る。それだけが私の仕事だ」
と、淡白に言った。
「随分と薄情ですね……」
「色々とあるんですよ。特に王様とその取り巻きが酷くてね。勝手に法律作ったり権力乱用したりとまあ酷いので、忠誠を誓う義理も無いですよ。とにかく、市民の間では好かれてないとだけ言っておきます」
「……そうですか」
何だか面倒くさそうな事情がありそうなので、これ以上聞かないことにした。
兵士は先に一カ所に集まったキョウコ達を馬車へ乗せていく。
一方で、爆発したケンタは元の姿に戻っていたものの、股間が悲惨な状態になっていた。気絶してピクリとも動いていない。
「流石に死ぬんじゃないかコイツ?」
敵とは言え、心配になって近付く旭。
「じゃあ治す?」
そこへマカリーも寄って来る。
「できるのか?」
「これだけ酷いと治癒能力のある木を植えるだけじゃ物足りないから、木の実の方がいいわね」
そう言って後頭部の木の芽を成長させ、そこから木の実を膨らませる。木の実をもぎ取り、手ですり潰してケンタの股間に塗った。
「これで塗り薬の代わりになるから、死なない程度の応急処置としては良い感じね」
(適当だなあ)
旭は心の中でぼやくが、口には出さなかった。
「ついでに全身にも塗っておいてあげるわね。後からいちゃもんつけられたくないし」
「マカリーがいいなら」
木の実をすり潰した物をケンタの全身にくまなく塗り終わった頃に、兵士が回収しに来た。
「随分べたべただな。嫌がらせか?」
「治療だって」
「……軟膏か。了解した」
兵士はケンタを担ぎあげ、馬車へ放り込んだ。
「ではこれで」
「俺は放置でいいのかい?」
旭を連れ帰る命令は、何もケンタ達だけではなく、兵士にも通達されているはずだ。それなのに去ろうとしていることに、疑問を感じるのは当然だ。
兵士は旭を見て、
「言ったでしょう。私の仕事はこの者達を連れて帰ることだけだと。それに、勇者より強い人達とは戦いたくない」
まるで面倒事をこれ以上したくないと言わんばかりの言いぐさだった。
「……そうですか」
「では、よい旅を」
兵士は馬車をUターンし、旭に見送られながら、その場を後にした。
遠くへ行ったのを確認した後、旭は検問所に並ぶ列へと戻る。
戻ると、テューナ達が商人達に囲まれて、称賛の言葉を貰っていた。
「凄いなお姉さんたち! 一体何者なんだ!?」
「あの強さは本物だ! そりゃドムトル商会も認める訳だ!」
「是非とも私達の商会とも護衛契約を!」
「待て! うちが先だ!」
途中から用心棒の契約をしようとしてくる連中もでてきたが、テューナは無関心だった。
「オーホッホッホ!! 余を崇め奉るのじゃ!!」
一方で、パントラは調子に乗って山羊の上で立ち、高笑いをしていた。
マカリーはテューナの影に隠れている。
こういうのは自然といなくなるまで待つのが得策だと思い、旭は無理せず傍観していた。
そこへ、
「コラコラ! 迷惑行為は止めなさい!! 戻った戻った!!」
検問所の兵士がやって来て、商人達を元の順番へ戻していく。
全員が戻ったところで、旭達に近付いて来る。
「大変だったな。……俺達は捕まえようなんて考えてないから安心して欲しい」
「そうなんですか?」
「話すと長いが、勝手に勇者を増やすのは国際問題になるんだ。だから表立って行動できない」
「なら猶更ここで止めるような……」
「そんな義理は無いよ。あんな国王のために身体を張る気にはなれない」
(嫌われ過ぎだろ王様)
今までどんなことをやらかして来たのか、想像するのも嫌になる旭だった。
「そういう事だから、俺達はお前を知らなかったことにする。さっきの賭けで儲けさせてもらったしな」
「それが本当の理由ですか」
「掛け金20倍は美味し過ぎる」
兵士はニッと笑って、検問所の方へ戻って行った。
それからすぐに門が開き、隣国へ繋がる国境が開いた。
「ただいまより開門します! 慌てず! ゆっくりとお進みください!!」
先頭から徐々に橋を渡り、隣国へ入って行く。
旭達もその後に続いて進んでいく。
大きな橋を渡って行る途中、上流側の方に大きな山脈が見えた。
雪で白い山頂は、山の形に沿って白い線を描き、自然の芸術を作り出していた。
山頂から麓に向かって、青から緑のコントラストになっており、雲の白が霞がかって絶妙な色合いを見せつけてくれる。
そこから流れてくる川は、水深がかなりあるにも関わらず、底が見えるほど透き通っている。
流れる川の水の音も力強くも心地よく、リラックスさせてくれる音が響き渡る。
そんな束の間の絶景を楽しんだ後、旭達は向こう側の検問所、隣国へ入国することができた。
目の前には道と草原が広がっている。
旭は伸びをして、
「やっっっと出国できた!!」
出国できたことを喜んだ。
あんな追放してきたり、勇者から追われる国から脱出出来て、せいせいしている。
「ここからどうするんだ?」
テューナが旭に尋ねる。
「そうだな。とりあえず南へ行けるルートまで進もう」
「その前に余はベッドで寝たいのじゃが」
パントラが山羊に乗ったまま我儘を言い始める。
「町に着くまでしばらく我慢してくれ」
「女王である余に我慢させるとは、不敬じゃぞ家来!!」
「メ~~~」
山羊もそうだそうだと言っているような気がした。
「山羊は黙ってろ。ていうか山羊なのかお前?」
「メ~」
(何言ってるかさっぱり分からん……)
「とにかく進みましょう。ここにいたってどうしようもないわよ」
マカリーは溜息をつきながら移動を薦める。
「それもそうだな。じゃあ行くか」
4人と一匹は道を歩いて行く。
嫌な事もあったが、テューナ、パントラ、マカリー、山羊に会えた。
その事だけは良かったと思う旭だった。
◆◆◆
しばらく歩くと、道が二手に分かれていた。
一方が町へ向かう道、もう一方は森へ向かう道だ。
「当然町じゃな」
「まあ森へ行く理由は無いしね」
パントラとマカリーは町へ向かう道を勧めてくる。
「我輩はどちらでもいいが、お主はどうする?」
テューナの質問に旭は、
「俺か? そりゃもちろん……」
町へ向かう道を選ぼうとした時だった。
OooooOooooooooooooooooooooooooooooo……
森の道の方から、聞き覚えのある声が聞こえた。
掠れて消えそうなほど小さかったが、間違いない。
「テューナ、今のって」
「ああ、夜天の主だ。我輩の耳にはしっかりと聞こえたぞ」
それを聞いた旭は、ニッと笑い始める。
「森の方の道へ行くぞ!! 夜天の主の声が聞こえたのなら、何か手掛かりがある!!」
その表情は子供の様に無邪気で、目は濁りなく輝いていた。
旭の突然の意見に、
「お主はそうでくなては面白くない。付いて行こう」
テューナは不敵な笑みで賛同し、
「そもそもの行動原理がこれであったからな。致し方あるまいか」
パントラは諦め、
「そうだったわね。なら、仕方ないわ」
マカリーは受け入れた。
「メ~~~!」
山羊も賛成するかのように、元気よく鳴いた。
旭は全員の賛成を取り付け、
「なら急ごう!! 夜天の主が行ってしまう!!」
道に向かって走り出した。
その後をテューナ、山羊に乗ったパントラ、マカリーが追いかける。
「待ってろよ夜天の主! 天海の島!! 必ずその絶景を見に行ってやるからな!!」
彼らは目的である夜天の主、天海の島を目指して旅を続ける。
決して諦めない心と、色あせない夢を胸に抱いて、
彼らの旅はまだまだ続く。
【終】
【完結】スキル【エナジードリンク】で手に入れたのは、モンスターな美女(???)でした? ~異世界絶景紀行~ 弦龍劉弦(旧:幻龍総月) @bulaiga
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