第12話 止まって足止め



 旭達がルアープを出て2日



 順調に西へ進むかと思っていた矢先だった。


「土砂崩れか……」


 西へと続く道が、先日の土砂崩れで塞がってしまったのだ。


 かなりの量の土と岩が雪崩れ込んでいるため、下手に触れればまた崩れる可能性がある。上って行くのは困難だろう。


 迂回しようにも、ここまで一本道のため、他のルートは無い。完全に足止めを喰らった。


「さて、どうするか……」


 旭が悩んでいると、テューナが前に出てくる。


「どいてろ」


 直後、テューナの『変身』が解かれ、元のキマイラの姿へ戻る。


 テューナは前足を使って土砂を退け始め、道を作っていく。


「おお、凄い! これならあっという間に……!」


 旭がすぐにでも通れると思ったが、


『『『ダメだ。量が多い』』』


 しばらく退け続けてもキリが無いとテューナが報告してきた。人型になり、旭達の元へ戻って来る。


「かなりの距離が土に埋もれている。しかも岩と木が邪魔で中々進まない。明日までかかると思え」

「マジか……」


 旭は肩を落としたが、ずっと足止めを喰らうよりはずっとマシだと思うことにした。


「ここはテューナだけが頼りだ。明日も頼む」

「任された」


 2人の会話を山羊に乗ったまま聞いていたパントラは、一つ疑問を抱いた。


「前から気になっていたのじゃが……、雑種のそれはスキルか?」

「雑種と呼ぶな。我輩の『変身』はスキルだ」

「の割には、随分と魔力を消費しているようじゃが? 魔術の類では?」

「こんな魔物がそんな物を使えると?」


 パントラとテューナの間に緊張感のある空気が流れる。


 妙な緊張感を感じ取った旭は、このままだとマズイ気がした。


「と、ところで! スキルとか魔術って何が違うんだ? 触れる機会が無いからよく知らなくてさ」


 何とか話題を変えようと、別の話を振る。


「そんなことも知らぬのか、家来? 余は恥ずかしい」

「仕方ないだろ。アサヒは異世界人だからな」


 テューナの異世界人という言葉に、パントラは納得する様子を見せていた。


「なるほど、そういうことなら納得じゃ」

「……驚かないんだな」

「余の時代でも稀有な例ではあったが、異世界人はいた。物凄く短命じゃったがな」

「そ、そっか」


 短命がどういう意味でなのかは、何となく予想がついた。


「それよりも! 家来が無知だと余も無知と思われる。端的に説明してしんぜよう!」

「お願いします」



 かなり長い説明になったので、かいつまんで説明すると、『魔法』は『自然現象をベースにした現象発生』、『魔術』は『法則に則った現象発生』で、『スキル』は『法則無視の現象発生』だ。


 どれもエネルギーとして魔力を使用するが、魔法と魔術は魔法陣や呪文というかたどった物に魔力を通し、法則を成立させて発動させる。スキルはそれらを無視していきなり発動できる。


 スキルは先天的、または後天的のどちらかで、生まれつき持っていたり、ある日突然開花することもあるとのことだ。



 旭はパントラの説明をしっかりと聞いた。


「そういう区別だったのか……」

「ちなみに、余の下僕達は魔術で操作しているのじゃ」


 掌から幽霊を出し、周囲を旋回させる。


「この【熱剥奪】は本来灼熱の余の故郷で体温を下げるために使われていたのじゃ。が、ここではそんな事をする必要が無いので、攻撃手段として使っている。他にも魔法、魔術を色々と使えるのじゃ。分かったか?」

「はい。よく分かりました」


 座って説明を聞いていた時、


 グゥゥゥウウウ


 テューナの腹が鳴った。


「腹が減ったな。何か狩ってくるか」

「じゃあ俺も何か取って来るよ。キノコくらいなら何とか」

「余のためにしっかり働くのじゃ」

「「パントラも動く」」



 ◆◆◆



 テューナが狩り、パントラが火起こし(魔術で)、旭がキノコ狩りを始める。

 


 旭は山の中を探し、キノコを空きの袋に詰めていく。


(とりあえず食べれそうなものをできるだけ持って行くか)


 山の奥へ進み、袋の中がキノコで一杯になるまで探し続けた。そして、3人で食べる分には問題無い量が集まった。辺りは既に暗くなり、空が微かにオレンジ色で明るい程度にまで時間が経っていた。


「これで十分か。さて、戻って料理を……」


 引き返そうとしたその時、パキリ、という枝が折れる音が聞こえた。


 音がした方向に勢いよく振り向く。



 そこには、木でできた人間が、木の陰に立っていた。



 枝とツタで作られた人間は、旭の方をジッと見つめていた。


 女の様な姿をしているが、全身が微弱に絶え間なく蠢いているせいで、かなり不気味だ。何より、顔のパーツがウネウネと動いていて気色悪い。


 旭は目が合った瞬間、なりふり構わずテューナ達がいる場所に向かって走り出した。


「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!?????」


 訳の分からない生物に目を付けられた恐怖と不安を受け、全力で叫びながら走り続ける。エナジードリンクの残量も使って走り、今までにない速さで山の中を走り抜けた。



 ◆◆◆



「ぜえ! ぜえ! ぜえ……!!」


 何とか無事にテューナ達の元へ戻って来た旭は、全力で走った後なので、かなりの息切れをしていた。


「何だ。何か獣にでも追われたか?」

「そんな余に奉仕したかったのか? 許す!」

「いや、違くて……。ちょっと、やばいのに、遭遇して……」


 息切れをしながら、獲って来たキノコを渡す。


「何か、木でできた人間と、目が合って……」

「何だそれは? そんな同類見たことないぞ」

「余もそんな珍妙な雑種は知らぬ」


 2人は知らないと断言し、焚火で肉を焼く作業を再開する。


「何かと見間違えたんじゃないか? この暗がりだ。それらしい物と勘違いしたとか」

「そ、そうかなあ……?」

「確かに、この真っ暗で物陰の多い場所であれば、見間違いを起こしても仕方なし。家来もそそっかしいのじゃ」


 確かに見たのは一瞬だったし、暗がりで詳しくは見えていない。それが他の何かとの見間違いと言われても、おかしくはない。


「う、う~ん。そうなのかなあ……」

「それよりも。その植物を早く献上せよ! 最近肉ばかりで飽きた!」

「あ、ああ」

「識別は我輩に任せろ」


 旭はテューナにキノコを渡す。テューナはキマイラとして山で過ごした間、食べれる植物の匂いを判別できるようになっていた。そのため、山で取った植物の判別はテューナに一任している。


 一つ一つキノコを嗅いで判断し、食べれる食べれないで分けていく。


 あっという間に分け終わり、食べれるキノコを枝に刺して焚火で焙っていく。


「これで少しは豪華になったな。苦労したかいがあった」


 旭は肉とキノコに舌なめずりをして、焼けるのを楽しみに待つ。


「メ~~~」


 その傍で呑気に草を食べる山羊だった。


 

 焼けた肉とキノコとエナドリで夕食を楽しみながら、3人と一匹は夜を明かした。



 ◆◆◆



「んが?」


 一夜明けて、旭は頬に温もりを感じながら目を覚ました。


「何だ……?」


 山羊にしては何だかスベスベしている。手で触れて確認する。


「あん」

「……………………」


 声の主と触った物の感触で、何が頬に当たっているのかすぐに分かった。


 

 パントラの生尻だ。



「くぁwせdrftgyふじこlp!?!?!?」


 言葉にならない叫びを上げながら、パントラから勢いよく離れて地面を転げまわった。あまりにも勢いが付きすぎて、10mは転がった。


「何だ??? 何の音だ???」


 旭の叫び声で目が覚めたテューナだが、既に旭は遠くに転げてしまったため、何が起きたのか全く分からないままになった。



 

 それから数時間後


「という事があった」

「どこぞの獣であろう? 放っておけばよかろう」


 エナドリを飲みながら話すテューナとパントラだったが、あまり興味は無さそうだった。


「ところで、家来はどこに?」

「アサヒならトイレで奥の茂みに行ったぞ。思ったより長くかかっているが」


 そんな会話をしていると、旭が茂みから戻って来た。


「どうした? 腹でも壊したか?」

「ちょっと野暮用だよ……」


 旭は顔を真っ赤にしながら、エナドリを出して飲み始める。


 テューナは妙な臭いを感じ取り、鼻をスンスンとさせ、臭いを嗅いだ。


「…………なるほど」


 臭いの正体に気付き、すぐに納得した。


「我輩は一向に気にせんぞ?」

「生々しいからこれ以上は止めてくれ……!」


 旭は羞恥心で顔を押さえてふさぎ込んだ。


「何の話じゃ?」

「アサヒの女の趣味の話だ」

「容赦無いなお前?!!」


 すかさずツッコミを入れるが、話は止まらない。


「アサヒは我輩の様な女を娶りたいらしいが、性的に言えばもっと胸のデカい、巨乳と言うのか? そういうのが好みらしい」

「それは余の乳よりも大きいのか?」


 テューナはパントラの胸をジッと見る。


「……もう少し大きい方が好きなんじゃないか?」

「不敬!!」

「もう止めて下さいお願いします!!!」


 パントラにボコボコにされながら懇願する旭だった。



 ◆◆◆



 その日の夜



 テューナは土砂の撤去、旭は食材探し、パントラは焚火の番をし、晩御飯を食べていた。今日は旭が獲ったキノコと果実、テューナが土砂撤去中に取った獣(猪、鳥)だ。


「何とか今日までに退け終えた。いつでも通れるぞ」

「予定通りだな。他に誰も来なくて良かったよ」

「余をこれ以上待たせている時点で不敬ではあるのじゃがな」

「メ~~~」


 食事を取りながら話をしていると、ガサ、と、草を踏む音が聞こえた。


 全員(山羊を除く)が臨戦態勢に入り、旭は武器を取る。


 草を踏む音が徐々に近づき、近付く者の正体が明らかになる。



 それは、一人の小柄な少女だった。



 クリーム色のツインテール、後頭部に木の芽、クリクリとした大きな丸い茶色の目、可愛らしい少女の顔立ち、身長130㎝と小柄だが、胸には片方だけで頭より二回りも大きい乳房が付いている。


 服装は緑を基調とした踊り子の様なドレス、動きやすいなめし革の靴を履いている。


「うお!? 胸デカ!?」


 思わず声を出してしまった旭の頭を、パントラがどついた。


 少女は旭達を見て、


「ちょ、ちょっとちょっと!!? 怪しい者じゃないわよ!!」


 身振り手振りで敵意が無い事を示す。旭達は少女が丸腰なのを見て、襲ってくる可能性は低いと考え、臨戦態勢を解いた。


「何者だ?」


 テューナが睨みながら問うと、少女は大きすぎる乳房を揺らしながら胸を張って答える。


「私は『マカリー』! 旅人よ! アナタ達は?」


 名乗られた以上、こちらも名乗らない訳にはいかないので、旭は答えることにした。


「俺は旭。冒険者兼旅人だ」

「テューナだ」

「余はパントラ! エヒラフク大陸を統べる女王じゃ!!」

「んで、こっちが山羊」

「メ~~~」


 マカリーは3人と一匹を見渡して、


「随分楽しそうなパーティーね。どこまで行くの?」

「次の町の『ミフエル』で一度泊まろうと思ってる」

「私もその町に寄る予定なの! 食糧のストックが無くなっちゃったから……」


 よく見ると、マカリーの荷物は一切無い。手ぶらの状態だ。


「そんな軽装でここまで?」

「荷物を盗まれちゃったの。最悪だったわ」

「それはお気の毒に……」


 このまま放っておくのも悪い気がした旭は


「じゃあミフエルまで一緒に行こう」


 マカリーに提案する。


「いいの?」

「町まで一緒に行くくらいお安い御用さ。2人もいいだろ?」

「我輩はいいぞ」

「家来が見るなら余は構わぬ」

「だって」


 それを聞いたマカリーの表情が明るくなる。


「ありがとう皆! よろしくね!」


 こうして、マカリーが同行することになった。

 


 ただ一人、マカリーに不信感を抱いていたが。

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