第20話 助けてエナドリ



 デミウルゴスはテューナ達を追いかけて、教会の前まで接近してくる。



 教会の前は運良く広場になっており、戦うには都合がいい場所だ。


「こうなったらやるしかない!!」


 旭は剣を抜き、デミウルゴスに立ち向かう。マカリーも戦闘態勢に入る。


「グスタフさんは避難をお願いします!! 巻き込まれたら危ないんで!!」

「わ、分かった!」


 グスタフは慌てて教会の中に入り、身の安全を確保する。


 その間にテューナ達と合流し、4人と一匹が揃った。


「山羊も安全な場所に避難しろ。ここで失う訳にはいかない」

「メ~~~」


 通じたのか分からないが、巻き込まれないであろう位置まで離れていく。


『CoOOOOOOOOOO!!!!!』


 追い付いたデミウルゴスが、容赦なく旭達に拳を振り上げて攻撃してくる。4人は回避しながら、


「で、幽霊に対する対抗策は?! パントラ!!」


 どうやって倒すかを離し始める。


 テューナから解放されたパントラは両手から魔法を発動する。


「一番効率が良いのは魔法じゃ。魔法を当てれば確実にダメージにはなるはずじゃ」

「そうか! なら全員で魔法攻撃……」


 ここでやる気があった旭のトーンが大幅にダウンする。


 何故なら、このメンバーで唯一魔法が使えないからだ。完全に役立たずである。


「…………すまん。エナドリで後方支援するわ」

「お主魔法攻撃使えんからな」

「家来として一番スペックが低いのじゃ」

「ま、まあここは任せてよ!」


 容赦ない言葉に凹みまくる旭だったが、そんな暇も与えない勢いでデミウルゴスは攻撃を繰り出してくる。


 冷たい白い息、火の玉。多種多様な攻撃をランダム繰り出し、4人を翻弄する。


 旭はデミウルゴスの攻撃が届かない位置まで下がり、


「来い!! 『エナジードリンク』!!」


 スキル『エナジードリンク』の自動販売機を出現させる。


 何本か適当にボタンを押して出し、人並み外れた跳躍で躱し続けるテューナ達に、投げ渡していく。


 近付いて来た所で華麗に投げ渡し、回避行動をしながらエナジードリンクを飲んでいく。


 決してデミウルゴスの攻撃が緩い訳ではない。むしろ常人なら3回に1回当たってもおかしくない速さだ。それを平然と躱し続けるテューナ達が異常なのだ。


『COOOOOOOOOOO!!!』


 攻撃が当たらず逆上したデミウルゴスが更に攻撃速度を上げて襲い掛かるが、一足遅かった。


 テューナは大きく空気を吸い込み、


「ブウウウウウウウウウウ!!!」


 一気に炎を噴出させた。


 口から強力な火炎放射が炸裂し、デミウルゴスの全身を焼いていく。


 今回は魔力が多く込められているため、前にパントラと戦った時とは比べ物にならない位強力な威力だ。


『アッツイ!!?』


 思わず本音が飛び出したデミウルゴスは、あまりの熱さに耐えきれず、身体を捩らせる。


 そこに間髪入れずパントラの炎と氷の弾丸攻撃が叩き込まれる。


 散弾銃のように発射された攻撃は、デミウルゴスの全身に隈なく直撃し、反撃の隙すら与えない飽和攻撃となる。


 位置を変えながらダメージを蓄積させていく。


『己エ……!! アマリ私ヲ舐メルナヨ……!!』


 デミウルゴスは攻撃を受けながらも拳を振り上げた。


「させないよ!!」


 マカリーは両手を地面に付け、魔法を発動する。


 地面が隆起し、大量のうねる木々がデミウルゴスに向かって伸びる。木々はまるで生きているかのように動き、デミウルゴスの全身に纏わりついていく。


 そして、全身を縛り上げ、動きを完全に封じてみせた。


『ウ、動ケン……!!?』


 大木によってギチギチに締め上げられたデミウルゴスは、身動きが取れなくなっていた。


「……何で物理攻撃の木で幽霊が縛れるんだ?」


 旭が素朴な疑問を呟く。


 マカリーの発動した木の魔法はどう見ても物理。それなのに物理が効かない幽霊に通用しているのが不思議でならないのだ。


「それは魔力を帯びているからだと思いますぞ」


 後ろからグスタフが話しかけてくる。旭は驚いて距離を取る。


「と、言いますと?」

「魔法は魔力を用いて現象を起こす。すると、現象に魔力が含まれます。これにより、普通の自然現象とは違い、コントロールできるようになるのです。あの女子おなごが発動した木には魔力を帯びたので、幽霊であるデミウルゴス様を捕縛できたのだと思います」

「そういう事だったんですか……」


 グスタフの分かり易い説明で理解した旭は、拘束されたデミウルゴスを見上げる。


「すいませんデミウルゴスさん。暴れた以上はこちらもそういう手段で出るしかありませんでした」


 旭は丁寧に謝罪を織り交ぜながら、強硬手段に出ざるを得なかったことを説明する。


 デミウルゴスは、何とか拘束を外そうと必死になっており、旭の声は聞こえていない様子だった。


 そこへ、


「おーい!! 大丈夫か!?」 


 コンヂートが他の冒険者を連れてやって来た。


「あ、コンヂートさん。って、どうしたんですかその恰好!!?」


 コンヂート達は全身ボロボロの状態だった。あちこち汚れ、着崩れが酷い。軽度ではあるが、怪我をしている者もいる。


「そこの幽霊に立ち向かった結果だ。とんでもなく強かったぞ……」

「本当にウチのがすいませんでしたあ!!」


 旭はスライディング土下座でコンヂート達に謝り倒した。



 デミウルゴスは目の前にある教会を睨みつけていた。


『許セン……! 我ラガマルニエ様ノ聖地ヲ歪曲スルダケデハナク、コノ様ナ下品ナ構造物ヲ建テルトハ……!! 神ヘノ冒涜、万死ニ値スル!!!』


 以前会った時とは違い、かなり荒れている様子だった。


「何だか、すさんできたというか、危なくなっているというか……」

「おそらく悪霊化しているのでしょうな。ここからは、私めらの出番ですな」


 グスタフは信者達でデミウルゴスを囲ませ、懐から聖書を取り出す。


「諸君! これより【浄化】を始める!! 朗読始め!!」

「「「「「はい!!」」」」」


 グスタフの言葉を合図に、一斉に聖書を朗読し始めた。


 呪文めいたその言葉は、淡い光を帯び、デミウルゴスを包んでいく。



 【浄化】は、聖書の言葉を呪文として発動し、思念体型の魔物を消滅させる光属性魔法である。


 グスタフは聖属性と言っていたが、分類は光属性になる。


 大勢で行うことで魔力を多く込める事ができ、強力な魔物に対しても有効になるのだ。



 そんな理屈を旭が知るはずもなく、ただ綺麗だなと思いながら眺めるだけだった。


 その後ろでテューナ達は自動販売機からエナジードリンクを出して魔力を補充していた。山羊もついでにと言わんばかりに飲んでいる。


『OOOOOOOOOOOOOOO!!!』


 デミウルゴスは声を上げながら震え始める。消滅が近いのかもしれないと思い、旭は背を向ける。


(こんな形になって残念だけど、悪霊になってしまったのなら、仕方ないのかもな)


 残念に思いながら、自動販売機からエナジードリンクを出して飲み始める。


「お主はこれを出しただけだろ。何故飲む?」

「飲んでないとやってられない気分だから」



 バキン!!



「……?」


 エナジードリンクを飲み終わった旭の背後から、大きな破壊音が響く。


 その音は徐々に大きくなり、聞こえてくる数も増え始める。


 旭は振り向いて、音のした方に視線を向ける。



『COOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!』



 視線の先には、デミウルゴスが拘束する大木を自力で破壊する光景が広がっていた。


 黒い息を吐き、空洞の目を赤く光らせて大木を破壊していく。


「な、に?」


 旭が驚きの言葉を漏らした直後、デミウルゴスの拘束が全て弾けて破壊された。


『OOOOOOOOOOOOOOO!!!!!』


 衝撃波を生む程の雄叫びを上げ、全身から魔力を噴き上げる。同時に、周囲に火の玉の雨を降らせ、町を手当たり次第に燃やしていく。


 近くにいた信者達は蜘蛛の子を散らす様に逃げ出し、町の冒険者は信者達が邪魔になって動けず、周囲はパニック状態になっていた。


「嘘!!? 何で!? 私の拘束を破る力なんてなかったはずなのに……!!」


 マカリーが自身の拘束を破られたことに驚きを隠せなかった。


「……もしや、あのデミウルゴスとかいう雑種、魔法を吸収した……?」


 パントラが珍しく真剣な表情で考察する。


「神官という特徴からして、光に対して耐性があってもおかしくないじゃろう。それで白い雑種共の魔法を吸収してみせた訳か。見る限り光限定みたいじゃが、大したものじゃ。余ほどではないが」

「感心してる場合か!? だとしたら今のデミウルゴスはさっきより強いってことだろうが!!」


 狼狽える旭だったが、それが仇となった。


 デミウルゴスは逃げ惑う信者達よりも動いていない旭に攻撃を当てやすいと瞬時に判断し、30㎝くらいの火の玉を一つ、旭に向かって発射する。


 ボッ!! という音を上げて放たれた火の玉は、距離が近過ぎたのも災いし、旭に直撃し、爆発した。


 近くにいたマカリー、パントラは爆風から身を守るために腕で顔を隠す。


 旭は爆発の衝撃と熱で吹き飛び、自ら出した自動販売機に叩き付けられる。


「げぼ!!?」


 肺から無理矢理空気を吐き出され、一瞬呼吸ができなくなる。


 自動販売機は大きく凹み、旭ごと倒れてしまった。幸か不幸か、このおかげで遠くまで吹き飛ばされず、クッションの代わりとなって大怪我にならずに済んだ。


 すぐに呼吸はできるようになったが、全身に痛みが走る。


 直後、自動販売機が消えて旭は地面に転がされる。


(い、痛ェ!!? 爆発ってこんなに痛いのか……!!?)


 悶えながら痛みの中心を押さえる。装備が吹き飛び、素肌が露呈してしまっていた。ヒリヒリするような痛みが強く、いつまでも続いている。


「家来!!」


 パントラが氷の魔法を発動し、旭の爆発を受けた箇所を冷やす。


 その間に攻撃されないように、マカリーとテューナが反撃し、旭から視線を逸らさせる。


 パントラの応急処置のおかげで、痛みが引いていくのを感じる。


「あ、ありがとうパントラ……」

「今は動くでない! 傷が開く!!」


 朦朧とする意識の中、パントラの心配そうな表情が旭の目に映る。


(駄目だな。こんな幻覚を見るなんて、相当深刻なダメージを受けたか……)


 心の中で自身の生命の危機を感じ取り、徐々に意識が遠くなり始める。


(悔しいなあ……。この世界じゃ、俺は、弱過ぎる……)


 自分の弱さを悔いながら、ゆっくりと目をつぶる。


 意識は、徐々に閉じようとし始める。



「ぐお!!?」

「きゃあ!!?」



 その時、遠くでテューナとマカリーの叫びが聞こえる。


 そして響く戦闘音。


 まだ、皆が戦っているのが分かる。


 

 気付いた時には、旭は立ち上がっていた。


 

 腹に爆発による火傷を抱えながら、しっかりと踏ん張って立っていた。


「家来!! 大人しくしているのじゃ!!」

「ごめんパントラ。俺も驚いてるんだけど、呑気に寝てられないらしい」


 心配するパントラに微笑みながら、旭はゆっくりと手をかざす。


(なんでだろう。今なら、この状況をどうにかできそうな気がする)


 深呼吸をして、旭はスキルを発動する。



「来い! 『エナジードリンク』!!」



 旭の手が光り出し、光の中から、新たなエナジードリンクが3つ現れる。


 旭はしっかりとエナジードリンクを掴み、パントラに全て投げ渡す。


「これを、テューナとマカリーにも、渡してくれ」


 パントラはエナジードリンクを見る。そこには『クリーチャー ホワイトテイスト』と書かれていた。効力は。


「でかしたぞ家来!! 後は女王である余に任せよ!!」

「ああ、頼む……」


 旭は膝をついて俯いた。


「メ~」


 そんな旭の傍に、山羊が寄り添う。任せろと言わんばかりの表情をパントラに向け、パントラは頷き、大きく跳躍する。



 デミウルゴスの猛攻がさっきの比にならない速さと量で繰り出され、テューナとマカリーは地面に叩き付けられていた。


「このクソ童……! 調子に乗るなよ!!」


 テューナが怒りで立ち上がるが、猛攻で炎を出す暇すらない。マカリーの木属性魔法も、威力の上がった攻撃で出しても出しても粉砕され、拘束どころか攻撃すら通らない状況だった。


 打つ手がなく、キマイラに戻ろうかと考えていた時、


「テューナ! マカリー! 受け取るのじゃ!!」


 デミウルゴスよりも高い位置からパントラがエナジードリンクを投げ渡す。直後、デミウルゴスの黒い息を吐き出すが、パントラは華麗に身を翻して回避する。


 2人は受け取ったエナジードリンクを見る。


「これは、新しいエナジードリンクだな」

「この土壇場で新しいエナドリ!? やるわねアサヒ!」


 同時に缶を開け、一気に飲み干した。パントラも着地してから、攻撃を回避しながら飲んでいく。


 そして、新たな力をその身に宿した。


 テューナは拳を鳴らし、デミウルゴスに向かって跳躍し、拳を振り上げる。


「さっきのお返しだ。存分に喰らえ」


 振り上げた拳がデミウルゴスの顔面に叩き込まれ、轟音と共に殴り飛ばす。


 骸骨を直接殴ったため、デミウルゴスの顔面は3分の1が砕け、衝撃で大きく態勢を崩す。


 倒れていく方向には、マカリーが後頭部から木の腕を出して待機していた。


 2mにもなる巨大な腕を大きく振るい、拳を叩き込める射程範囲内に入った瞬間、容赦のない連撃をぶっ放す。


「ゼラララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララ!!!!!」


 渾身の叫びと共に、大木の拳がデミウルゴスに叩き込まれ、全身を砕いていく。



 さっきまで通じていなかった攻撃が通っているのは、旭の生み出した新たなエナジードリンクの効果のおかげだ。



 その効果は『魔法属性付与』。テューナ達の行動、攻撃全てに魔法属性が付与され、本来物理の攻撃も、魔法攻撃となったのだ。



 そのため、テューナとマカリーの動きが強化され、物理攻撃がデミウルゴスに通用するようになったという訳だ。



「ゼラア!!!!!」


 マカリーの最後の一撃がデミウルゴスを吹き飛ばし、自身の倍の高さまで宙を舞わせる。


『O、OOOOO……!? コ、コンナハズデハ……?!』


 バラバラに粉砕しかけるデミウルゴス。


 満身創痍の幽霊にトドメを差すべく、テューナとパントラが天高く飛ぶ。


「合わせろパントラ」

「余に命令するな!!」


 身を捻りながら、2人はデミウルゴス目掛けて飛び蹴りを放った。



「「くたばれ!!!」」



 2人の飛び蹴りは、衝撃波と共にデミウルゴスを貫通する。


 魔法属性が乗った一撃は全身にダメージを伝播させ、貫通と同時に、爆発の如く粉砕されていく。


 断末魔の叫びを上げる暇もなく崩壊し、弾けて消滅した。


 消滅を目撃した町の人々は歓喜し、喝采を送った。気を失いかけていた旭も、笑顔で2人の活躍を喜んだ。



 2人の飛び蹴りは、そのまま聖マルニエ教会の大聖堂へと突っ込み、教会をも粉砕した。



 飛び蹴りの先に、丁度教会があったのだ。


 喝采は沈黙し、旭は2人のやらかした精神的ショックがトドメになり、気絶した。



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