第14話 助けて少女?



「というわけで、助けに行くぞ」


 旭がテューナとパントラに腕を組んで言い切る。


 夕暮れ時、3人と一匹は町の外れにある裏路地で身を潜めていた。追いかけ回されるのを避けるためだ。


 追って来た傭兵の大半をボコボコにしてから合流したテューナは、途中で捕まえた鳥を食べながら口を開く。


「どうして助ける?」

「俺達のせいだからだよ!! 巻き込んだっていう自覚を持て!!」

「それより場所を変えぬか? 寒いのじゃ」

「パントラは元凶という自覚を持て!!!」


 2人を叱りながら、これからについて話し合う。


「まずはマカリーが捕まった場所だが、要塞近くの倉庫の中だ。さっきあのお婆さんから聞いた」

「逃走中に器用な事をする」

「逃げ回ってたら一周して戻っただけだ。で、いくつかある倉庫のどれかの地下に保管庫がある。捕らえられてるとしたらそこだそうだ」

「信用できるのか?」

「分からない。けど他に情報が無い以上、この情報を信用するしかない」


 旭は物陰から傭兵が来ないか、町の様子を見る。


「後はどうやって侵入するかだが……」

「それについて、我々も協力させてもらえないか?」


 旭達の背後から声を掛けられた。


 慌てて振り向くと、そこには鎧を着た兵士達が立っていた。その中に一際目立つ鎧を着た人物がいた。フルフェイスを被った重装備で、顔は見えない。


「驚かせてすまない。私は自衛団団長をしている『カジサ』という者だ。この町を守る者として、是非協力させて欲しい」 



 ◆◆◆



 とある倉庫 地下



 マカリーは手枷を付けられ、傭兵に地下の部屋の前に連れてこられていた。


 小窓につっかえた後、何とか助けてもらい、旭達の関係者として捕まったのだ。


 傭兵は部屋の扉を2度叩く。


「誰だ」


 部屋の中から渋い声が聞こえてきた。


「失礼しやす! 本日捕まえた奴を連れてきました!」

「入れ」


 扉を開けると、


「んな」


 マカリーは絶句した。



 何故なら、部屋の至る所に薔薇と趣味の悪い立像が置いてあるからだ。


 

 大理石で造られた立像は、どれも全裸でマッチョなのだが、問題はその顔だ。


 髪型は若者によく似合うものがきまっていたが、顎が割れて完全なケツ顎。瞳は大きくキラキラしているが、とてもケツ顎とは合っていない。というかおじさん顔だ。


 そんな立像が様々なポージングでいくつもあったら絶句したくもなる。


 だが問題はそれだけではなかった。


「君が今日仲間に危害を加えた連中の仲間だね?」

「……アナタは?」

「私はこの町の傭兵団の団長、『アギサ・ミファ』だ。覚えておくといい」


 恰好をつけて自己紹介するアギサだったが、マカリーは引いていた。


 高価な服装で身を固めているが、アギサの体形は、腹が明らかに出ているのが分かるポッチャリ体形。その体形で服装の高価さが台無しになっている。


 何より、顔が部屋にある立像達と同じなのだ。


 髪型、瞳、ケツ顎、オジサン顔。全てこの男と一緒だった。つまり、この立像達はこのアギサを元に造られたということだ。


 その趣味の悪さに、マカリーはドン引きしていたのである。


 アギサはそんな事気にせずマカリーに近付く。


「君には私の仲間へ危害を加えた罪がある。それは理解しているかな?」

「私何の関係も無いんだけど……」

「残念だが、私の部下が証言している。これは覆らない」

「酷い捏造」


 呆れながらツッコむマカリーだったが、アギサは話を進める。


「しかし私も非道ではない。もし君が私の提示する条件を飲んでくれれば、無罪放免にしよう」


 アギサはクルクルとバレリーナのように回転しながら、マカリーの周りを回る。


「……条件って?」

「フフフ、それは」


 うざったい微笑みを浮かべながら、マカリーの正面に立ってポージングを決める。


「そ~れ~は~♪」


 全く似合っていないポージングを繰り返し、ミュージカルの様な口調で溜める。流石のマカリーもちょっとイライラしてきた。


「それは!!」


 ビシィイ!! と指差しポーズを決め、言おうとした時だった。



 ズドゴォン!!!!! という爆音が響き渡り、地下に振動する。



 アギサはすぐにその異変に気付いた。


「何だ?」


 そこへ、部屋に傭兵が一人入って来る。


「申し上げます!! 侵入者です!!」

「何!? 警備係は何をしていた!!?」

「そ、それが、侵入者は……!」



「正面から入って来ました!!!」




 ◆◆◆



 遡る事、数十分前



 旭達はカジサ、それに兵士達と共に、町を走り抜ける。


「傭兵団が潜伏している倉庫は分かっている。今から突撃すれば手を出す前に間に合うはずだ」


 カジサが走りながら場所を教えてくれる。


「分かっているならどうして動かなかったんだ?」

「大義名分が無かったからだ。町長に訴えても、示談で済まされてしまったからな」

「それは酷い」


 しばらく走ると、一つの倉庫の前に辿り着いた。倉庫の扉の前には、傭兵の見張りが立っていた。


「あそこだ! 今から突入して扉を開けさせる!」

「まどろっこしい」


 テューナが先行し、走りながら拳を振り上げる。


「な、何だお前?!」 


 傭兵が武器を構えるが、テューナは止まらない。


「おーい! 死にたくなきゃ退けた方が良いぞー!」

「ぬかせ!!」


 旭は一応警告したが、傭兵たちは無視して突撃する。


「フン!!!!!」 


 テューナは跳躍し、突撃してくる傭兵たちを飛び越え、扉まで一気に近付く。そして、拳を扉に叩き付ける。



 ズドゴォン!!!!!



 叩き付けた瞬間、爆発したのかと錯覚するほどの衝撃が発生した。



 その一撃で扉が粉砕し、周囲にある物を全て吹き飛ばす。


 扉を始め、傭兵達も吹き飛び、周囲一帯が惨事になってしまった。


 旭は衝撃波で吹き飛ばされそうになりながら、テューナの恐ろしさを再確認するのだった。

 

 吹っ飛ばされた衝撃で中にいた傭兵達も伸びてしまい、死屍累々と言った状況だった。


「大したことはなかったな」


 テューナは鼻をフン! と鳴らしながら奥へ進む。


 その後を旭、パントラ、山羊、カジサ、兵士達の順で入っていく。兵士達はテューナのパワーに騒めいていた。


「何なんだ、彼女の力は?」

「スキルか? 魔法か?」

「どちらにしてもとんでもない威力だったぞ」

(すいません。キマイラです)


 全員が奥へ進むと、地下へ降りる階段があった。ただ、そこまで幅が無いため、一人ずつしか降りられない。


「我輩から行かせてもらう。お主が先に行っても大して役に立てないだろ」

「そんなバッサリ言わなくてもいいんじゃないかな」


 ディスられたが、テューナの言っている事は正しいので、テューナに先行してもらう事にした。


 その後に山羊に乗るパントラ、旭、カジサの順で降り始める。


「お前たちは戻って来た傭兵達を足止めするんだ! 私は彼らに付いていく!!」

「「「「「は!!」」」」」


 カジサの指示に従い、兵士達は地上で待機する。


 地下は入り組んだ廊下になっており、所々部屋が存在している。明かりは壁に火の付いた蠟燭が立てられ、明かりが灯ってはいるが薄暗い。


 テューナが前進していく度に傭兵が現れるが、


「侵入者だと!? こ

「フン」


 ゴ!!


「ぐえ?!!」


「何の音だ!?」

「フン」


 ゴ!!


「あぎ!!?」


「うお!? 何が起こった!!」

「フン」


 ゴ!!


「げぶ?!!」


 リズムよくパンチで殴り倒し、壁に叩き付けてめり込ませる。まるでオブジェのようだ。これで死んでないのだから驚きだ。


「うへえ、痛そう……」

「…………見つけた。一番奥の部屋だ」


 テューナは臭いを嗅いでマカリーの居場所を探し当てる。


「しかし、何だ? 別の臭いがするが……」

「そんな事はどうでもよいのじゃ。早々に決着を付けるべきじゃ。余は早く休みたいのじゃ」

「我儘!!」

「メ~~~」


 3人と一匹は騒ぎながら廊下を走っていく。そして、廊下の奥に他の扉とは明らかに豪華な扉が見えた。


「セイ!!」


 テューナが飛び蹴りを放ち、扉を蹴り破った。


「無事かマカリー!!」


 旭が急いで突入する。



 目に飛び込んできたのは、マカリーの後頭部にある木の芽が成長し、木でできた巨大な口となってアギサに噛みついて持ち上げていた。



 アギサは四肢を全て使い、鋭い牙にかみ砕かれないよう必死に堪えている。


「オマエいい加減にしろよ??? 人様のおっぱい見てハアハアした挙句母乳出ますかとか気色悪いの極地だぞ、ア? 自覚あんのかキモ豚???」

「すみませんすみませんすみません!!!!! 許してくださあああああい!!!!!」


 旭達は状況が呑み込めず、沈黙してしまう。


「…………どういう状況???」


 思わず口に出したところで、マカリーが旭達に気付いた。


「あ! えっと、これは……!」


 マカリーは気まずい表情で口ごもる。


 テューナが溜息をついて、


「やはりな。お主、魔物だな」


 衝撃の事実を喋る。


 旭は驚きで目を丸くしていた。


「ま、魔物? マカリーが?」

「そうだ。我輩と同じ臭いがしていたから何となく分かっていた。確証が無いから言わなかったがな」


 マカリーは苦虫を嚙み潰したような表情へと変わる。


「…………ごめんなさい」


 謝ると同時に、マカリーの腕がバラバラと分かれ、木の枝の束に変貌する。


「旅人なのは嘘。私は木から生まれた魔物『ナリーポン』と呼ばれる存在よ」


 旭はマカリーの変貌した木の腕を見て、信用せざるを得なかった。カジサは兜越しに顎をさすりながら


「ナリーポン……、聞いたことがある。少女の姿をした木の実を作る木の魔物。その木の実の少女には生命が宿るという言い伝えがある。実物を見るのは初めてだ」


 ナリーポンの説明をしてくれた。


 旭はマカリーを見つめながら質問する。


「どうしてそんな嘘を……」

「だって、アサヒ、私の事怖がったじゃない……」

「え? いつ?」


 身に覚えのないの事に、つい聞いてしまう。マカリーは不貞腐れながら


「森の中で出会った時よ!」

「森の中……?」


 記憶を辿り、マカリーと出会った時を思い出す。確かに武器を構えたが、怖がった訳ではない。


「別にあの時は怖がった訳じゃ……」

「家来。マカリーが言っておるのは家来が森で遭遇した時ではないか?」

「え?」


 パントラの言葉で更に前の記憶を辿る。該当する記憶が、一つある。


「え、もしかして、キノコ狩りをしてた時に遭遇した……」

「……そうよ。あの時出会ったのが、私よ」

「嘘だあ?!!」


 あの木の人間がマカリーだったのだ。しかしあの時とは似ても似つかない。背格好も何もかも一致しない。


 マカリーは頬を膨らましながら


「あの時は、どんな姿で前に出ればいいか分からなくて、ずっと探ってたのよ」


 照れながら答えた。


「何を探ってたんだよ?」

「そ、それは……。アサヒの好みの女性像、というか……」

「俺の? 何で?」

「何でって……。まあ覚えてないのも無理ないわよね」


 溜息をつきながら、手を普通の手に戻す。


「アナタから貰った力で、私はナリーポンになれたの。あの不思議な飲み物でね」

「???」


 該当する記憶を思い出そうと必死に自分の記憶を探る。それよりも先に思い出したのはテューナだった。


「お主が余ったエナジードリンクを木にやった時じゃないか? ザンメングに着く前の」

「…………ああ!!!!!」


 確かにザンメングに着く前日、元気のない木に余ったエナジードリンクをあげた。あの時の木がマカリーになったのだ。


「あの時の木がマカリーだったのか!! 随分と様変わりして……」


 親戚の子供がしばらく見ないうちに大きくなった時のような目でマカリーを見つめる。マカリーは思い出してくれた事に、嬉しくなってにやけてしまう。


「お、思い出してくれたのならいいわよ。だからアサヒは私にとって命の恩人。その人に好かれる姿で前に出たいって思ったのよ」


 モジモジしながら理由を話してくれた。


「そういう事だったのか……。それなら最初から言ってくれれば良かったのに」

「そ、そんな事言われたって……」


 マカリーの心情は、『好きな人にスッピンを見られて恥ずかしいから、あれはスッピンであったということを隠したい』というものだった。


 旭には到底理解できないものだろう。


「で、木の部分は普段隠していると」


 テューナが今にも食われそうなアギサを見上げる。もう限界寸前で、相当苦しそうな表情をしている。


「木の部分は【変化】で無理矢理隠してるの。エナジードリンクの魔力を節制して隠していたから結構大変だったわ」

「我輩がエナジードリンクを渡しておかなければ危なかったかもな」

「まあそうね。結構ギリギリだったわ」

「あの時エナドリ渡してたのってそういう理由か」


 ミフエルに入った時、エナジードリンクを渡していた理由に旭は納得した。


「マカリー君だったかな? そろそろ放してあげてくれないか? アギサは反撃する体力はもうなさそうだし」

「……分かったわ」


 カジサの説得に応じ、マカリーはアギサを木の口から放す。そのまま落下し、床に転がる。


「し、死ぬかと思った……」

「傭兵団団長アギサ。もう観念したらどうだ」


 カジサが床に倒れているアギサの前に立つ。アギサは歯ぎしりし


「断る!! 私は私の信念を貫く!!」

「お前……」

「……お知り合いなんですか?」


 旭が間に入って質問する。カジサは少し俯きながら答える。


「知り合いどころじゃない」


 兜に手をかけ、ゆっくりと外す。そして、顔が露わになる。


「……は?」


 その素顔に驚きを隠せなかった。何故なら


「同じ、顔?」


 カジサの顔が、アギサと全く同じ髪型、瞳、ケツ顎、オジサン顔をしているからだ。


「アギサと私は、双子の兄弟だからな」

「醜さ2倍じゃな」


 パントラの言葉に、アギサとカジサは凹むのだった。


「謝りなさい今すぐ」


 旭はパントラに謝罪を促すが、華麗にスルーされる。それを見た山羊が馬鹿にするように歯茎を見せてきたので無言で叩いた。


 気を取り直して、旭は2人に質問する。


「で、どうして双子の二人が別々の団に?」

「それは、思想の違いだ」

「思想……?」


 前の世界でも、考え方の違いで戦争にまで発展したケースを知っている。双子が袂を分かつ位なのだら、とても大きな問題なのだろう。


 旭は覚悟を決めて


「それは、一体何ですか……?」

「ああ、それは……」


 カジサは神妙な顔つきで、答える。



「デカ乳首がいいかミニ乳首がいいかで喧嘩したんだ」



 あまりのくだらなさに旭は無言で助走をつけてカジサを殴るのだった。



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