体育館裏
「それでは、これでホームルームを終わります。皆さん、気をつけて帰るように」
担任の相良先生のホームルームの終了を告げる言葉を聞き、学生たちは一斉に帰る準備をする。かくゆう俺もカバンに教科書をしまい、帰るための準備をする。しかし、今日の放課後は体育館裏に呼び出されており、そのまま帰るわけにはいかない。
今から告白されるのかなぁ、とぼんやりと俺が考えていると、隣で俺と同じように帰る準備を整えている宇佐美が俺に話しかける。
「今から体育館裏に行くんですか?」
「ああ、あんまり宇佐美を待たすわけにはいけないからな」
そう言って、俺は机に入れていた手紙をカバンの中に入れる。
少しして帰る準備を終えた俺たちは、歩きながら今日の放課後の動きを話し合う。しかし、隣にいる宇佐美は終始、ソワソワした様子で落ち着きがない。
「おい、宇佐美。落ち着けって」
「はっ、はい!? わっ、私は落ち着いてますよ!?」
どう見ても落ち着いていないのだが……。しかし、そんなに気になるのだろうか?
「そっ、それじゃあ、私は校門で待ってますから……がっ、頑張ってきてください!」
「おう」
校門に着いた俺は、宇佐美からの見送りを受けながら、手紙に指定されていた体育館裏に向かう。
しかし、実際に行くってなったら緊張するなぁ……。
ーーーーーーーーーー
「ここら辺か?」
体育館裏に着いた俺は、手紙で俺を呼び出した本人がいないのだろうかと辺りを見渡すが、それらしき人影は見つけられない。まだ、来てないのかな? 俺がしばらく辺りをキョロキョロとしながら、手紙の相手を待っていると……一人の女生徒が俺の方へ近づいてくることに気づく。
あっ、あの子が手紙の差し出し人!?
俺の方へ近づいてくる人物。それは、俺も知っている人物であった。
王島英梨香。宇佐美からこの学園でかなりの権力を持った人物だと聞いていた人物だった。日本最古の財閥、王島財閥の当主の一人娘で、勉強・スポーツ共にトップクラスの優等生だと宇佐美からは聞いている。
そんな王島英里佳が俺の前にいる。俺の心が動揺していることを知らぬまま、王島英梨香は金髪の縦ロールを揺らしながら、ゆっくりと俺に近づいてくる。
なんで、俺なんかに学園でもトップクラスの権力を持った彼女が興味を示したんだ!?
俺が内心で焦っている間にも王島英梨香は俺の方へ近づき、目の前で止まる。
「お待たせしてしまいましたね、周王春樹さん」
そう言って、彼女は俺に向かって頬を吊り上げ、笑顔を作る。
まだ、少しだけ待ち合わせの相手が王島英梨香じゃないと希望を持っていたんだが……完全に希望を砕かれてしまった。どうやら、本当に手紙の差し出し人は目の前にいる彼女らしい。
「いや、そんなに待ってないよ王島さん」
内心の動揺を悟られないように、俺はできるだけニコやかに彼女に話しかける。
「ふふっ、そうですか。それならば、良かったです」
俺の返答に、彼女は口に手を当て、コロコロと笑う。そして、しばしの間笑ったあと、口を開く。
「今日来てもらった要件というのは他でもありません。周王春樹さん……私のものになってくれませんか?」
「んっ? それって恋人になって欲しいってことで良いのかな?」
俺は彼女の言い回しに変な感じを覚えながらも、彼女に言葉の意味を聞き返す。
「そうとって貰ってかまいませんわ」
そう言って、彼女はニコッと笑顔を作るのだった。まさか、差し出し人が彼女だったことは予想外であったが、俺の答えは最初から決まっている。
「ごめん、王島さん。君とは付き合えない。俺には、他に好きな人がいるんだ」
俺が告白の返答をすると、ビクッと王島さんは一瞬体を震わせた後、下を俯いたまま口を開く。
「そうですか……今日はありがとうございました」
そう言って、王島さんは俯いたまま動かなくなった。俺は声をかけようかと思ったが、今振られた相手から慰められても空しいだけだろうと思いとどまる。
「俺……帰るね」
「……」
返事が返ってこないことを承知で帰ることを告げ、俺は宇佐美の待っている校門へと向かう。
あまり、思いつめないと良いんだけど……。
ーーーーーーーーーー
《王島英梨香視点》
周王春樹が完全に去ったあと、しばらく動かなかった王島梨香は俯いたまま、笑い出す。
「フフフフフフフフ……。周王春樹……やっぱり一筋縄ではいきませんわね!」
彼を私のものにして、あの女に見せつけてやれば最高に良かったのだけど、現実とは思い通りにはいかないものね。
けど、それでこそやり甲斐があるってものよね! 苦労の末に、私の前であの女が屈辱に顔を歪めている姿を想像すれば、こんな苦労などあってないようなものよ!
彼女は自分の中から湧き出る嫉妬心を糧に、宇佐美杏の破滅に意志を燃やす。
「ハハハハハハハハ! 最高、最高だわ! 私は今、充実している!」
彼女は勢いよく顔を上げると、感情のままに、しばらくの間、哄笑を上げ続ける。誰もいない体育館裏には、彼女の笑い声が響き続けるのだった。
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