戦闘


「足も縄で縛らなかった自分達を恨みなッ!」


 俺がそう宣言すると、声に気付いたのか、遠くの方で見張っていた執事達もこちらに向かってくるのが見える。見た感じ4人ぐらいは居るだろうか。幸い、中が広いお陰で辿り着くにはもう少し時間が掛かるだろうが、それでも数分と言ったところだろう。あまり、時間はない。


 あの人数に合流されたら不味いッ! そうなる前に近くのヤツらを倒すッ! まずはアイツからだッ!


 俺はまだ混乱状態が抜け切っておらず、オロオロとしている執事の前に疾駆し、その勢いのまま腹に蹴りをぶつける。しかし、さっきと違い、今度は衝撃で後ろに飛びそうになっている執事の腕を掴み、俺の背後から掴み掛かろうとしている2人の執事達にぶん投げる。


「「ぐわああぁぁッ!」」


 うまく巻き込まれてくれたようで2人の執事は両方とも俺が投げた執事の下敷きになってくれた。2人の執事達が上に乗っている執事を退かそうとしている間に、俺は2人の執事の頭に蹴りをかます。


「「ぐはっ!」」


 俺の脚にもの凄い衝撃が伝わってくると共に、俺が蹴った執事達からミシッと嫌な音が鳴り、2人の執事は沈黙する。気絶……してくれたのか?


「ハァ……ハァ……あと4人か……。いや外にも居るだろうし、もっとか……」


 とりあえず、今のうちに親指を元に戻さなくちゃな。他の執事が来る前にやらなきゃな。でも、あまり時間がねぇ。


 躊躇している時間は無いと自分に言い聞かせ、俺は外れている親指の関節を嵌めようと力を入れる。


「ぐおおおおおおお!」


 外すのも痛えが、入れるのもめちゃくちゃ痛ぇ! ガキンッという音が鳴り、外れていた親指の関節が嵌まる。よし、とりあえずこれで右手も完全に使えるようになった。


 俺が親指の関節を嵌めている間にも、執事達は俺の近くにまで来て、合流した者から順番に俺を取り囲むように円を作っている。複数人で一斉に飛び掛かって来る気か……!


 最後の執事が合流すると同時に、一人の執事が口を開く。


「お前ぇ……よくもやってくれたなぁ。たった1人で4人もやるたぁ、ちょっとお前のことを過小評価していたぜ」


「お前らの評価なんてどうでもいい。宇佐美は絶対に返してもらうぞッ!」


「まぁ、待てよ。俺たちもお前には同情してるんだぜ? 元はと言えば俺たちもあのお嬢様に無理矢理執事にさせられてるんだ。だから、本心を言えば、お前を応援してやりたいんだ」


「……じゃあ、俺を見逃してくれよ」


 俺の頼みに執事は肩をすくめて、ため息を吐く。


「そいつは出来ねえ。お前を逃しちまったら今度は俺がヤバくなるからな」


「……なるほどね。結局、戦う以外に道は無いってわけか」


「そういうことだッ!」


 執事の男の言葉を合図にしたように、俺を取り囲んでいた4人の執事が一斉に飛びかかってくる。


 思い出せ、俺ッ! 二条さんの教えを。あの時、二条さんはなんて言ってたっけ……。




ーーーーー




『良いですか、周王様? 戦いはいつも1対1とは限りません。時には10人以上の敵に囲まれた状態で戦う時もあるかもしれません。そんな時に重要なのは、死角を作らないことです』


『死角ですか?』


『はい。戦闘において何より怖いのは敵がいつ、どこから攻撃を仕掛けているか、分からない時です。その為にも、常に視線を散らし、360度すべての状況を把握しなければなりません。達人の域になれば、見ずとも対処できますが、周王様には遠い世界でしょう』


『……』


『そんなに落ち込まなくても大丈夫ですよ。幸い、周王様は目が良い。その目で相手を捉え続け、1人ずつ冷静に対処すれば、負けることは無いでしょう。はい、それでは複数人との戦闘の訓練を始めますよ』


『えっ、ちょっと待ってください! なんで二条さんが2人も!?』


『分身の術です。ほら、ボーっとしている時間はありませんよ!』


『うわぁ!』




ーーーーーーーーーー




 最後に苦い記憶が蘇ったけど、そうだ! 心は冷静に、視線を散らして360度を警戒する!


 二条さんの教えを思い出し、俺は一番早く飛び掛かろうとしている執事の腕を掴み、懐に潜り込むように後ろに迫っている執事達に当てるように背負い投げをする。


「ぐわぁ!」


 一人巻き込まれてくれたようで、縺れ合いながら地面を転がっていく。残り2人の執事は俺の反撃に面を喰らったようで一瞬、硬直する。その隙に俺は一人の執事の懐に潜り込み、顎にアッパーカットを食らわせる。


「ぐがぁッ!」


 アッパーカットを食らわせた執事はうずくまり、顎を押さえて苦しんでいる。これで、やっと1対1だ。


 俺と正面から対峙する執事は、顔を苦渋に歪め、俺の隙を窺っている。しばしの間、睨み合う時間が続いたが、痺れを切らしたようで執事が俺に飛び掛かって来る。俺は先程他の執事にしたのと同様に飛び掛かって来る執事を背負い投げで地面に叩きつける。


「ぐばぁっ!」


 思い切り地面に叩きつけられた執事は叩きつけた時に強打したのか、背中を押さえ、そのまま立ち上がってこない。


 よし! とりあえず、中にいた執事は全員倒したぞ! 待ってろよ宇佐美……。こんな下らない計画、全部ぶっ壊してやるからな……!

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