エピローグ


「うっ、う〜ん……」


 なんだこれ、体中が痛いぞ。ていうか、俺何してたんだっけ? ……そうだ! 宇佐美は無事なのか!


 体中に走る痛みを無視して俺は飛び起きる。体を起こすと、そこはいつもの俺の部屋、宇佐美家が用意した俺の部屋だった。どうやら俺はベッドで寝かされていたらしい。まだ、ボーッとする頭を無理矢理働かせ、俺はベッドから降りようとするが……


「どこに行くつもりですか? 周王様」


「うわぁ!」


 いつからそこに居たのか、二条さんが俺に話しかけてくる。びっくりした……。二条さんってばまったく気配が無いから、本当に心臓に悪い。ていうか、そんな事言ってる場合じゃない!


「二条さん! 宇佐美は、宇佐美は無事なんですか!?」


 俺は傷む体を引きずり、二条さんの肩を掴んで訊ねる。すると、二条さんは一呼吸した後に口を開く。


「安心してください。お嬢様は無事保護されました。現在は警戒も兼ねて自室で休まれています」


 二条さんの言葉を聞き、俺はホッと一息を吐く。


 そうか……。宇佐美、無事で良かった……! あの後もし、宇佐美の身に何かあったら俺は一生後悔するところだった。


 宇佐美の安否を確認できた俺は、助けることが出来たという嬉しさで思わす小さくガッツポーズを取る。そんな俺を見ながら、二条さんは言葉を続ける。


「周王様、お嬢様を助けていただきありがとうございました。今回は我々も後手に周り、周王様がいなければ、最悪のケースも考えられました。お嬢様を雇われている者の代表として、深く感謝させていただきます」


 そう言って、二条さんは深く頭を下げる。その姿に俺はタジタジになってしまう。


「そっ、そんな二条さん、頭を上げてください。俺は感謝されるような事はしていませんよ。俺は宇佐美が与えてくれた優しさをそのまま返しているだけですから」


「……そうですか」


 俺の言葉に二条さんは渋々といった感じで頭を上げる。


「それでは、周王様もお疲れでしょうからゆっくりお休みになってください」


 そう言って、一礼した後に二条さんは俺の部屋から出て行く。


 それにしても、宇佐美が無事で本当に良かった……! 今回の件で宇佐美の隣にいるのに相応しい男に少しだけ近づけたかな? そうだと嬉しいんだがな……。




ーーーーーーーーーー




《神崎遥視点》


「……お嬢様、一体いつまで泣いているつもりですか?」


 神崎遥はため息を吐きながら、目の前でベッドに顔を埋めて泣き続ける自分の主人に訊ねる。


「なっ、泣いてなんかいないわよ!」


「そんなことを申しましても目の周りが腫れていますよ。目も充血していますし……」


「こっ、これは……そう! 目にゴミが入ったのよ! 少しは察して頂戴、神崎!」


「そんな無茶な……」


 周王春樹に敗北して以降、お嬢様はずっと泣いていた。お陰で布団は毎日のようにビショビショになっていた。食事の度に無理矢理、部屋から連れ出しては、布団を洗濯するのだが、部屋に戻ればまた泣き出し、完全に無限ループと化していた。


「えぐ……えぐ……」


 一向に泣き止まない自分の主人に嘆息し、神崎遥は現実逃避をするように周王春樹との戦いを思い出す。


 まさか、私が敗北するとはね……。油断はしていなかったつもりですが。心のどこかで格下だと無意識に思っていたのだろうか……。


 神崎遥は周王春樹に外された肩をさすりながら、ふと、気になっていた事を思い出す。


 彼が私の肩を外した技……どこかで見たことがあったのですが……。そう、あれは宇佐美家との御前試合の時……。


「神崎! 私をほったらかしにしないで! 私を慰めなさい!」


 何かを思い出しそうになっていた彼の記憶は、主人の言葉で奥へと引っ込む。彼は何か引っ掛かるものを覚えながらも、癇癪を起こす主人の世話へと赴くのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る