九大家と十大家
「勝負への参加資格を所持しているのは、【東凰学園の生徒】だけに限る。この一文が問題なの……」
宇佐美は重々しく、非常に重々しく呟く。
「問題って、何が問題なんだ?」
東凰学園の生徒は1000人を超える。4人1組のチームを10個、合計40人くらいなら、すぐに集まりそうなもんだが?
「これがタダの騎馬戦なら、特に問題はないんだけど……。問題は、この勝負が千本院家と宇佐美家の勝負だって対外的に見られているって事だよ……」
宇佐美は俺の問いに対する答えを続ける。
「つまり、九大家と十大家との勝負だと生徒達は見てくる。そんな勝負に、好き好んで首を突っ込む人間はごく稀だよ。どっちかに付いて負けたら、負けた方は勝った方から不興を買う事にもなる。どう考えても、参加せずに静観する方がかしこいからね」
「すまない宇佐美……。その十大家ってのは?」
この前から疑問に思っていた単語だ。この際、なんの事か聞いておきたい。
「……そう言えば、ハル君には説明してなかったね。そうだね、この際だから一から説明しよっか」
コクリと俺は頷く。
「九大家が日本経済を担う一族の名家ってのは話したよね? でもこの九大家……昔は12の一族の名家で構成されてたんだ。でも、バブル崩壊の時に2つの一族が抜けて十大家に……。その後、また一つの一族、宇佐美家が抜けて九大家になった……」
「……この前、千本院くんと喧嘩みたいになっちゃったのは、宇佐美家が十大家を抜ける原因になったのは、今の九大家が裏から色々と手を回したからなんだ。詳しい事は長くなるから省くけど、これが一応九大家の大雑把な歴史だよ」
「ありがとう、宇佐美」
これで、千本院帝と宇佐美の確執を知ることができた。この前の千本院帝への態度も理解できる。宇佐美は千本院帝という個人ではなく、九大家に対して、良い感情を持っていないのだろう。
宇佐美の言葉を信じるなら、宇佐美家が十大家を抜ける原因として九大家が関わっていたらしいし。素直に仲良くしようとするのは難しいのかもしれない。
「それで話は戻るけど、ほとんどの生徒が騎馬戦に不干渉を貫くって話だったが、それなら千本院の方も俺と同じ条件だから、不利とは言えなくないか?」
「ううん。千本院には昔から付き従う分家がたくさんある。名前こそ千本院を名乗ってはいないけど、学園にも千本院の関係者は少なくないよ」
「なるほど……」
状況は、俺が思っているより厳しいのかもしれない。このままだと騎馬戦勝負をするどころか、騎馬を作る人数も集められないまま不戦勝という可能性だってある。
「だからこそ、私たちに狙える生徒は限られてるんだよ。今から交渉をして応じてくれる可能性のある生徒は新興の名家……口さがなく言えば、成り上がりの一族だね」
「成り上がりの一族?」
「東凰学園では、表向きは生徒同士の立場は平等になっている。けど、実際は九大家を頂点としたカーストが出来上がっている。そのカーストの中でも特に九大家に嫌われているのは、歴史のない、最近になって実力を付けた一族」
「どうして九大家は成り上がりの一族を嫌うんだ? 普通に考えれば、俺のような庶民が一番嫌われそうなもんだが……」
「九大家は庶民に対しては特に深い感情は持っていないと思うよ。千本院くんは例外だけど、九大家の人間は平民なんて自分の立場を脅かす事もできない存在だと思っているからね」
つまり、眼中にないってわけね。
「その点、成り上がりの一族はそれなりに力を持っているから、九大家としてはいつ自分に歯向かって来るか気が気じゃないんだよ」
「話は分かった。それで成り上がりの一族を狙うと言ったが、いったい誰から狙うんだ?」
「それは考えてるよ……。私たちが狙うのは……」
宇佐美が息をスーッと吸って溜める。
「……3年C組の龍堂先輩だよッ!」
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