龍堂家


「……3年C組の龍堂先輩だよッ!」


 龍堂……まだ東凰学園に入学して間もない俺だ。その名前に心当たりは特にない。しかし、先輩か……。まだ、一度も東凰学園の先輩とは関わった事がない。


龍堂辰臣りゅうどうたつおみ。最近になって、急速に力を付けてきた所謂、成り上がりの一族の次期当主。現当主の龍堂征二郎りゅうどうせいじろうの手腕によって、主に海外拠点を中心に莫大な富をたった一代で築き上げた一族。ハル君も知らない? DRAGOっていう有名ブランド」


「ああっ! あのブランドか!」


 テレビのCMでも良く流れている有名ブランドだ。衣料品から食品まで幅広い製品を世に送り出し、その製品品質の高さは世界でも随一だという話だ。


 アソコが龍堂家の会社なのか……。


「初めは小さな会社だったDRAGOは飛ぶ鳥を落とす勢いで急成長して、日本でもトップクラスのブランドになった。でも、その急激な成長は逆に九大家に危機感を持たせることになった……」


「…………」


「龍堂家の急激な成長に、九大家は恐怖を感じたんだよ。このまま龍堂家の成長が続けば、自分たちが龍堂家に取って食われるかもしれないって」


「龍堂家に敵対の意思はあったのか?」


「……実際、龍堂征二郎が九大家に敵対心があったかは分からない。でも、龍堂征二郎って金儲けは好きだけど、権力には興味がないって人間で有名だったから、個人的には無かったんじゃないかと思う」


 龍堂家に敵対の意思はなかった……。顎に手を当てて考える俺に、宇佐美が「でも」とまくら言葉を続ける。


「龍堂征二郎がその気になれば、九大家を脅かせるという厳然たる事実があった。故に、九大家という名前に執着していた九大家の幾つかの一族が暴走を始めた」


「一体、九大家は龍堂家に何をやったんだ?」


「まず、始めたのが龍堂家に製品を卸していた企業への圧力とDRAGOの製品に関するデマの流布。商品を安定して供給できない状況が続けば、龍堂家が音を上げると思ったんだろうね。それにデマも重ねれば相乗効果で事態は悪化する。しかし、龍堂家は海外に作り上げていた独自のネットワークでなんとか踏みとどまっていた」


「…………」 


「中々、音を上げない龍堂家に痺れを切らした九大家は次に、龍堂家が懇意にしていたメインバンクへの圧力を掛けた。龍堂家に融資していた融資金、1000億を強制的に取り上げた。九大家は政府に対しても強い影響力を持っている。龍堂家のメインバンクが政府系の銀行だった事が裏目に出たんだよ。」


 圧力一つで、1000億円もの金額を取り上げる事ができるのか……!


「1000億円の融資の強制回収。これによって、遂に龍堂家は音を上げて、九大家に対して頭を下げる事になった。どうか圧力を掛けるのをやめて欲しいってね。九大家もそれに応じた。九大家への服従を条件として、だけどね」


 九大家の恐ろしさに、俺は体に寒気が走るのを感じる。


「頭を下げた事によって龍堂家は持ち直す事ができた。でも、今も龍堂家は九大家にされた仕打ちを根に持っていて虎視眈々と復讐の機会を伺っているって話だよ」


「……なるほど」


「九大家に対する恨みは、龍堂辰臣も父の龍堂征二郎が受け継いでいて、表向きは九大家に恭順の姿勢を示してるけど、本当は九大家にハラワタが煮えくりかえってるらしいね」


 宇佐美の話はよく分かった。なぜ、協力を求める相手が龍堂辰臣なのかも。しかし、だとすると一つ問題があるのではないだろうか?


「なぁ、宇佐美。龍堂辰臣は九大家に恨みを持ってるって話だったよな」


「うん、そうだよ」


「だったら、元とはいえ九大家の一員だった宇佐美が協力を求めても、龍堂辰臣は快い返事はくれないんじゃないか?」


「……正直、それが一番の心配事項だね。でも大丈夫。何とかしてみせるよ!」


「…………」


 宇佐美から龍堂家の話を聞いてから、俺は考えていた事がある。宇佐美に話しておくべきだろう。


「宇佐美……頼みがある」


「なぁに、ハル君?」


 一つ、深呼吸を挟む。意を決して、俺は宇佐美に頼みごとを告げる。


「龍堂辰臣との交渉、俺に任せてくれないか?」






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彼女に裏切られて自暴自棄になってたら、超絶美少女でお嬢様なむかしの幼馴染に拾われた〜復縁してくれ?今の環境が最高なのでお断りします〜 片野丙郎 @flare_thomas

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