宇佐美杏は安まらない
《宇佐美杏視点》
「はぁ……」
はじめてのハル君との学校生活を終え、家に帰ってきた私は、ボフンッとベッドに勢いよく飛び込み、自室でため息を吐く。
教育係に見られれば、「はしたないですわ、お嬢様」と叱られるだろうが、気分が高揚していた私はそんな事も気にせず、ベッドにダイブする。そして、今日のハル君を思い出し、私の顔がニヤける。
「ハル君……カッコ良すぎるよぉ。昔と変わらず優しいし。……それに、今ハル君は私と一緒の家に……」
私は8年前から恋慕している幼馴染、周王春樹が同じ屋根の下にいることを想像し、キャーッと言いながらベッドの上で体を悶えさせる。
今でも信じられないよ……。ハル君が私と一緒の家にいるなんて。おかげで心が安まる日がないよ! それに……1週間前にはハル君の部屋に入って、膝枕までしちゃった!
「〜〜〜〜〜〜ッ!」
一週間前の膝枕を思い出し、私は火が出たように全身が暑くなる。
ハル君、久しぶりなのに、相変わらず優しかったなぁ。体つきや顔つきはすっかり変わってしまったけど、それでも、思い出の中にある私に向けられる優しさは変わっていなかった。
コンコンッ。
ドアのノックが聞こえ、ベッドでジタバタしていた私は冷静さを取り戻す。すぐに先程まで紅潮していた顔を平静の時にまで戻し、ベッドの上で姿勢を正す。
「入っていいわ」
「失礼します」
私が入室を促すと、メイド長の二条が入室する。
「お嬢様、お命じいただいていた例の資料をお持ちしました」
「……持ってきて」
二条は背中から資料を取り出し、私のもとまで持ってくる。二条から資料を受け取った私は、パラパラッと大まかに資料に目を通す。
「ふぅん……。なるほどね」
「いかがいたしますか? お嬢様」
私が目を通しているのは、ハル君の周囲の動向に関する資料である。資料に目を通した私に、今後の動きについて側で控えていた二条が質問する。
「……とりあえずは放置でいいわ。でも、今後目に余るようだったら……潰すわ」
「……かしこまりました。では、失礼いたします」
私の命令を聞き、二条は部屋を出る。ドアがキーッと音を奏で、やがてパタンと閉まる。
ドアが完全に閉まると同時に、宇佐美杏の表情が一変する。
先程まで見せていた宇佐美杏の幸せな表情は、もはや見る影もなくなっていた。彼女は底冷えするような冷たい表情を浮かべ、うっすらと微笑むのだった。
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