千本院家の暴走
「お前たちのクラスメート、
なんと勝負する相手は以前、宇佐美からも紹介された俺たちのクラスメート、千本院帝君であった。オールバックに整えた髪に銀色のメッシュを入れた美男子である。クラスではいつも取り巻きを連れている。
「勝負など馬鹿げていると私も食い下がったのだがな……。他家の有力者を味方に付けられて、強引に押し通されてしまった。一部の名家が暴走しているようでな……」
源三さんは苦虫を噛む潰したように表情を歪める。どうやら、俺の所為で苦労させてしまったようである。……とても申し訳ない。しかし、あの千本院帝くんと勝負か……。
「お祖父様、それで勝負の内容は?」
宇佐美が真剣な表情で問いかける。
「うむ……。勝負は学力・運動能力……そしてカリスマ性の3つで決する。どれか一つでも周王君が勝てば、交際を容認するそうだ」
大人しく話を聞いていた俺だったが、気になる単語に疑問を口に出す。
「学力と運動能力は分かりますが……カリスマ性とは?」
「カリスマ性……と言えば聞こえはいいが、ようは支配力と言った方が正しい。今後、日本を担う大家を率いるだけの統率者としての才が無ければ、宇佐美の名を語る資格はないというのが千本院の言い分だ」
カリスマ性……そんなモノが俺に有るだろうか?
「千本院の言い分は、ある意味では正しい。宇佐美家の地盤が傾くような事があれば、日本経済には大打撃だろう」
「だから……勝負のひとつにカリスマ性勝負を……」
今更ながら、宇佐美の婚約者という立場の重さを思い知る。
「カリスマ性に関しては、まだ詳しい勝負の内容は決まっていない。だが千本院帝君と言えば、文武に優れた千本院家の最高傑作と名高い。間違いなく、成長すれば日本随一の傑物に育つ。千本院君も未だ修行中の身とはいえ、いずれの勝負も厳しいものになるだろう」
「…………」
そんな人物にこれから俺が挑むのか……。正直、相手の力量もはっきり分かっていない今から不安に襲われている。自分が天才でないことは俺自身が一番知っている。
「……大丈夫! この勝負、私も手伝うから!」
俺の様子を見てとったのか、すかさず宇佐美に励ましの言葉を貰う。
しかしーー
「杏、今回の勝負、お前は介入するでない」
すかさず、源三さんが声を挟む。
「なっ……! なぜですかお祖父様!?」
「お前が介入すれば、それはもはや周王君と千本院君の勝負ではなく、宇佐美家と千本院君の勝負になる。そうなれば、たとえ勝利を得ても誰も周王君を認めないだろう」
「……ッ!」
「一瞬ならば落ち着くが、のちのち、また因縁を掛けられるのがオチだろう。だからこそ、今回の勝負、周王君の力だけで乗り切らなければならん……!」
源三さんの言葉には、これ以上有無を言わさない迫力があった。
「……かしこまりました」
渋々、宇佐美が納得して頭を下げる。
源三さんの言い分がもっともである。宇佐美もそれを理解しているのだろう。表情は思わしくないが、口を閉じて話を聞く。
「勝負は2週間後。急な話だが、この勝負を了承して欲しい」
そうだ。この勝負は俺と千本院君の勝負。ここは、俺が源三さんに決意を示す場面だ。
「今回の勝負、了解いたしました。僕も全力を尽くします」
了承の意を示し、深く頭を下げる。
「うむ。朗報を期待している」
ーーーーーーーーーー
「……大変な事になっちゃったね」
源三さんから話を聞いた次の日、東凰学園の屋上で宇佐美が呟く。
「……ああ。でも宇佐美の為にも全力で頑張るよ」
「ごめんね……。私の所為でこんな事に巻き込んで……」
宇佐美が珍しく落ち込んでいる。今回の勝負に関して、少なからず責任を感じているようだ。宇佐美の所為では無いというのに……。
「気にするなよ。宇佐美には世話になりっぱなしだったんだ。今回のことで、やっと恩を少しでも返せるよ」
「……ありがとう」
恩を返せるとポジティブに言ってみたは良いものの実際、勝負に関しては俺も悩んでいる。強がって何とかなる問題でも無いしな……。源三さんの話を聞く限り、真正面から立ち向かっても厳しそうだ。
何か策を考えるべきかと悩んでいると、宇佐美が閃きを得たとばかりに手を叩く。
「……そうだ! 何も馬鹿正直に千本院君と勝負すること無いんだよ!」
「んっ? どういう事だ宇佐美?」
「お祖父様も言ってたでしょ? 今回の件、いろんな名家が暴走した結果だって!」
確かに、そんな事を言ってたかもしれない。
「つまり、ハル君との勝負は千本院家の意思であって、千本院の意思じゃ無い」
「……!」
ここまで聞けば、俺も宇佐美が何を言わんとしているのかを理解できた。
「だから、事前に千本院君と交渉して、負けてもらうように頼めばいいんだよ!」
確かに、宇佐美の言う通りだ。勝負といっても、千本院君に宇佐美との結婚の意思が無ければ、そもそも争う必要はないのだ。そうと決まれば、善は急げだ。
「よしっ! 宇佐美、今から千本院帝君に会いに行こう!」
俺は宇佐美と一緒に千本院君に会うべく、校舎に入る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます