第26話「全部交換でいいんだね?」
3月3日。ユニバースⅢ。現在、19時半。
「もう心が折れそうです」
太一(たいち)くんは、バジリスク絆2の636番角台の前で、呟きました。
「まあ、こればっかりは仕方ないよ。設定4以上出ているんだから、頑張って」
恵那(えな)博士は、太一くんを励まします。これまで、モミモミしながらも、バジリスクタイムがハマることはなかったのですが、ここに来て、通常時が700Gを過ぎて、通常時天井の800Gが見えてきました。
「天井行っちゃったら、もう6はないですかね」
「うーん。6は通常時の天井に行かないって訳じゃないからねえ」
「そうですか。そうなんですね」
下皿にあったコインが、すっかりスカスカになってしまい、太一くんは不安になっているようです。ドル箱にメダルを入れて棚に置く時、人は誇らしい気持ちになります。逆に、ドル箱に詰めたメダルを下皿に移す時、悲しい気持ちになります。トポロジー。2つの動作は、ほぼ相似しているのに、その心境は真逆なのです。
「まあ、頑張って。ファンキー2で出玉は増えているから」
博士は、ジャグラーコーナーに戻りました。二人の総投資は、貯玉100枚。現金で2万5000円。枚数で言うと1250枚です。太一くんは、ドル箱一つで600枚弱。博士はドル箱一つと下皿パンパンで1400枚弱です。
ジャグラーに設定を確定する演出はありませんが、ブドウを数えながら博士は設定の手ごたえは感じておりました。
太一くんの絆2は、何回かBCを引いた後に、通常時800Gの天井に到達し、赤同色BCに当選しました。BTにも無事当選しましたが、3戦目で終了。出玉は300枚弱でした。差し引きで500枚くらいマイナスだったので、太一くんは凹みました。その後は、800G天井に到達することはありませんでしたが、モミモミしつつ、グラフは徐々に下方に進みました。
博士のファンキージャグラー2は、ジャグ連などをしつつ、順調にメダルを増やしていました。このペースで当たり続ければ、プラス差枚で閉店を迎えることが出来そうです。博士は、時々、店内状況を見たり、太一くんに話しかけたりしながら、遊技を続けます。
「博士、一箱貰うことになるかもしれません」
太一くんは、青い顔をして話しかけてきました。ドル箱のメダルを全て下皿に戻りました。今後の展開次第では、持ちメダルがなくなりそうなので、博士に話にきました。
「しんどそうだったら、気分転換でこのファンキーを打つかい?」
「いや、ここまで育てたんで、僕が打ち切ります。456人撃破も出てますし」
「そうだね。まあ、気負わずにね。メダルもたくさんあるしね」
博士の頭上にはドル箱2つ、下皿パンパンで順調に増えています。太一くんも、なんとか博士にメダルを借りることなくバジリスクタイムに当選しましたが、そこで予想外のことが起きました。
「博士、ちょっと来てください!」
「……これは、驚いた。分からないもんだね」
液晶には『666人撃破』と表示されています。設定6が確定です。博士はスランプグラフとボーナスの履歴を確認しました。
「ずっと揉んでるけど、6だったとはね。正直、4なんじゃないかと思ってたよ」
「僕もです。通常時のモードアップとか見逃してたんですかね」
「うーん。6打った経験値がないと、こればっかりは、私にも分からないかなぁ。とにかく6だよ。うん」
博士は興奮ぎみです。
「後はブン回しですね」
時間は20時45分。閉店まで、まだ回せます。設定6が確定したら、これまで揉んでいたのがウソだったかのように、順調にBTが伸びて出玉が増えました。博士のジャグラーも調子が良いです。そして、閉店時間を考えると、最後のBTと思われた所で、開始画面に朧が登場し、オボリスクタイムが伸びに伸びました。激闘もしくは夢幻シナリオを引っ張って来たのかもしれません。残念ながら有利区間完走にはなりませんでしたが、約1500枚というまとまった出玉を得れましたし、エンディングも見ることが出来ました。太一くんは、涙ぐみながら、それを見終えました。
時間は22時5分。設定6とは言え、次のBTを追っても取り切れない可能性が高いので、エンディング画面を出したままで、ユニメモを回収し、太一くんはバジリスク絆2の遊技を終えました。ドル箱を3箱持って博士の所に向かいます。
ジャグラーコーナーも人がまばらです。博士は、ファンキージャグラー2を続けてます。ちょっと揉んでいるようです。
「エンディングおめでとう。まだ閉店まで時間があるからジャグラーの良さげ台を打つかい?マイジャグの755番台が良さそうだよ」
「そうですね。そうします」
マイジャグラーの755番台は、ビッグよりですが合算が約120分の1で、設定56を思わせる数字です。太一くんは、本当は、いつか5スロでジャグラーを打った時のように、博士と並び打ちをしたかったのですが、履歴打ちですが、最後の最後まで期待値を追うことにしました。遊技終了は22時40分。残り30分くらいの間でしたが、太一くんも博士も、ペカペカ当たりました。とても楽しいパチスロでした。
「ビッグボーナス引いて、今が最高のやめ時ですかね?」
「閉店までまだ時間があるから、ジャグ連するかもしれないよ?」
「でも、今日の最後はビッグボーナスがいいなあ」
「一番勝ったところでやめたくなるよね」
「もしも、1G連で軍艦マーチ流れたら、もうここでやめます」
「ユニバースⅢだから、マックスベットが3回点灯して、それで……」
博士と太一くんは、台が離れているので、喋りながらジャグラーを打った訳じゃあないですが、心の中では、そのような会話をしていました。
店内BGMがホタルノヒカリとなり、22時40分の遊技終了、会員カードを持っている人の延長遊技などのアナウンスが続きます。閉店間際のパチンコ店には、絶望と希望が同時にあります。博士と太一くんは、希望の中でジャグラーを打ってました。
22時40分となりました。遊技を終了し、最終ゲーム数をメモし、ドル箱を店員さんに預けました。太一くんはサラ盛り3箱。博士も3箱ですが、太一くんより少し多そうです。
二人の投資は貯玉と現金2万5000円で1250枚。回収は、太一くんは1900枚くらいで、博士は2300枚くらいで、交換すると丁度大景品が16個で8万円でした。ノリ打ちなので、それぞれの投資分も均した上で、8万円も正しく分けました。太一くんは、これくらいの計算であれば、もう迷いません。
ちなみに、同じ日にパラレルワールドでパチスロしていた作者は、投資50枚と5万2000円で、総投資2442枚に対して、回収は1590枚でマイナス852枚でした。貯玉して帰りました。
博士と太一くんは、スーパータケモトも閉店しているので、コンビニに向かい、祝勝会用のお弁当や惣菜、お菓子などを買いました。ビールやお酒は、博士の家に沢山あります。
太一くんは、勝つために学んだことを実践し、博士はずっと夢だったスロ友と一緒に勝つことができました。きっと、この日は、この夜は、二人にとって最良の日でした。
「博士、ありがとうございます」
「いやいや、こちらこそ。太一くん」
ずっとずっと、こんな日が続けば良い……そう願わずにはいられませんでした。
次回、完結。
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