第7話「これからはボーダー理論を探します!」

太一(たいち)くんは中卒ですが、中学校でも勉強をしませんでした。授業中は、外階段の踊り場にたむろして、タバコを吸ってましたし、全然練習しないラグビー部に入ってました。


一応、地域の最低レベルの、名前を書けば合格できると揶揄される農芸高校を受験したのですが、仲間の不良達は全員受かったのに、太一くんだけ落ちました。その不良仲間達も一年後には退学しているヤツもいました。


内装業のアルバイトの時は、親方の言うことを聞いて、手元として働いています。言われたことを聞いてれば、お金が貰えると太一くんは言います。


義務教育での学習を疎かにしていたため、太一くんのパチンコとの向き合い方は、オカルトが占めています。「今日は勝てそうな気がする」とか「あと1000円で当たる」とか「祈れば魚群が来る」とか、そういうものです。


パチンコを遊技として楽しむ分には、そういうものの楽しみの一つかもしれませんが、パチンコで勝ちたいなら、オカルトから脱する必要があります。なぜなら、パチンコはスタートチャッカーに玉が入った瞬間に、プログラミングで制御されたデジタル的な抽選を行っているだけで、念じても、ボタンを強打しても、抽選の結果は変わらないのです。


恵那(えな)博士は、パチンコで勝つために必要な学びを太一くんに伝え、そのことから、人生に必要な学びに興味を持ってもらいたいと思っております。太一くんのオカルト思考を消し去るために、今日も、問答を続けます。


「大当たり確率が約99分の1の海物語の8台横並びの島があるとするね。朝から全台回ってるんだけど、角台は、他の台に比べて倍の数だけ魚群が来てるんだ。逆に内角の台は、一番魚群の数が少ないね。そんな中、角台が空いたんだけど、太一くんはどうする?」


「そうですね。一番魚群が出ているってことは、この後出てこない可能性が高いですし、僕なら打たないですかね。逆に内角の台が空いたら、波を狙って打ちますかね」


「なるほど。じゃあ、出玉が一番出ている台は角2なんだけど、角3の台は、大当たりが全然引けてなくて、一番グラフが凹んでいるんだ。その角3の台が空いたんだけど、太一くんはどうする?」


「とりあえず座ってみて、グラフの下がり具合を見ますね。前日、前々日のデータも見ます。2日間出てたなら、ちょっと様子を見ますね。でも、他に打つ台がなくて、島で一番凹んでいるなら、打つかなー?」


「なるほど。私はそういう立ち回りはしたことないけど、その考えも、悪くはないかもしれないね。じゃあ、全部で8台あるわけだけど、その日の初当たり確率が500分の1の台があるとして、その台はどう動くと思う?」


「そりゃあ、連チャンが来ると思いますよ。99分の1なんだから、えーと……あと、2、3回はすぐに当たるんじゃないですかね?」


「なるほど。そういう考え方もあるね」


ここまでの太一くんと博士の問答ですが、実は、パチンコで勝つために必要な内容はありません。博士は、それが分かった上で話しています。パチンコをやらない人、やったことない人は、どういう部分が勝ちにつながっていないか、考えてみても良いかもしれませんね。


太一くんの話した内容は、そのほとんどが波理論であり、波理論とはオカルトであり、オカルトとは「勝てそうな気がする」と「負けそうな気がする」です。当然ですが、パチンコ台は人間の気持ちを汲み取ってはいません。


「さっき、500回転で大当たりが1回だけ当たっている台の話をしたね?」


「はい」


「その台が、約99分の1の確率通りに今後当たるとして、後何回当たる?」


「え、だから2、3回です」


「それは回答としては間違ってるね。じゃあ、500円で100円のお菓子は何個買える?税込みだよ」


「そりゃ、5個ですよ」


「うーむ」


太一くんは、生活に直接関わる算数はできるのかもしれません。連立方程式はパチンコでは必要ないかもしれませんが、例えば、期待値など統計に関わる数学知識はあった方が良いと博士は考えます。期待値や統計と言っても「○○な時は打った方がよい」という程度の知識です。


「太一くん、結論から言うと、パチンコで勝つために必要なモノは回転数と遊タイム期待値なんだよ」


「運は必要ないんですか?」


「運も必要だけど、運は平等だと考えるよ」


「すごいヒキつよの人とかいますけどね。ユーチューブのみそまる君とか」


「他の人が勝ってる時ってのは、印象に残るもんだよ。負けた人は、帰っちゃうからね」


「なるほど」


「遊タイムってのは、2020年の4月頃から導入が開始されたパチンコの仕組みだね。それ以前のパチンコの勝ち方ってのは、1000円当たりの回転数。ボーダー理論だったんだ」


「理論って難しそうですね」


「難しくはないよ。1000円あたり、つまり、250玉あたり何回転回るか?って話だね。もちろん、回れば回るほど、勝ちやすくなるよ」


「はぁ、またその話ですか。回っても、かからないと勝てないですよね?」


これは、あくまで博士の独断と偏見ですが、パチンコにおいて『確率変動に突入する』など『連チャンする』ということを『かかる』と表現する人は、オカルト理論に囚われていると思います。パチンコ屋の開店前に、パチンカー達の話を聞いていると、「昨日はかかった」とか「連チャンした」という話はしても、「よく回った」と話している人は、ほとんどいません。


「かかる、かからないってのは皆平等だと考えるところから、パチンコに勝つ話はスタートするんだよ。ここは一つ、運の部分はなしにして聞いてくれないかい?」


「分かりました」


「ボーダー理論の話ってのは、それぞれのパチンコ台の性能ごとに、250玉あたり何回転以上なら、勝てるって話なんだ」


「台によって回転数って違うんですか?」


「違うね。そして、グレーゾーンとされているけど、日によって回る日と回らない日もあるって話だね」


いわゆるパチンコの『釘調整』は、グレーゾーンとされているらしいですが、博士は詳しい言及を避けました。パチンコの釘に関する考え方は、博士の個人的な感想です。


「宝くじを例に考えてみようか?一等が当たる確率が同じとして、1枚300円で買えるお店と、2割引で240円で買える店があったら、どっちのお店で買う?」


「そりゃ、240円の店ですよ。どこですか?」


「いや、そんな店はないんだけどね」


「ないのか……」


「で、パチンコの話に戻すと。4パチの話だよ?1000円で10回転回る台と、20回転回る台があったとしたら、どちらを打つか?って話だよ。1回転あたりを金額で考えると、100円と50円」


「……まあ、50円の方を選びますよね。そういう話なんですよね?」


「そうだよ」


「うーん、でも……」


理屈では分かっていても、太一くんは煮え切らないようです。確かに、パチンコの演出やゲーム性を考えると、「回る回らないじゃなくて、強運だから勝った」という印象が強く残るのも、仕方がないと思います。


「ボーダー理論ってのは、とにかくパチンコをやり続けないと結果が出ない分野だからね。じゃあ、もう一つの『遊タイム』に関しても、話そうか」


「遊タイムってのは、そもそも何なんですか?」


「前に、焼き肉を食べる前に、犬のヤツを打ったことがあったね?あれが遊タイムだよ」


遊タイムとは、簡単に言うと、大当たりとは別に回転数の条件で発動する恩恵です。実は、博士もパチスロを覚えてから、長年パチンコに触れてなかったのですが、遊タイムが登場してから、パチンコも遊技するようになりました。


知れば勝てる、知らないと負ける、損をする……そんなことを、パチンコ・パチスロを通じて、太一くんに伝えたいと博士は思います。


お菓子も飲み物も、まだまだ沢山残っています。博士のパチンコ談義は、もう少し続きます。



※焼き肉を食べる前に犬のヤツを打った回(第2話)。

https://kakuyomu.jp/works/16816927859438375268/episodes/16816927859659822146

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