第2話「期待値って言葉は習ったかい?」

太一(たいち)くんと、恵那(えな)博士は、ファミリーレストランでの夕飯前に、パチンコ屋で1円パチンコの海物語を打ち始めました。


太一くんは、魚の群れを呼び込むために、手の平を右から左に、扇ぐように動かし、祈りました。博士は、500玉打ち終わるごとに、スマートフォンに何かをメモしています。


「海も楽しいですね!」


太一くんは、博士の肩をとんとんと叩き、耳元で話します。


「そうだね。太一くんの台はよく回るかい?」


「回ってるみたいだけど、魚群は全然来ませんね」


「どれくらい回ってる?」


「え?今、187回転のようですね!」


「まあ、細かいことは、後にしようか」


博士は、足し算や引き算の大切さを話そうかと思いましたが、パチンコ屋で話すのは無粋に思えたので、やめておきました。太一くんの打ち方じゃ勝てないよ?とも伝えたかったのですが、今日は難しい話は抜きにしようと、博士は思いました。


しばらく、二人並んで遊びました。太一くんが、鬼の連チャンをして6000玉出ました。博士は、500玉ほどマイナスで、二人で使った金額は、4000円だったので、ほんのちょっぴり勝ちました。


「大工のヤツ打てば良かったですね!今日は勝てるって言ったのに!」


「そうだね。でもまあ、そろそろ夕飯にしようか」


会員カードを持って、景品カウンターに向かう前に、博士は太一くんの肩をむんずと掴みました。


「ちょっとまった太一くん、この台を打つんだ」


「え?この台ですか?238回転もハマってますよ?」


「いいから」


太一くんは、よく分からないままに、博士の言った1円パチンコの魚ではなくて、犬をモチーフにした台を打ち始めました。打ち始めてから12回転で、いきなり激しい演出が始まり、あれよあれよと大当たりが連チャンして、なんだかんだで、6000玉出ました。


「ね?打った方が良いって言っただろ?」


「どうして出るって分かったんですか?まるで魔法じゃないですか!」


「ははは。そのあたりは、焼き肉でも食べながら話そうか?」


「はい!」


今日は勝つつもりはなかった博士ですが、予想以上に勝てたので、ファミリーレストランから焼き肉にランクアップです。焼き肉を食べながら、博士は太一くんに話します。


「海物語で太一くんが勝てたのは、太一くんの運だね。犬のヤツで勝てたのは……そうだなぁ。国語、算数、社会とかを勉強していたからかな?」


「パチンコに国語や社会は関係なくないですか?」


そうは言いながら、博士の言うとおりに勝てたので、太一くんは不思議そうな顔をしています。


「でもまあ、パチンコで勝ったお金で食べる焼き肉は美味しいですね!」


「そうだね。ははは」


パチンコも焼き肉も、博士がおごります。ちなみに、博士は景品に交換しないで、会員カードに貯玉したようです。



午前中から人生をどう生きるか?の問答を続けていた二人。学校の勉強なんて役に立たない!という太一くん。夕方からパチンコを打ちましたが、その間に交わした会話、行動のにも学校で習ったことは、活きていたのです。


勉強嫌いの太一くんですが、パチンコの話だと興味を持ってくれるようです。


「負けないために、勝つために必要なことは、義務教育でならった」


ハラミを焼きながら、博士はそうつぶやきました。


「何か言いましたか、博士」


「いや、なんでもないよ。そうそう、さっきの犬のヤツの大当たりだけどね……」


パチンコの話をしながら、焼き肉を食べる。もしも、天国があるなら、そういう天国もあるのじゃないか?と、二人は思いました。太一くんと博士の学びは、始まったばかりです。

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