第14話「1000円を1120円で買うんだよ?」

「パチンコ・パチスロの勝ち方って、やらない人からしたら、どういうイメージなんだろうね?」


「競馬とかだと、万馬券とか言いますよね」


「そうなると、100円が一万円になるイメージだね」



恵那(えな)博士と太一(たいち)くんは、パチンコ屋の会員カードや貯玉の話を続けています。常連と言えるくらいに年単位でパチンコ屋に通っている人でも、会員カードは作ってなかったりします。


「私はね、器の小さい人間なんだ。自分が誰より勝っているか、成長しているのか?そんなことを考えてパチンコしてしまう。だから、会員カードを作らない人は、そこで成長が止まっているな……と思ってしまうんだ」


「僕は博士に言われて、作りましたけど。作らない人は、どうして作らないんでしょうね」


「いくら損するか、得するかってのを知らないのかもしれないね」


「交換ギャップの話ですね。でも、実際はどれくらいなんですかね」


「12%だね」


パチスロの場合は「56枚交換」とか言います。1000円で50枚借りて、1000円分の特殊景品を交換する時は、56枚ということです。それは、同じ店では同一レートとなり、4円パチンコの場合は、280玉で1000円景品だったりします。


「じゃあ、一切交換しない方が得ってことなんですかね」


「ん~そうとも言えるけど、ちょっと違うかな。私の場合は貯玉は勝負の持ち越しって考えているかな」


確かに交換すると120円損していると言えます。とあるところでは、路上で10円玉が10円で売っているなんて話がありますが、仮に1000円が1120円で売っていても買う人はいないでしょう。さりとて、会員カードに貯玉だけ増やしても、限界もあるでしょう。だから、特殊景品への交換は、避けられないことであると、博士は考えます。


「例えば、投資が2万円、1000枚で、出玉も1000枚だった時に、交換したら何円分の特殊景品になるかな?」


「えーとですね……」


太一くんは、スマホの電卓アプリを起動して計算していきます。


「えーと、1000割る56して、そこに1000をかけて……1万7800円ですかね」


「そうだね。つまり、2200円の負けだ。交換すれば負けが確定するけど、貯玉して帰れば、次の投資に使えるからね」


ちなみに、太一くんと博士の通うユニバース系列店では、貯玉再プレイにはルールがあり、平日は各レート1000円までで、土日は無制限になりますし、月に一度は無制限週間があったりします。博士は、再プレイ無制限の日にハイエナなどをよくします。


「交換したら負け、貯玉したらどっこいどっこいってラインがあるんですね。じゃあ、貯玉しない人ってのは、トータルでどれくらい損してるんですかね?」


「まあ、それは12%ってことなんだけど、私の約2年分のパチンコ・パチスロデータをまとめてみると、2年で77万7210円の貯玉投資をしていて、92万3266円の貯玉回収をしていたんだよ。ざっくりと、貯玉回収分を全部交換していたとなると……」


博士は、電卓アプリで計算します。


「交換したとすると、81万2400円だね」


「あらら、ずいぶん目減りしますね」


「11万800円ほど損しているね。まあ、損ってのは、ちょっと違うかもしれないけど。私の場合は、パチンコ・パチスロで増えた分は、結局、パチンコ・パチスロに使うから、特殊景品に交換する意味ってのは、あんまりないんだね」


「会員カードを作らない人は、勝ったお金を使っちゃうんですかね。お寿司とか」


「どうなんだろうね。昔は、勝った日は山越えて雄琴温泉に行ったとか言う人もいたけどね」


「温泉は楽しそうですね」


交換と貯玉は、遊戯者の永遠のテーマです。いつの日かは、全部交換して、パチンコ屋を去る日がやってくるはずです。目押しはできないけど、5スロを打っていて、杖をついていて、手の震えた、海神の台のリアルボーナス成立後の目押しを手伝ってあげたジジイは最近見ないのですが、もう死んだのでしょう。


「私はね。最近、考えるんだ。現金投資を嫌うのが、今の私の限界なのかな?ってね。パチスロで生活するには稼働時間とチャレンジが足りない。でも、それでも良いとも思っている。だけど、もっと、もっと成長するなら……そんなことを考えてしまう」


お酒も飲みだしたせいか、博士は少し真剣なように見えます。太一くんは、「まあいいんじゃないですか」と軽口は挟みません。


「将来の話とは少し違うかもしれないけど、景品交換して、得たお金ってのを、パチンコ・パチスロよりも有効に使う方法ってのを、僕はまだ思いつかないんだ」


博士の一人称は『私』ですが、仮に『僕』が混じったとしても、それは誤植ではないようです。


博士と太一くんの将来、パチンコ屋、ユニバースⅢとどのように付き合っていくかは、この物語の最後に描かれるのかもしれません。そしてそれは、あの三月三日パチスロ大決戦の後となるでしょう。


太一くんも、パチスロを打ちたくて仕方がないようです。

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