第11話「パチスロで勝てる上に時給も貰えるんですか!」
「行動の期待値化ってどういうことですか?」
1円パチンコの遊タイムの期待値狙いを覚えて、太一(たいち)くんは、パチスロにも興味を持ちました。恵那(えな)博士は、パチスロにおける期待値狙いの話を始めましたが、話は加速して、労働観などの話になりました。
今日も、午前中から話し合っていた二人でしたが、久しぶりにパチンコ・パチスロ以外の話になるようです。博士は、アルバイトにおける時給を例にして説明しようと思っています。
「パチンコ、パチスロで勝ち続けることを考えた時にだね。最終的に行き着くのは、自分の考え方や行動で稼働を続けた時に、どれくらい稼ぐことができるのか?ということなんだ。そうだなあ。時給で考えると、分かりやすいかもしれないね」
「僕のアルバイトだと、時給が1000円ですけど。パチスロするアルバイトがあるってことですか?」
「そうだね。いや、ちょっと違うか」
世の中には、打ち子と呼ばれるパチンコ・パチスロアルバイトがあるので、ちょっとややこしいと、博士は考えました。
「そうだね。例えば、10時間パチスロをして、結果2万円勝てたとしたら、時給は2000円ということになるね」
「そうですね。じゃあ、行動期待値を上げるってのは、レバーを叩く速度を上げるとかですか?」
「うーん、違うね。例えば、太一くんのアルバイトは時給1000円だけど、給料を上げるにはどうすれば良いと思う?」
「そうですね。僕は17時半上がりですけど、残業させて貰うとか、出勤日を増やしてもらうとかですね」
「なるほど。他には?」
「うーんと、資格を取ったら、時給を上げるって言ってましたね。あと、車の免許」
博士も、時々、建築関係のアルバイトをしたりしてましたが、どこの業者も似たものだな、と思いました。
「でも、働く時間は増やしたくないし、資格とか、免許もめんどくさいなー」
「なるほどね。じゃあ、例えば、無駄な時間を削っていけば、それは時給が上げるとも考えられるね。17時半で上がりって言ってたけど、なんだかんだで、仕事が終わるのは45分くらいになるんじゃないかい?」
「そうですねー。ぼちぼち片づけるんで、そうなりますかねー」
「残業になった場合は、時給はどういう単位だい?」
「たしか、30分単位ですね」
「じゃあ、17時45分まで働いた場合は、250円くらい損しているとも言えるね。まあ、これは、難しい問題なんだけどね」
「まあ、いいですよ。250円くらい」
「でも、それが20日間続けば、5000円だ」
「……5000円」
金額が四桁になると、太一くんの表情が変わりました。残業代にならない微量の残業。これは時給労働者の永遠のテーマかもしれません。終業時間ぴったりに作業を終えても、問題はない。しかし、あまりにもカツカツしているのも、可愛げがないかもしれない。ちょうど良い時間で、仕事を終えたい。着替えている時間も就業時間である。仕事終わりには、様々な思考が入り混じります。
「大学院を出てから、しばらくブラブラしている時期があったんだけど、その時に、太一くんと同じ内装業のアルバイトをしていてね。ある先輩は、毎回17時半に作業を終えて、片づけを始めるんだ。だいたい終わるのが17時50分くらい。残業代は30分単位だから、給料は増えない。嫌だから計算してみると、あー、この人と一緒に作業をしてると、一か月に6000円くらい損してるんだなーと思ってたんだけど、まあ、諦めてたね。お昼休憩が気分で延びたりする時もあるから、プラスマイナスゼロかな、とか。しばらくして、その先輩と終業時間の話になったんだけど、その先輩は、そもそも『作業が終わった後の清掃や後片付け』をお金を貰ってやる仕事だと考えてなかったようなんだ。だから、17時半まで作業をしてたんだね。それが分かった時に、なんとも言えない絶望感を味わったよ。今、どうしているか分からないけど、あの人は、生涯で何円くらい損するんだろうなあ」
博士は、少し悲しい声で、わりと長いこと話しました。雰囲気に流されたのか、太一くんも神妙な顔で聞いていました。
「まあ、太一くんが、どんなスタンスで仕事をするかは自由だけど、ちょっとしたことで、損したり、得をしたりする。そういう話だよ」
パチンコ・パチスロの話をしていたはずですが、アルバイト労働の話になっていました。パチンコ・パチスロで生きていくなら、行動の期待値を上げる。稼働を時給で考える。このようなことも必要になりますが、博士がこのことを太一くんに話すのは、この物語も終わりを迎える頃なのじゃないかと思われます。
勝つ人は、勝ち続ける。それは、行動を最適化できる人だと思います。太一くんに、そのことを伝えることが、博士の願いの一つです。その願いは、きっと叶うのだと思います。
「じゃあ、パチンコにでも行こうか?」
「博士、僕らのパチの時給って何円くらいですか?」
「まあ、専ら1パチだからね。よくて300円くらいじゃないかな」
「とほほ」
「遊技でやってるんだから、勝ててるだけでも御の字だよ」
「そうですね。汁も出ますしね」
「脳汁がね。あれは、何事にも代えがたいよね」
脳汁、プライスレス。
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