第12話「イマジナリーフレンドじゃないんだよ?」

「パチスロをしていてね。ふと、寂しくなることがあるんだ」


恵那(えな)博士は、ポツリともらしました。今日も太一(たいち)くんと一緒に、人生やパチンコ・パチスロに関して、語り合っておりました。パチスロで勝つには何が必要か?という話題の中でした。


「寂しくなるってのは、お財布の中がですか?」


太一くんは、そうじゃないだろうな……と思いながら、冗談っぽく言いました。


「財布の中が寂しくなることはないよ。負けないからね」


博士は、静かな目をして、けっこうなことを言います。事実、博士のパチンコ・パチスロ収支は、上下はするものの常に増え続けていたのは、事実です。


「いや、パチンコ・パチスロに勝つのに必要なモノ、あって欲しいモノの話をしていたね。色々とあると思うのだけど、一番得難いのは、信頼できるノリ打ち相手だと思うんだよね」


ノリ打ちとは、二人以上で資金を共有して、勝ち負けも共有する遊び方、稼働方法のことです。店によって総則は違いますが、出玉を共有できる人数制限をつけていたり、禁止していたりします。


「ノリ打ちですか?まあ、ユニバースⅢにもそれっぽい人がいますね。学生の友達だったり、夫婦ですかね?夫婦だとしたら、若い娘さんが中年のおじさんにハグしているのも見かけましたね」


「あそこは、愛人だよ」


「ああ、そうなんですか?」


「夫婦っぽい人達は、多分、お財布を共有しているっぽいけど、景品交換所でノリ打ちの雰囲気を出している人らを見かけることは少ないから、ノリ打ち人口は少ないだろうね」


「なるほど」


博士が言うには、設定狙いと期待値稼働は独りでは同時にできないから、役割分担できるノリ打ちは、期待値や勝率が倍になるから、勝つために有利な方法であると話します。


「でもね、そういうノリ打ちを見ていて、悲しくなる時もあるよね。なんというか、夫婦なら旦那さんというか、恋人なら、男の方がね。司令塔と言うか、リーダーの人がさ……」


「頭が悪いってことですか?」


太一くんは、遠慮なく言います。


「……そうだね。この間ね。私が5スロで期待値を拾ってたんだよ。貯玉だよ?反対側の島で、中年夫婦が打ってたんだけど。旦那さんの方がさ、後100から200Gくらいで当たる台を捨てて、Aタイプで出した奥さんのメダルを貰って、期待値もないAT機をチョロ打ちしだしたんだよね。そのAT機は、なんとか初当たりは取ったんだけど、ATは伸びないで、メダルは全部なくなって、二人は帰っていったんだよ」


「ちょっと、Aとか、ATとか知らない言葉がありますが、仲間がいるのに、リーダーがバカって話ですか?」


太一くんは、自分が中卒という学歴で辛い思いをしたせいか、言葉を選びません。


「そうだね。なんというか、基本的にソロで活動している私としては、勝てる確率が高い状態なのに。もしくは、信頼できる相手がいるのに、不勉強でそのメリットが潰されているのを見ると、悲しくなるんだよね。私が、彼だったらな……とか考えちゃうんだよ」


「なるほど。さっき言っていた、寂しいってのは、そういうことですか」


「……まあ、そうだね」


太一くんは、「僕がいるじゃないですか!」と言おうと思ったのですが、まだ早いような気もしました。博士と太一くんは、一緒にパチンコ屋に行きますが、財布までは共有していません。遊タイムの期待値がある台などを見つけても、博士は譲ってくれます。


博士は、パチスロをしていて寂しい時のことを考えていました。悲しくなるのはノリ打ちの利を活かせてない人を見た時ですが、寂しくなるのは、一緒に喜んだり、悲しんだりできるスロ友達がいないことでした。太一くんと出会ってから、その寂しさは和らいだのですが、それでも寂しくなる時もあります。


「この間さ。アイムジャグラーをツモれて、閉店まで打ち切って3900枚プラスになったんだ。7万7200円。でも、ドル箱を詰んでも、話しかけてくる友達もなく、喜びを共有できるスロ友達もいなかったんだ。寂しいね」


そんな言葉が、頭の中に浮かびましたが、頭の中に浮かんだままで消えていきました。博士と太一くんが、パチスロでノリ打ちを始めるのは、もう少し先になります。

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