3月3日パチスロ大決戦!
第23話「年一日は強いんですね!」
3月3日は、ゾロ目の日です。多くのパチンカー、スロッターはゾロ目の日に期待します。2つの数字が並ぶのは、パチンコだとリーチだからかもしれません。お店の側もゾロ目の期待感に答えるべく、特別な日に設定していることが多いようです。
恵那(えな)博士と太一(たいち)くんが通うユニバースⅢは、3月3日が年一の特日だと思われています。ユニバース系列の本店は11月11日、ユニバースⅡは2月22日が、いつもよりも多くのお客さんが集まります。
3月3日。ユニバースⅢには100人ぐらいの人が集まります。それ以外の末尾3の日は30人ぐらいで、土日だと少し増えます。明らかに3月3日だけを狙って来る人もいるようです。博士は、愛知県から遠征してきたという若者達を見たことがあります。ユニバースⅢは、京都府のお店です。
愛知から来た若者は、パチスロの島図も知らないようで、店員さんにバジリスク絆の場所を聞いていました。それを眺めて、「愛知から来るほどじゃあないけどな」と博士は思ってました。それが数年前。5号機のバジリスク絆が全国のホールで絶賛稼働していた頃でした。博士は、「平成天皇にも無想一閃に突入する時の人間を狂わせる音を体感してほしい」と考えていましたが、他人に話したことはありません。
ユニバースⅢの3月3日は、混雑が予想されるので、入場券の抽選は100名で打ち切りとなります。抽選参加券は9時30分から配布されます。博士は念のため一時間半前、8時頃にはお店の前に行くことにしています。抽選ではなくて、先着順だった頃は7時くらいにお店に行っていました。
せいぜい9時頃に行けば抽選には参加できるのですが、早くお店に行くのも年一回の祭の一部のように考えます。
3月3日は、まだ寒く。息をはけば白くなります。博士と太一くんは、和食が中心のファミリーレストランの前で待ち合わせて、国道沿いを歩いてユニバースⅢの駐車場に入りました。社員さんの車と、年一日にやってきたライバルの車が数台止まっていました。やはり、9時頃でも大丈夫だったように思えます。
「勝てますかね?」
「そうだね。勝ちたいね。ユニバースⅢで設定狙いをするなら、今日が一番なのは間違いないかな」
「博士は、けっこう勝ってるんでしたっけ?」
「そうだね。10万円勝った年もあるし、投資が5万円まで行った年もあるし……トータルで言えば勝ってるかな」
そう言った後、「トータルでは勝ってる」という言い回しは、駄目なパチンカー、スロッターの代表的なセリフの一つだったと気付きました。
「今日は二人だから、きっと勝てますね」
「だと良いけどね」
「狙いは、絆2とジャグラーでしたよね」
「そうだね。他に打ちたい台があるかい?」
「強いて言うなら番長ゼロですけど、打った経験がないので、5スロで鍛えた絆2ですかね」
二人はここ最近、3月3日の狙い台を話し合っていました。これまでの旧イベント日の傾向だと、ジャグラーとAT機のメイン機種である絆2に厚く設定が使われることが多かったです。しかし、年一日だからこそ、いつもと違うことが起きるとも言えます。
数年前の3月3日、まだ、5.5号機のA+ART機である魔法少女まどかマギカ2が現役だった頃、まどかマギカ2の島の真ん中の台がボーナスのみで出玉を増やすノーマルタイプである、まどかマギカAに変更になっていました。
一週間前から3月3日を見越したレイアウト変更がされていました。その時は、先着順の入場で、皆がバジリスク絆に向かう中、博士はまどかマギカAに座りました。結果、設定5以上濃厚演出が出て、5000枚以上勝ちました。
ただ、今年は3月3日専用のレイアウト変更や当日の機種増台などは、行われないようです。分かりやすい狙い目はないのかもしれません。
「まあ、抽選次第な所は多いかな」
「そうですね。絆2が16台。ジャグラーが全部で32台だから、50番以内なら、とれますかね」
「私は80番台目だった時も、ジャグラーに座れたから、よっぽどじゃない限り大丈夫だよ」
「そうなんですか?ジャグラー、熱いんですよね?」
「まあ、ジャグラーは絶対に打たない人はいるよね。特に今日しか来ない人は派手なAT機を狙うんじゃないかな。逆にジャグラーしか打たない人もいるね」
「ジャグラー、楽しいですのにね」
「そうだね。ジャグラーと言えば確認だけど、番号が早かった方が絆2を狙うってことで良かったかな」
「OKです。角か末尾3でしたっけ?」
「そうだね。角、末尾3が埋まっていても、絆2が空いていたら飛び込んでみよう。私もジャグラーでそうするよ」
博士の長年のユニバースⅢの観察した結果から考えると、末尾3の日の旧イベント日に大番号の末尾3の台が狙い目ということはなかったです。また、一般的に期待感の高まる角台に高設定が使われることも少ないです。
しかし、年一日である3月3日は特異点と言えます。抽選入場100人というのは、他の日ではありえず、スロットコーナーもほぼ満席になります。だから、期待感が高まる末尾台や角台などに設定が入っていれば、多くの人が目撃することになり、その印象は3月3日以降も強く残るでしょう。
……という風に博士は考えて、普段は弱い角と末尾3を狙おうと、太一くんと相談して決めました。博士の本命の狙い台は、末尾が33番である、733番台のファンキージャグラー2です。3月3日だから、末尾33。狙いが外れていたとしても、ジャグラーは設定が甘く使われていると期待します。博士は、ただ末尾3を願望している訳ではなく、有名人来店時の角台の状況が良かった経験もあるので、より人が集まる時に角や末尾が使われるのじゃないかと考察します。
また、博士の長年の3月3日の経験から、100人超の入場で、第一関門は「座る」ということでした。狙った台番号に座るのは、よっぽど早番じゃないと無理でしょう。全台系はやらない店ですが、狙い台にこだわりすぎて、座れないというのが一番最悪の結果だ……と当時の博士は考えていたのです。
抽選整理券が配布される9時半が近づくに連れて、徐々に自動車が増え、なんとなく入り口付近に人が集まってきました。9時を過ぎると店員さんが現れて、並びの列を誘導していきます。それと同時に並びの列を確認する店員さんもいます。スーツ姿の正社員、店長なども現れて、何かを話しています。あまつさえ、自動車で現れたのはユニバース系列の会長だったようです。いつも1円パチンコを打ってる帽子のおじさんが、「どうも」と深めに頭を下げて挨拶していました。そのどれもが、3月3日にしか見れない光景で、祭感が高まります。
列に並びながら眺めていると、いつもは見ない顔がごろごろといます。遠征組がいるかは分からないですが、常連客が友達を引き連れてきていたりもしているようです。並びながらタバコを吸ったり、タバコをポイ捨てしたり、ここだけ昭和に戻ったような……ノスタルジーさえ感じました。
9時半になり、入場券を抽選する整理券をもらいました。35番、36番。どうやら100名分売り切れたようです。9時45分から入場券の抽選です。それまでの間に、隣にあるスーパーマーケットのタケモトにトイレを借りに行きました。同じことを考えた人がいるようで、午前中のスーパーには似つかわしくない雰囲気、これからパチスロで勝負するスロッターのオーラのようなモノが流れました。
「良番引けますかね?」
「そうだね。入場券の抽選は、その都度に抽選してる訳じゃなくて、事前に決まってるなんて話もあるけど、どうなんだろうね」
「そうなんですか?」
「まあ、どういうプログラミングなのかは分からないけどね。途中でエラーが出ないように、最初から決めておくのかもしれないね。43番目に引いた人は51番とか、そんな風に」
「それってインチキじゃないんですか?なんだったら、嫌な客に悪い番号をひかせるとか出来るかも?」
「まあ、こればっかりは、ブラックボックスだから分からないよ。そして、結果に対して理由を求めてしまうのは、人間の性(さが)なのかもしれないね」
「オカルトみたいなもんですかね」
「そうだね」
そんなことを話しながら、9時45分から入場券の抽選が始まりました。昔は、箱の中からクジをとるアナログ方式でした。今年はデジタル抽選機を使ってますが、表示された数字を見て、店員さんが番号がかかれたカードを渡してくれるので、半分はアナログです。
番号1番の人から抽選を開始して、その結果に一喜一憂。ツレと「終わったわ」とか笑い合ったりしています。そして、35番。博士の番です。
「せいっ!」
博士は、心の中でそう呟いて、店員さんが持つタブレットをタップしました。画面には57と表示され、店員さんが57番の入場券を渡してくれました。続いて、太一くんの抽選。太一くんは13番でした。さあ、作戦会議です。
「私は、ジャグラーは取れそうだね。マイジャグラーは無理だろうけど、取れたらファンキージャグラーの末尾3を狙うよ。それが無理ならアイムジャグラーの末尾3だね。それも無理だったら、とにかく開いているジャグラーに飛び込むよ」
「僕は、絆2とれそうですね」
バジリスク絆2は全部で16台設置なので、前の12人全員が絆2を狙っても座れます。実際は、番長ゼロなどを狙う人もいるでしょうから、絆2に座れる上に、台選びもできそうです。
「角か、末尾3ですね。角636番台、角から3台目が633ですね。末尾33で角3」
3月3日のユニバースⅢの角3の末尾33台。ゾロ目と3が重なって期待感が膨らみます。博士も末尾33台を狙っておりました。
整理券を受け取った100名が抽選を終え、開店の10時が近づきます。あと5分。博士は、この時に、アメフトの名作漫画のセリフを思い出します。
「開店前のこの感じ良いですよね。良い台がとれるか、緊張でドキドキしているけど、冷静でいようとする自分もいて、血が冷たくなるというか」
太一くんも、同じ漫画を読んでいたのかもしれません。
「開店しまーす!」
店員さんの発声も年一です。太一くんと、博士は狙い台をとれるでしょうか。勝つことはできるでしょうか?運命の一日が始まります。そして、作者も3月3日はパチスロをやっていたのです。作者は勝つことはできるのでしょうか?
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