第5話「勝ち負けをメモるなんてマメですね!」
太一(たいち)くんと恵那(えな)博士の一ヶ月に及ぶ1円パチンコ勝負が終わりました。一ヶ月の間、土日には人生について語り合ったりもしましたが、パチンコをする時は、基本的に別々でした。
太一くんは内装業のアルバイトの後、博士は平日の夕方や土日に集中的にパチンコ屋に通っていたようです。
結果は報告は、最初の資金一万円に対しての残金、貯玉、交換した結果などで行います。まずは、博士が報告しました。
「運が良かったね。現金投資は最初の500円。貯玉はだいたい1万7000玉だね」
博士は、封筒に入れた9500円と会員カードの貯玉数をスマートフォンで撮影した写真を、太一くんに見せました。
「……ま、まあ、すごいですね。ははは。大工のヤツで鬼の連チャンですか?」
太一くんは、博士のスマートフォンを凝視した後、乾いた笑い声を発しながら言いました。
「ちなみにこれが、打った機種と投資と結果のメモだよ」
博士は、スマートフォンで記録したメモをプリントアウトした紙を手渡しました。
「まあ、だいぶ上振れした結果だよ?それで、太一くんは、どうだったんだい?」
「ぼ、僕の結果はこれです…!!じゃーん!!」
太一くんのスマートフォンは、集計後のレシートが映ってました。レシートには、2万800玉と印字されてました。
「こ、この勝負、僕の勝ちのようですね!」
「いや、太一くん。最初の一万円から残ったのは、何円だい?」
「え?」
「私は、1万7000玉と9500円だから、太一くんが7000円くらい残してなかったら、僕の勝ちってことになるけど…?」
「あ、いや……それは」
太一くんは、博士から目をそらして、漫画のようにゴニョゴニョと言っています。
「一万円を全部使ったなら、私の勝ちだよ?」
「お、お金なら、ほら!六万円!」
太一くんの封筒の中には、六つ子の福沢諭吉がいました。
「おお……!?ずいぶん勝ったんだねえ」
博士は、芝居がかった感じで話しました。
「じゃあ、他のレシートも見せてくれるかな?さっきのは2万玉くらいだから、まだ足りてないね」
「え、えーと…!?す、すまみせん、レシート写真とるの忘れてました!」
太一くんは、ミスタイプのような噛み方をしています。
「ふーん、そう。時に太一くん、君が打ったという大工のヤツはどっち?」
「ど、どどっち?」
「319と129」
博士は、パチンコ台のスペックの話をしています。319とは、通常時に319分の1で大当たりとなるスペックです。
「ああ、それですか。319です!すごいスピードで2万発ですましたよ!」
「なるほどね」
博士は、大きなため息をつきました。
「太一くん、何万円突っ込んだ?」
「え、ええ?一万円ですけど?」
「うん。それは1円パチンコの話だね。4円パチンコに何万円突っ込んだんだ?」
太一くんは、言葉を失ってしまいました。「なんで分かったんですか!?」という顔をしていました。
とても簡単な話ですが、1円パチンコには129分の1のライトスペックの大工のヤツはありますが、319スペックは設置されていないからです。あと、太一くんが撮影したレシートは、4円レートの玉の集計結果でした。
「いいから。正直に話しなさい」
「は、八万円です」
太一くんは観念して、封筒に入っていたしわしわの六万円を出しました。
「さっきのレシートは、2万玉くらいだったから、交換して七万円弱か。残りの一万円はどうしたんだい?」
「一万円は、博士から借りていたヤツなので、使っちゃわないように別にしてました」
太一くんは、財布から一万円を出しました。
「全部で九万円使って、残りは六万円。博士に一万円返さないといけないので、全部で四万円の負けですね。完敗です」
色々とツッコミどころが満載でしたし、太一くんの計算能力に不安を覚えましたが、博士は一番聞きたいこと、聞かなければならないことを、問いかけました。
「太一くん、なぜウソをついたんだい?なぜ、1円パチンコで勝負するというルールを破ったんだい?」
博士は怒ってはいませんでしたが、太一くんは委縮してしまいました。自分の行動の理由を、他の人に説明する。それも、パチンコ・パチスロで勝つために必要なことだと博士は考えます。
「……勝ちたかったからです。いや、負けた分を取り戻したかったからです」
太一くんは、声を絞り出すように言いました。負けを取り戻す……それは、パチンコにおいて一番危険な精神状態だと博士は考えますが、そのことを太一くんに伝えるのは、もう少し先のことになりそうです。
「心と向き合わないといけない」と、博士はよく考えます。
負けを取り戻すために、負けが増えてしまう。友人との約束を破ってしまう。それが、パチンコの恐ろしい部分なのかもしれません。博士と太一くんのパチンコ勝負の結果報告会は、もう少しだけ続くようです。
---付録・博士の1円パチンコ実践メモ---
現金1万円スタート。
1日。
金富士。219Gから。
当日当たりなし。据え確認。
天井前に当たる。
投資500円。回収2400玉。
6日。
北斗・連。241Gから。
投資500玉。回収1752玉。
アグネス甘。173Gから。
投資500玉、当たる。
持ち玉2319玉。
アグネス甘。199Gから。
投資500当たる。
持ち玉2704玉。
アグネス甘。180Gから。
投資500玉。回収3312玉。
7日。
アグネス甘。218Gから。
投資1000玉。持ち玉2344玉。
DD北斗199。315Gから。
投資持ち玉2344と追加500玉。
全投資1500玉。回収11394玉。
12日。
水戸黄門。156Gから。
前日からの据え置き判明。
投資1000玉。回収1865玉。
13日。
エヴァ。171Gから。
投資500玉。持ち玉392玉。
北斗・連。161Gから。
天井前当たり。
持ち玉472玉。
ぎんぎらパラダイス199。329Gから。
天井前に当たる、単発。
ここまで投資4000玉。持ち玉694玉。
アグネス。211Gから。
天井前に当たる。
持ち玉1552玉。
アグネス。208Gから。
天井前に当たる。
持ち玉1661。
北斗・連。144Gから。
総投資5000玉。回収3040玉。
14日。
エヴァ。176Gから。
投資2000玉。回収735玉。
15日。
アグネス。210Gから。
投資500玉。回収1886玉。
16日。
アグネス。199Gから。
投資1500玉。回収2977玉。
金富士。160Gから。
持ち玉2123玉。
全投資1500玉。回収2100玉。
17日。
DD北斗199。
273Gから。
投資3000玉、回収800玉。
エヴァ。
185Gから。
チャンスタイム200Gかけぬけ。地獄。
ここまで投資5000枚。回収488玉。
北斗連。
159Gから。
全投資6500玉。回収1600玉。マイナス4900玉。つらい。
18日。
北斗連。
171Gから。
投資1500玉。回収6643玉。プラス5100玉。
右打ち中にブドウが出来たし、かなり削っている釘調整なのかもしれない。250玉あたり、12、3回転くらいの調整かも?
前日のマイナスをまくったぞーい。
21日。
アグネス甘。
168Gから。
投資1000玉。持ち玉480玉。
ぎんぎらパラダイス199。
350Gから。
天井前に当たり。
ここまで投資1500玉。持ち玉419玉。
金富士
185Gから。
ここまで投資3000玉。持ち玉2154玉。
わんぱら。
137Gから。
総投資3000玉。回収4469玉。
27日。
北斗・連
190Gから。
投資1000玉。回収1553玉。
アグネス。
201Gから。
持ち玉2330玉。
北斗・連
201Gから。
天井前に当たる。
全投資1000玉。回収2290玉。
最終結果。
現金投資500円。貯玉約17000玉。
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