エピローグ

第27話「君パチはどうスロるか!?」

―これは「学び」の物語―。文字通り僕が再び学び始める事になったいきさつ……そして、思い返せばパチンコ・パチスロの間は、当たりを願い続け、恵那寛夫(えなひろお)博士と出会ってからは、僕こと大木太一(おおきたいち)は、願い続けた日々だった。


期待値台を願い、設定を願い、勝ちを願う。それらに必要なのは、中卒の僕に必要なのは、やはり「学び」だった。



『通常時には、低確率、高確率、超高確率の3つの状態があり、低確率滞在時のスイカ成立時のCZ当選率に大きな設定差があるが、スイカの成立確率には設定差はない』


博士と出会う前の僕なら、こんな簡単な文章も理解できなかったろう。理解することを拒んだと思う。


あの日、博士とノリ打ちして勝った3月3日から、今までのことを振り返ってみようと思う。



パチスロは6号機の規制が徐々に緩和されて、6.5号機では有利区間の解釈が大きく変わり、メダルレス機として登場した『スマスロ』では、ついにG数での有利区間の制限が撤廃された。


「6号機の規制が生まれた理由は射幸心対策。スマスロは、メダルレスという環境配慮によって規制が緩和された。規制の入り口と出口で理由が違うのは、パチンコ・パチスロを愛する政治家が少ないからだろうね。嘆かわしいよ」


スマスロが世の中に登場した時、博士はそんな風にボヤいていた。パチンコ業界の遊技者やお店に寄り添った政治家の不在というのは、僕が生きている間は、ずっとそうなのじゃないかと思う。パチンコにも玉が循環式のスマパチが登場したけど、ユニバースⅢには導入されていない。


ユニバースⅢは、世の中の動きにあわせて、アクリル板が外され、出入り口の消毒液も撤去された。また、『アスラ』や『パチ江スロ美』などの並び系取材なども行うようになった。これまでとは違う読み筋が必要になったが、Twitterなどで設定の答え合わせが出来て、博士は嬉しそう。



僕はと言うと、内装業のアルバイトを続けながら、大学を目指すことにした。そのために、先ずは『高卒認定』を目指した。勉強で分からないところは博士に教えてもらったし、パチンコ・パチスロで得た学び、国語や数学の知識は大きく役立ったと思う。理系科目や地理などは、覚えるしかなかったけど、例えば化学なんかは、アルバイトで塗ってるペンキなどにも関わっていると思うと興味がわいてくるし、学ぶことで得られる期待値は、もう知っている。


そして、京都市内にある美大に合格した。滋賀県出身のお笑い芸人も、短大時代に卒業したらしい。美大を選んだのは、内装業にも役立つと思ったし、いつか独立したいと思ったから。学費は安くはなかったけど、卒業後の目標も含めて両親に話したら、涙を流して喜んでくれて、学費も出してくれることになった。


大学では、座学や課題をこなしながら、パチンコの役物のようなモノを作ってみたりした。回転体に玉が弾かれたり、クルーンに落ちたり、V入賞したり……見て面白い抽せんの仕組みを作れたら、パチンコメーカーからスカウト来ないかな。


博士はパチスロ派の人だけど、僕は実は、パチンコもけっこう好きだ。ユニバースⅢでは、遊タイム期待値狙い以外は打ってなかったけど。


大学へは実家から通っている。たまに、授業の後に4パチの強い店の様子を見に行っている。京都市内は、地元よりも客数が多くて、稼働も多いように思う。小綺麗な格好の人が多い。経験値は少ないけど、博士も一度誘ってみたい。



博士は、あの日から大きく暮らしぶりは変わっていない。知り合いの仕事を手伝ったり、ユニバースⅢで『アスラ』がある時は、僕と一緒にパチスロしたり。僕が大学に通い出したので、遊びに行く機会は減ったけど、最近、書き物を始めたらしい。パチンコ・パチスロを題材にした小説や、射幸心対策や出玉規制、広告規制に対して思うところをブログに書いたりもしているらしい。


「私も、太一くんくらいの年齢だったら、心理学部とか行きたいかな。パチンコ・パチスロをする人の心理とか、遊技者の立場では、あまり研究されてないんじゃないかと思うんだよ。学び直しかな」


なんて事も言ってたりした。どこまで本気かは、分からないけど。


たまに会った時は、博士とよく話す。僕がパチンコ・パチスロで学んだこと。好きな理由とか。ドキドキ、ハラハラするし、アニメーションとか、音楽とか、効果音が面白くて、それに連動して、玉やメダルが出てくる。


学べば学ぶほど勝ちにつながること。やればやるほど上手くなること。努力が報われること。だけど、運でどうにかなっちゃうこと。どうにもならないこと。でも、期待値は収束すること。


「パチスロとは、生命が輝く瞬間である」


お酒を飲むと、博士は、よくこう言う。博士は、精神的にダメになっちゃいそうな時に、土日に貯メダルで5スロを打つことで、心を繋いでいたことがあるらしい。


博士の言う『生命が輝く瞬間』とは違うかもしれないけど、液晶演出の中の勝利などで、メダルが増えるというのは、他のゲームにはない魅力だと思う。もしも、ドラクエで敵を倒した時に、テレビからゴールドがジャラジャラ出てきたら、みんな、一日中ドラクエやると思う。


大学の授業も楽しい。もしも、将来的に独立したら、従業員を引き連れてパチスロしたい。オブザーバーは博士かな。内装で稼いで、パチスロでも稼ぐ。噂を聞きつけて、僕みたいな奴も、アルバイトに募集してくるかもしれない。そうしたら、僕は、その子に言ってやりたい。勝つために必要なのは、義務教育で習った勉強だよ……と。



「太一くん、入場抽選は何番だった?」


「あ、博士。13番です」


「私は57番だったよ。まあ、狙いのアイムジャグラーは取れるかな」


「721、722番台の並び狙いでしたよね?」


「そうそう。本当は、マイジャグラー行きたいけどね」


今日は、ユニバースⅢで『アスラ』の並びの取材。博士とデータをまとめた結果、アイムジャグラーが取材の対象になることが多かった。


「アイムジャグラーの設定56は、機械割も高くないし、つらい展開になることも多いけど、並んで打てば、つらさも乗り越えられるよ」


あの3月3日は、離れてジャグラーを打ったけど、今日は並んで打てそう。願っておこうかな。無事に狙い台を取れることを。笑って閉店を迎えられることを。パチスロを、打とう。



「開店しまーす。1番の方~」


僕と博士は、カチカチ君と会員カードを手に、今日もユニバースⅢに入ってく。

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