第3話
―げこうじ―
その日の放課後。夕貴は、教室を出て、慌てて、校門に向かい歩いていた。こうやって、一人で下校をする様になったのは、いつの日からだろう。夕貴は、苛められているわけではない。どちらかと云うと、活発で、クラスの中心的な存在であった。いつの日からか、クラスの輪から、外れる様になっていた。初めの内は、クラスのみんなが、そんな夕貴に、心配をし、気を使ってくれ、声を掛けてくれていたのだが、日々が流れるにつれ、そんな事も無くなっていく。夕貴は、そんな周りの状況が変わっていくのに、いささかの迷いも無くなっていた。それだけ、自分が背負うものが重く、家族の事で、いっぱい、いっぱいだったのだ。
<夕貴ちゃん!>校門の前に、差しかかった時、今朝、聞いた声。聞き慣れた声が、夕貴の耳に飛び込んできた。声の主は、耕貴。夕貴は、立ち止まるが、振り向こうとしない。逆に、無視して、歩き出してしまう。夕貴が、小走りなるのを、追いかけていく。校門を出て、しばらくして、隣に並走している。
「夕貴ちゃん、どないしたん。無視しなくてもいいやん。」
耕貴のそんな言葉に、歩くスピードを上げる夕貴。
<待てや、夕貴ちゃん!>耕貴の苛立ちが、そんな言葉を発して、また、夕貴を追いかける。
夕貴は、恥ずかしかった。今朝、泣いている所を、耕貴に見られたのが、恥ずかしくて仕方がなかった。耕貴には、自分の弱い部分を、見せたくはなかったのだ。
「夕貴、話し、聞いてや。僕なりに、考えてみたんよ。夕貴ちゃんが、なんで、あんな悲しい顔をするんやろ、原因は、なんやろって…」
夕貴が、一段と、スピードを上げようとした時、耕貴は、こんな言葉を発した。
『おじさんやろ!原因は、おじさんやろ!』
そんな耕貴の言葉に、立ち止まってしまう。夕貴にとって、触れてほしくない所に、触れてしまう。
「何、なんで、そんな事ゆううん。」
夕貴は、そんな言葉と一緒に、鬼の形相で、耕貴を睨みつける。少し前まで、家族ぐるみの付き合いをしていた。そんな付き合いをしていたから、風の便りで、夕貴の家庭の事情が、耳に入っていたのも、当然の事かも知れない。
<やっと、止まってくれた>鬼の形相になっている夕貴に対して、冷静な態度を取る耕貴。夕貴を、怒らせたのは分かっていた。それよりも、夕貴の足を止めたのが、耕貴にとって、重要な事であった。夕貴は、昔から、何でも、自分で背負いこむ所があった。自分で解決しなければと思い、周りが見えていない、融通の利かない所がある。自分の話しを聞いてもらう為に、夕貴を怒らせる事を、わざと口にしたのである。長い付き合いの耕貴でなければ、こんな言動はしない。
「夕貴ちゃん、僕、いい事思いついたんだよ。だから、僕んちに行こう、ねぇ!」
耕貴は、夕貴の返事も聞かず、手を取り、強引に引っ張る。自分の身体に、力を込めて、抵抗しようとする夕貴。しかし、耕貴の力には、及ばない。耕貴の方に、引き寄せらせる様な感覚。この前まで、力負けしなかった耕貴に、力負けしてしまっている。耕貴の後ろ身に、視線を向ける。身長差、体格さなんて、感じた事がなかったのに、一回り、大きく見える。さっきまでの鬼の形相が、消えている。普通の女の子の表情に戻っていた。耕貴の背中に、吸い寄せられる様に、一緒に駆けていた。
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