第6話
―京都―
成人の日。場所は、京都、長岡京市にある。昔ながらの一軒家。朝早くから、女性三人が、何やら騒いでいる。
「母さんも、おばあも、何で、はよ、起こしてくれへんかったん。美容院、六時からなのに…。」
そんな言葉を口にしながら、慌てまくっている女性が、夕貴であった。ここ長岡京市にある祖母の家。引っ越してきて、十年。正確に云うと、まだ二十歳の誕生日を迎えていないから、十年のちょっと手前である。
今日は、夕貴の成人式。髪を結いに美容院に行くところ、寝坊をした夕貴は、ワタワタしている。
「お母さんは、起こしたよ。あんたが、起きなかっただけやろ。まったく…。」
「夕貴ちゃん、忙しない事。」
居間のコタツで、熱いお茶を啜っている二人は、母の千鶴子、祖母の小町である。今、慌てている夕貴は、十年前、京都に来てから、これまで、母親の実家である、ここ(長岡京市)で暮らしていた。阪急京都線、【長岡天神】駅、京都の下町色が残る、この町で、すくすくと育っていた。
「そやかて、おばあ。」
「予約ってもんは、少しぐらい、遅れた方が、丁度ぇえもんよ。ちっとは、落ち着きなさい。」
一生に一度の大イベントなのはわかるが、朝早くから、忙しすぎる夕貴に、ゆったりと、子供をなだめる様に言葉にする。
「母さん、甘い事言わんといて、起きんかった夕貴が、悪いんやさかい。」
「千鶴も、そんなイケズ、言わんで、車で送ってやない。わしは、朝御飯の支度しとくから…。」
祖母の小町は、そんな言葉を口にすると、立ちあがり、台所に向かう。母、千鶴子は、渋々立ち上がり、玄関に向かった。夕貴は、そんな二人の言動を見て、慌てて、千鶴子の後を追う。
「二人とも、仲良くするかやよ。イケズせんと、行きや。わかってるか。」
小町のそんな言葉が、玄関先まで届いていた。いい意味でも、悪い意味でも、こんな感じで、夕貴は、十年間生活をしていた。耕貴への想いを胸にしまい、小町と千鶴子のもとで、明るく育っていた。美容院に行く車の助手席で、ブーたれた顔をしていても、車を運転する千鶴子に、感謝している。家で、朝食を作っている小町にも、頭を下げていた。
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