お前は、逃げていい

 わたしは、ランに問いかけた。


「どういう意味だ? あんたどういうつもりで」

「コイツはどうせ元の世界じゃ生きられない。なんの刺激もなく、ただ昔を懐かしんでいるだけだ。コイツの力は、異世界だからこそ活かされる。だったら、行きゃいいんだよ」

「ラノベの主人公じゃねえんだぞ」

「主人公だよ。誰だって」


 ランはナナミを、異世界の主人公に仕立て上げるつもりらしい。


「こっちだって『ノーリスクで優良物件です!』だなんて一言も言ってねえだろ。決めるのはコイツだ。お前じゃねえ」


 わたしは、何も言い返せなかった。


 たしかに、ランの考えは突飛すぎる。

 だからといって、わたしには代案を立てられなかったから。 


「ナナミとやら、いっちょコイツと過ごしてみるか? 気に入ったら嫁になってくれるとありがたい。女っ気のあまりない環境で過ごしているから、ちょっと配慮にかけるところがあるが、そこは歩み寄りで」

「はい。わかりました」


 飲み込みが早い!


 やっぱりナナミは、異世界などの不思議な環境に憧れていたのかも知れなかった。


「つまんねえんだろ、今の世界はよ。息苦しいんだったら、言えばいいんだ」

「それは、そうですね。確かに、今までは楽しくなかったかも」


人並みの生活は送れているが、充実しているとはいい難かったと、ナナミは語る。

 

「じゃあ、あんたはツイてる。あたしたちのような『解決策』が、周りにいるんだから。普通のやつはこうはいかない。だったら、いっちょ使い倒してもいいんじゃねえか?」


 まるで、いたずらっ子だ。

 ランの思考は、「できることは全部やってみろ」って言っている。


「あんたは自分を押し殺して、これまで普通に生きてきたんだ。でも、もうあんたは普通じゃない。ファンタジーに片足突っ込んでしまっている。もう逃げていいんだよ」


「でも、そのあとどうすれば?」

「知るかよ。そっから先は自己責任だ。あたしは場所を提供しただけ。どう生きていくかは、アンタが決めろ」


 勇者と添い遂げるつもりがあるなら、ご自由に。

 もし、勇者が気に食わなかったら、出ていってもいい。


 ランは、そんな投げやりな提案をした。


「お前、ムチャクチャだな」

「何を言ってんの? 責任の半分は、アンタにあるんだぞ」


 わたしは、言葉に詰まる。

 

「アンタが無理やりコイツを魔法少女なんかにするから、普通の世界で生きられなくなってるんだろーが」

「そ、それは……」

「彼女に素質があったからだろうが」


 まったく、ランの言うとおりだ。

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