大掃除
「ふおおおお! 寒いよおおお!」
公園の掃除を終えた擬人ドラゴンのランが、体育館で身体を震わせる。
今日は、町内会総出で大掃除だ。
わたしたちは学校周りや公園周辺の掃除を担当し、あとは子どもたちにお菓子を配るだけ。
ダンボールに詰まったお菓子を、ガキどもに分け与える。
「はいはい並んでー」
「ケンカすんじゃねーぞー」
売れ残りだが、子どもにとってはうれしいのだろう。
中でも、スナックの麺が飛ぶようにハケていった。
「おい、どさくさに紛れて胸触ろうとすんな」
まったく、近頃のガキはマセてやがるなぁ。
「触る胸はこっちにはねえ。あっちのドラゴンのとこへ行け」
少年よ、その歳で貧乳にハマっているとロクな大人にならんぞ。
しかし、小さい歳でもセンシティブな行いを咎める人間というのはいる訳で。
女子数名が、わたしたちにセクハラした男子を吊し上げていた。
わたしたちはいいって言っているのに。
「わかります。正義感からじゃないですよねー、あれは」
「ああ。ありゃあ単なるヒスだ。やりすぎだっての」
あの手の男児は、ちょっとドスを利かせたらビビって逃げる。
なので、あそこまで執拗に責め立てなくていい。
怒りを爆発させるのは、それ以上にストレスに晒されているからだ。
「あの歳でドーパミン中毒かぁ。先が思いやられるねぁ」
「だよなあ。ストレスの根本から脱出することが大事なんだって教えてやれたらな」
ああなると、放っておくしかない。
自分で気づく以外に、怒りによる脳内麻薬ドバドバ地獄から逃れるすべはないのだ。
「そっとしておくに限る。我々がそれを言ったところで、説教と取られるぞ」
「だな」
あっという間に、ダンボールが片付く。
男子をネチネチ攻撃する女子を横目で見ながら、我々モンスター娘は退散する。
「早く帰って風呂入ろうぜ」
「だな。うう寒い」
しかし、そんな願いは脆くも崩れ去った。
「……おかえり。まだ時間がかかるから、我慢してくれ」
大将が、風呂場を掃除していたのである。
町内会の掃除から帰ってすぐにこれとは。まったく頭が下がる。
「うおおおー」
しかし、我々は我慢の限界ってものが。
事が起きる前に、わたしはランを羽交い締めにした。
「ぬぬぅ、止めるなシリアよ。ここはひとこと言ってやらんと気が済まん」
「まあまあ、抑えろラン。我々までドーパミン中毒になるぞ」
わたしは、ランに深呼吸をさせた。
怒りのピークは約六秒である。それさえ過ぎれば。
ランはようやく、落ち着きを取り戻す。
「コタツで待っていよう」
「そうしようか」
我々が出した結論は、「大将を手伝わない」だった。
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