名前と在庫処理
「なあシリア、あんたなんで酒の化身なのにハムスターなん?」
コタツを挟んで向かいに座るドラゴンが、せんべいをバリッとかじる。
「わたしの元となったお酒って、『黄金大黒』っていうでしょ? 大黒様の使いが、ネズミだから」
わたしも、ドラゴンを向かい合ってせんべいを頬張った。
「じゃあシリアって名前の由来は?」
わたしは以前、大将から名前を聞かれたとき、とっさに「シリアです」と答えた。
「シリアンハムスターだから。別名をゴールデンハムスターっていうんよ」
一般的なハムスターは、この種類らしい。
「それにしても、片付くかね、これ?」
コタツの上には。大量のお菓子が。
これはすべて在庫、つまり店の売れ残りである。
わたしたちは、在庫処分をしているところだ。
「わたしたちなら、余裕っしょ」
再び、せんべいを崩しにかかる。
「でもシリアさんや。いきなりせんべいは、ハードルが高すぎでないかい?」
唐突に、ランが昔話のおばあちゃん口調になる。
「いや。最初から硬いものを処理していって、段々と柔らかいものへ移行していく」
「何情報よ、それ?」
「大食い配信者のチャンネル」
「ああ、あんた好きだもんね。口に何かを一杯詰め込む人間のシーンとか」
「そうそう。シンパシーを感じる」
やはりハムスターだからだろう。
「口をパンパンにする場面」に夢中になっている自分がいた。
気がつけば、自分も柿ピーが止まらなくなっている。
「あたしも柿ピーほしいぞ」
「ほらよ」
せんべいと柿ピーが終わって、ラムネへと取り掛かる。
「ああ、しょっぱい後に甘いと来るな。でも好き」
「わかる。好きすぎる」
甘いラムネが、歯に挟まったせんべいとシンクロして、たとえようもない味わいになっていた。
しかし、イヤではない。これはこれでおいしいと思う。
「あんたはラン、って名前なんだよね? やっぱ幻の酒の『リュウゼツラン』から取ったん?」
「いや。ドラゴンを略したら『ラン』になるだろ?」
「どんな略し方してんだよ?」
わたしたちは、口の中へラムネを処分していく。
「ラン。ガム、どうしよっか?」
数ある駄菓子の中で、ガムは賞味期限がない。
比較的、日持ちする。
「ガムは、もうガキにやろう」
「うん、そうしよう。来週の日曜に大掃除があるし、ジュースと一緒に持って帰ってもらうか」
町内会や商店街の大掃除などの集まりの場で、子どもたちに分けることにした。
「それにしても、あんたのこといっぱい知ってると思っていたけど、案外知らないこと多いな」
昔懐かしい粉から作るメロンジュースを飲みながら、ランがノドを潤す。
「別に知らんでもいいでしょうが。将来的に何をしりたいんよ?」
わたしは、ぶどうジュースを作って飲んでいた。
「性感帯、かな」
「ここにヘンタイがいますよー」
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