雪の大晦日

「おー、雪だぜシリア」


 ドラゴン娘のランが、軒先の向こう側を眺めている。


「窓を閉めろラン。寒い」


 わたしはこたつに潜った。

 この季節、雪はさして珍しくない。

 

 いつも人一倍さむがりなくせに、どうして今日はやたらとテンションが高いのか。


 

「この調子だと積もるな」

「だから閉めやがれ。冬眠したいなら一人でやってくれ。わたしを巻き込むなよ」

「わかったわかった」


 ようやく、ランが窓を閉める。


「まったく、いつもは人一倍寒がりじゃん」

「あたしの故郷では、雪なんか降らねえからな」


 こたつに入るなり、ランが身を震わせた。

 やっとランも寒さがぶり返してきたらしい。


 ジャージの上に、半纏まで羽織る。


「昭和の受験生かよ、お前」

 

 我々も、もう十分すぎるくらい、こちらの生活に慣れ親しんでいた。


 テレビの付け方も学んでいる。


「おー。爆弾低気圧だってよ」

「うわ、ヤバイじゃん。防寒対策を」


 わたしたちは、急いで窓に気泡緩衝材、つまりプチプチを貼り続ける。


「すりガラスに付かん!」

「ああラン、すりガラスの方はいいや」


 すりガラスに断熱シートを貼ると、温度変化で割れることがあるらしい。


「他のところを頼む」

「うい。じゃあ、玄関もいいな」

「断熱しようにも、開けっぱだしな」 


 それにしても、大将が遅い。

 車庫は未だに、空のままだ。

 いつもなら、もう大将の軽四が止まっていてもいいのに。


「ご主人、おせえな」

「ああ。なにもないといいが」


 二人で外に出て、様子をうかがう。

 わたしたちは、どちらも寒いなんて弱音を吐かない。


 居候させてもらっている身だから、なんて安易な理由からじゃない。

 やっぱり、拾ってもらった恩が……。


「探そうぜ。雪で帰れなくなっているのかも」

「待て。それだと二重遭難になる危険があるぞ。まず、連絡する」

 


 大将も、スマホは手放さないはず。

 充電していなくても、シガーライターでいける。


『……もしもし』

 

 長いコール音の後、ようやくつながった。


「今どこ?」

『問題ない。今、車が動くところだ』


 渋滞に巻き込まれていたのか。 


「よかったぁ。じゃあ気をつけて」


 通話を切って数分後、雪が晴れてきた。


「あ、見えた見えた」


 大将の軽四が、戻ってくる。


「おいラン、大将が帰ってき……クス」


 台所で白菜を刻んでいる、ランが見えた。

 


 今年最後の夕飯は、すき焼きで確定した。

 あいつは、すき焼きしか作れないから。


「……すき焼きか」


 大将も、香りでわかったらしい。

 

「そ、外回りで、寒かったろ? あったかいものを食わせなきゃって思ってさ」


 今年最後にふさわしい、実に素直でないツンデレセリフどうもありがとう。

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