お年玉と、傷ついた少女

 お正月、大将がわたしたちにポチ袋を差し出してきた。


「……年玉だ」

「いや、給料もらっているし」


 わたしたちは、大将から給料の他にボーナスももらっている。

 酒屋も繁盛していないので、寸志の数万円程度だが。


「……師走は、がんばってくれた。これでも足りないくらいだ」

「そうはいってもねえ」


 タダ飯を食わせてもらっている上にお金までもらうのは、さすがに気が引けた。

 なんの恩返しもしていないのに。


「カタいこと言うなよ、シリア。大将、ありがたくちょーだいするぜ」


 かたや、ドラゴン娘のランは調子がいい。


「ありがとうな。大事に使うぜ」

「だな。ありがとう大将」


 わたしたちは、お礼を言ってポチ袋をいただく。


 今日は店がない。久しぶりに外へ出ようかと考えた。


「これで、なにか食いに行くか?」

「いや、店なんて開いてないぞ」

「そっかー。じゃあコンビニで何か……」


 わたしたちが表に出ようとしたとき、店の横に人影が。

 一人の少女が、店の隅に座っていた。落ち込んでいる様子である。


「おい、この子って」

「ああ」


 以前大掃除のとき、わたしたちにセクハラしてきた男子をきつい言葉で罵っていた少女だ。

 

「どうした?」

「また、男子とケンカになって」


 少女は、苦々しげに話す。


「でも、友だちの女子がかばいだして。『そんな言い方ないでしょ』って! 被害者はその子なのに!」


 相当、腹に据えかねているようである。


「大将ー。この子、家に上げていい?」


 一度落ち着かせたほうがいいなと、ランと話し合って決めた。


「……好きにしろ。オレは、あいさつ回りに行ってくる」


 昼は適当に食っとけとのこと。


「はーい。気をつけて」

「あの、お邪魔します」


少女が頭を下げる。

 

 ジャケットを着た大将が、少女の頭をなでた。


 大将を、みんなで見送る。


「さっそく、この年玉を使おう」


 そう言い、ランが年玉を崩して駄菓子を買い込む。

 少女に好きなものを選ばせて、コタツへ直行した。


「話を聞こうか」


 グラスに炭酸を入れて、事情を聞く。


 少女の名はチエという。


 友人宅で男女の友だちとカルタ遊びをしていたとき、一人の男子が女子とぶつかった。

 それを、一人の悪ガキがはやしたてたのだ。


 学校では、二人がいい感じの関係だとウワサになっていた。


 男子を突き飛ばして女子と接触させたのも、その悪ガキだったのである。


 チエは「からかうのはよくない」と悪ガキを責めた。

 いやらしいのは、いけない。嫌がっていると。


「でね、そんなんだからモテないのよ! って言ってやったの」


 チエは誇らしげに語った。

 

 ああチエよ、それは言いすぎだ。

 しかし、わたしはその言葉を飲み込む。


「そしたら、悪ガキが急に泣き出してさ。で、他の女子たちが、『そんな言い方ひどい』『あなたはいつも、一言多い』って大ゲンカになって」

「友だちを放って、家を飛び出したと」


 チエはうなずいた。


「私は悪くない! なんでお正月なのに、こんなモヤモヤした気分にならないといけないの!?」

 

 興奮気味で、棒状スナックを握りつぶす。


 ランが、目で訴えかけてきた。


『どう考えても、チエが悪いよなぁ』と。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る