コタツの亡霊

大将の妻

 わたしたちは、いつものようにコタツでくつろいでいる。


 今日は珍しく、大将も一緒に混じってTVゲームをしていた。


 コミカルなキャラクターを操作する、レースゲームである。


 わたしとドラゴン亜人のランが、トップを争う。


 大将は、ゲーム自体得意ではないのか、NPCにすら負けていた。


「コンピュータは、最弱に設定しているんだけどな」

「コースアウト何回目よ」


 わたしたちも、呆れるほどである。

 

「……でも、楽しい。こういうのも、たまにはいいな」


 大将は、まったく気にしていない様子だ。


「それにしても、たくさんゲームがあるね? 大将はゲームをしないのに」

「……妻が家に引きこもっていたから、映画とゲームくらいしかなくて」

「ご、ごめんなさい!」


 わたしが謝ると、大将は「……いいんだ」と返してくれた。


 大将は、奥さんとのいきさつを話す。


 

 元々病弱だった奥さんは、家族も病気で早くに亡くした。

 親戚はいたが、お金にがめつい人だったという。

 そこで、大将が引き取る同然で彼女を奥さんにする。


 大将を気味悪がって、親戚もよりつかなくなったそうだ。


「……幼馴染だったし、互いに惹かれていた。だから、オレにとってはよかったんだ」

 

 奥さんの方も、幸せだっただろう。

 でないと、こんな写真のように笑えない。


「……食事の支度をする」


 ゲームから席を外し、大将は水炊きを作りに行った。

 白菜を切り、しいたけの傘にバツをつける。


 わたしたちは、手伝わない。ゲームに興じる。


 大将にとって水炊きは、なんというか、儀式のようなものだ。

 だから、大将はわたしたちになにも手伝わせないのである。


「ああ、いい香りがしてきたなぁ」


 わたしは、台所に鼻を向けた。

 

「集中力が死ぬぅ」


 ランも、大将の水炊きが待ち遠しい様子である。


 ただでさえ、冬は鍋の季節だ。

 最近は寒いので、ほぼ毎日水炊きである。

 それでも、わたしたちにとっては最高のひと品だ。 


 いつものグツグツ音が、わたしたちの耳に入ってきた。

 


「えーっ、また水炊きなのぉ?」

「……我慢しろ。オレにはコレしか作れない」

 

 ちょっと待ってくれ。


「なあ、この部屋って、あたしとシリアしかいねえよな?」

「ああ。今のは、誰の声だ?」


 周りを見渡すが、誰もいない。


 あるとしたら、仏壇に飾ってある奥さんの写真しか――っ!


「奥さんが、写真からいないぞ!」

「なんだと!?」


 異変に気がつくと、わたしたちの向かいに、人の姿があった。

 誰も座らないはずの席に、誰かがいる。


「はじめましてー」



 写真の人物そっくりの女性が、わたしたちに手を振ってきた。

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