コタツの地縛霊

「どうも。はじめましてかな? 私はタキ 雪青ユキオくんの妻で、多鶴子タツコといいますー」


 その亡霊は、わたしたちの前でハキハキと自己紹介をする。

 多鶴子さんはロングヘアーで、写真と同じワンピースを着ていた。

 胸のサイズは、わたしとランのちょうど中間くらいか。

 大将が寄り分けた水炊きにまで、口をつけている。


「ずっとコタツをかぶせたお布団の中で生活していたから、クラスのみんなからは『こたつ』って言われていたのよー」

 


 猫舌なのか、食べるのがかなり遅い。

 鶏肉を、いつまでもフーフーしている。うどんもすすれない。


「雪青くん、相変わらず水炊きしか作れないのねー」

「……ああ。お前の好物だから」


 飲み物もお茶やお酒ではなく、オレンジジュースだ。コドモかよと。


「おい、あの幽霊、水炊き食ってるよ」

「いや、不思議じゃなかったんだ」


 しょっちゅう、お供え物のまんじゅうやマンガ盛りのゴハンなどが、ふと気がつくとなくなっていた。


 お墓なら、コドモのいたずらか、虫か鳥が食ったのだろうと思える。

 しかし、仏壇となると別だ。

 こちらがお供えを忘れたのかと思うほど、瞬時になくなる。


 水炊きを食べて落ち着いたのか、多鶴子さんは語り始めた。

 

「ごめんねー。びっくりしたわよねー。でも、あなたたちをこの世界に呼んだのは、私なのー」

「そうだったんですか?」

「そう。雪青くんを守ってほしくって。ほら、わたしってこんなでしょ? 体調のいいときしか、会いに行けなくてー」


 幽霊に、体調とかあるのか!?


「お供えをパクパクして、少しは元気も出てたんだけどねー」


 お墓の前でおにぎりにパクついている、多鶴子さんの霊が頭に浮かぶ。

 

「どうしよう、ラン。もう、ツッコミが追いつかない」

「幽霊と話している気がしねえ」


 まったくだ。

 


「成仏なさるおつもりとかは、ないと」

「ないよー。だって向こうに行ってもやることないし。『転生しても、また病弱の身ですよ』って言われてさー」


 多鶴子さんの霊媒体質は、どうしても本人の肉体年齢を削ってしまうそうだ。

 強すぎる霊力に、身体がついていかなくなるらしい。

 よって、どうしても多鶴子さんの血筋は短命に終わるそうだ。


「だったら、雪青くんの側にいたいなって」


 たとえ地縛霊になっても、愛する人をずっと守り続けていたという。

 

「で、もう限界かなって」


 水炊きを食べながら、多鶴子さんがため息をつく。

 

「消えちゃうんですか?」

「違うよ。百合成分不足で死にそうだったの」

 

 女性同士のイチャイチャを見続けないと成仏してしまう霊なんて、初めて見た。

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