百合成分補給人妻

「でもうれしいわぁ。百合成分を充実させてくれる存在が、二人も確保できるなんて」


 本棚などを見る限り、多鶴子たつこさんは百合のガチ勢らしい。


「それじゃあ、あたしがシリアとくっつこうとしているのも、あんたがそう誘導しているわけか?」

「違うわよー。それはランちゃんの性癖よー」


 ランの質問に、多鶴子さんは秒で返す。


「シリアちゃん、ランちゃん、もっとイチャイチャしていいのよー。誰も見ていないわよー」

「いや、あなたが見てるじゃん」

「私はいいのよー。幽霊だからー」


 多鶴子さんは、わたしとランをもっとくっつけようとする。


「そこまでいうなら」


 お世話になっているのだ。別に百合営業ぐらいワケないな。


「うおっ、珍しいな。シリアから、あたしと同じスペースに入ってくるなんて」

「単純に寒いんだよっ。いいから席空けろ」


 意識なんてしないが、変に迎え入れられると腹が立つ。


「なんか食べたいものはあるか。よそってやるぜ」

「自分でやるからいいよ。子ども扱いすんな」


 鍋から、イワシのつみれをすくい取った。

 

「あー、あたしもツミレちょうだい。鶏のやつ」

「だれがよそってやるって言ったよ!? 自分でやれよ届くだろうが!」

「えーっ。食べさせてくれよー」

「うるさいなあ」

 

 わたしたちでは、百合というより漫才になってしまう。

 

「遠慮しなくていいのよー。そうそう。いやーはかどるわー」


 わたしたちが触れ合う度に、多鶴子さんの食欲が増していく。


「お前さ、こういうのって苦手かなって思ってた」

「うん。苦手だよ」


 指示されて百合のマネごとなんてするのは、たしかにわたしのスタイルではない。


「でも、今日はやるんだな?」

「たまにはな」


 大将はすっかり具材を入れるかかりになってしまっていた。

 だが、心なしがうれしそう。

 いつも大将は無表情で、何を考えているかわからない。

 が、動作などを見ると、奥さんが元気そうで楽しんでいるみたいだった。


「いいじゃんか。そういう日があっても」

「だなー。かわいいヤツめ」


 ランが、わたしにヘッドロックをかましてくる。

 

「やめろって、変なスキンシップを取るなよ」

「別にいいっての。おとなしく、あたしのオッパイを堪能しやがれ」

「ふもお」


 今日はやけに、ランの機嫌がいい。 

 

「ごちそうさまー。お風呂沸かしてあげるわねー」


 多鶴子さんが、キッチンに指を差す。

 ひとりでに、お風呂のスイッチが入る。


 水炊きは、多鶴子さんがほとんど食べてしまった。


 わたしたちも満腹であるが、多鶴子さんのどこに入っていくのだろう?

 

「じゃあ、一緒にお風呂入りましょうか」

「はい」

「やけに素直ね」

「お聞きしたいことが、ありますから」

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