百合に挟まれる人妻

 わたしは、幽霊の多鶴子たつこさんと入浴するという不思議体験をしている。


 まさか、幽霊が風呂に入れるとは。


「はあー。リフレッシュできるわー」


 多鶴子さんが、湯船の中でフニャフニャになっている。

 なんだか、気持ちよさそうだ。

 本当に生きているかのよう。

 わたしたちと違って、身体の起伏には乏しいが。

 背丈は、わたしとランの中間くらいである。


「ごめんなさいね、シリアちゃん。狭いでしょ?」

「いえ。ランの胸のほうが邪魔ですから」


 多鶴子さんは完全に透けていた。

 ゆえに、狭い湯船にわたしとランが入っても余裕で入れる。

 という、姿が半分くらいわたしたちと重なっていた。


「あー。この百合サンドイッチもいいわねー。これこそまさしく『百合に挟まれる』現象なのねーそりゃあ死ぬわー。私もうシンでるけど」


 冗談に聞こえないジョークを、多鶴子さんが飛ばす。


「熱とか、感じるのか?」

「そうよー。私はもう半分神様みたいなものなのでー。いわゆるこの家の神?」 

 

 やはりか。

 でなければ、たかが幽霊がわたしたちのような存在を家に招くなんてできないはず。


「だから、ランちゃんのおっぱいの感触もわかるのよー。ふわっふわよねー」

「それはどうもありがとう。なんか、親しみやすい人で安心したよ」


 ランは、多鶴子さんに自慢の胸を揉みしだかれている。

 されるがままだ。


「自分で、大将を守ってあげられるんですよね?」


 この地域は、霊圧が強い。

 ゆえに、それを狙うあやかし、つまり「魔物」がたまに出てきてしまう。

 魔物を追い払うのが、わたしたちの仕事だろうと思っていたけれど。

 

「できるよー。ある程度までは。でも、私が雪青ゆきおくんと会えるのは、こんなときくらいかなー? お盆とお正月くらい。あとはお彼岸ねー」


 霊力の大半を退魔に使っているため、姿を維持できないという。

 退治した魔物の霊力を取り込んで、魔力を補給できるらしい。

 だが、今のように会話までしようとなると、膨大な霊力が必要になるそうだ。


「多鶴子さんは、大将が女二人と住んでいるのに、抵抗はないんですか?」

「ぜーんぜん。信頼しているもの」

「そんなに、大将のことを」

「ううん。シリアちゃんたち二人のことを」


 わたしたちを?


「二人がいる限り、雪青くんは寂しくないかなって。二人も、関係を崩そうなんて考えてないでしょ?」


 ランもわたしも、多鶴子さんの言葉にうなずく。

 

 最初こそ、わたしたちは大将の気持ちを汲み取り間違えた。


 でも、今は大将の望んでいないことは把握しているつもりである。

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