元魔法少女と淫獣枠
元・魔法少女のマスコット
何年前だっけか。
わたしは、魔法少女のマスコットをやっていた。
魔法少女とともに、悪い魔法使いをやっつけたのである。
しかし、魔法使いは世界を闇に染めるべく最後の手段に出た。
ブラックホールを召喚してしまったのである。
『ナナミちゃん、ここはわたしに任せて! あんたは自分の世界へ帰るんだ!』
月面での最終決戦で、わたしは透明な球体を召喚した。
ナナミを球体へ押し込む。
「そんな。シリアちゃんを置いていけないよ!」
魔法少女として絶対的な力を持ちながらも、ナナミはわたしの身を案じてくれた。
だからこそ、わたしは彼女にすべてを任せることができたのだ。
そんなナナミだからこそ、生かさなければと思った。
わたしはナナミから、すべての魔力を奪う。
ナナミはもう、魔法少女でなくていい。
『生きるんだ、ナナミちゃんだけでも!』
「そんな。シリアちゃん! シリアちゃん!」
だんだんと、球体は遠ざかっていく。
これでいい。後始末は、任せろ。
わたしはナナミから奪った全魔法に自身の魔力を上乗せした。
これならギリギリ、ブラックホールは破壊できるはずだ。
全魔力を、ブラックホールにぶつける。
閃光がほとばしって、わたしも光に飲み込まれていった。
気がつけば、雪の降る街の片隅に座り込んでいたっけ。
表にある看板からして、酒屋の裏だとわかる。
「おっす」
体を震わせながら、少女が立っていた。
「さむ!」
「そりゃあ、ジャージにブルマ姿では寒かろう」
ひと目で、彼女が同業だとわかる。
腰に竜のシッポが生えていたからだ。
「わたしはシリア」
「ランって呼ばれていた。あんた、淫獣枠だろ?」
身体を腕でこすり合わせながら、ドラゴン娘はわたしに問いかける。
「陰獣言うなよ。お前は?」
「元・勇者の使い魔」
世界を救った勇者が、寿命を迎えたという。
「死ぬ前に、なんでも願い事を叶えてやる」
と指摘されて、
「勇者の故郷を見に行きたい」
と告げたら、この地に立っていたらしい。
もう、勇者の波動を感じないという。
それで、わたしはすべてを察した。
おそらく、彼女も。
「寒いなぁ。腹も減ってきた」
「ああ。お互い消耗しきっているようだし」
「よく顕現できたな?」
「おそらく、この酒瓶のおかげだろう」
空の酒瓶が、足元に転がっている。
「わたしたちは、この酒の化身として再生したらしいな」
「ふうむ。なるほどねぇ」
酒瓶を掴むと、わたしたちの身体に吸収されていった。
ラベルが、お互いの着ている服に張り付いている。
わたしのはハムスター耳のパーカーに、ランのはジャージの胸元に、それぞれワッペンとして。
「しかしヤバイ。このままだと凍死か餓死するぜ。シリアさんよぉ」
「あるいは、どっちもだな」
「人肌であっため合いますかい?」
手をワキワキさせながら、ランがにじり寄ってくる。
「よせ、そういう趣味はないって」
「いいからいいから。背に腹は変えられませんぜ?」
「いいっての!」
「いやよいやよも……ん?」
ひとりの人間が、わたしたちの様子を伺っていた。
「……入れ」
その人物は、わたしたちを自身のお店へ案内する。
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