天ノ|邪悪《ジャッカー》

 あまのじゃくの親子が、敵対するあまのじゃくを殴り飛ばす様を見た。


「なにが、起きているんだ?」


 ランが首を傾げていると、大将がおもむろに口を開く。


「……あれは、あまのじゃくじゃない『天ノ邪悪ジャッカー』だ」


 大将が、敵の正体に心当たりがあるようだ。

 

「ジャック、乗っ取りってことか?」

「……ああ」

 

  

 この「あまのじゃく」は、別名『天ノ邪悪ジャッカー』というらしい。

 力の弱い神様に取り憑き、自身が取って代わろうとする鬼だ。


 

「あまのじゃくの子どもが酒の香りで酔ったところを、狙ったってとこかな?」

「……そうだ。いずれ大人にも憑依するつもりだったのだろう」

 


 しかし、今は離れた。

 ということは。


「じゃあ大将、今はスキにしても?」

「……ああ。もう二度と悪さできないようにしてやるんだ」

「おっけー」



 後は、わたしたちの独壇場だった。


 天ノ邪悪はランの的になり、わたしの格ゲー技の練習台になる。


「ちくしょう、オレにもっと力があれば……」

 

 

 それだけ言い残し、天ノ邪悪は消滅した。


「……これで、当分は人間界に悪さをしに来ないだろう」


 雪の舞う空を見上げながら、大将がつぶやく。


「保護してくださって、ありがとうございました」


 あまのじゃく親子が、頭を下げた。


「この子は、前の妻との子どもで、夫婦間でもどう関わっていいか迷っていたのです」


 この神様は、人間の里を管理する職につくか神の国にとどまるかどうかで、前の妻と別れたという。

 数年後、彼は新しい妻を迎え入れる。

 だが、子どもの方は前の母親を恋しがっていたようだ。

 

 神社で人として育てるか、前妻のいる神の国へ返すか。

 


「そこを、天ノ邪悪に付け込まれたのでしょう」


 あまのじゃくのガキは、「人として悪さをすれば、前妻のいる神の国へ追い出してもらえる」と思ったらしい。


 バカなやつだ。

 そんなことをすれば、どこへもいけなくなるというのに。


「ですが、あなたはこの子を見捨てなかった。ありがとうございます」

「いいえ。わたしたちは何も。それより、お二方の愛情が勝ったのです」


 三流メロドラマのような、クサいセリフだ。

 しかし、事実である。


「これから、どうなさるので?」

「一旦、前妻の元へ帰します」


 その後は、彼に考えさせるらしい。


 

「帰ってこなくていいわよ!」



 そういったのは、チエだった。


 話を聞いていたのか。

 

「なによマザコン! あんたなんて、あたしたちはすぐに忘れるんだから!」

 

 他の女子たちに取り押さえられながらも、チエはマスケンを罵り続けた。

 涙を流しながら。


 マスケンも、泣きながら走っていった。


「もう、帰ってこなくたって、平気なんだからぁ……うわあああああああん!」


 あーあ。どっちも泣いちゃったよ。

 



 

 数日後、学校の始業式が始まった。


 そこには、罵倒し合いながらも元気に学校へ向かうチエとマスケンの姿が。


 まったく、どっちがあまのじゃくなんだか。

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