あやかし あまのじゃく

「やべえ、ヤロウ【あまのじゃく】じゃん!」


 ランが後ろへ下がり、子どもたちの盾に。


 あまのじゃくとは、オニの一種である。

 普段は妖怪の世界でくつろいでいるはず。

 人間など、まあ相手にはしないような種族だ。

 なぜか、下界に降りてきた。

 

 マスケンの後ろにおぶさって、こちらを挑発してくる。

 一方、あまのじゃくが見えないマスケンは、何が起きているのかわからない。ただただボーッとしていた。


 たしかに、わたしたち以外にあやかしは見えていない。

 そういうリアクションになるよなー、と。


 みんな逃げろ、と言いたかったが、外は寒くて出られなかった。


「わたしたちが、コイツを外へ出したほうが早いな」

「そうすっか。みんなは中に入ってろ」


 まさか、こんなチビッ子どもが店を荒らすまい。


「……ただいま」

「おう、大将おかえり。さっそくだが、キッズ共を頼む」

「……ああ、だいたいわかった」


 飲み込みが早すぎる。さすが大将だ。

 多少のことでは動じない。

 おまけに、様子を見ただけで全部を把握するとは。


「ちょっと仕事だ。子どもに取り憑いた【あやかし】を払うぜ」


 ランが、大将をかばいながら状況を報告する。

 

「……わかった。子どもたちは任せろ。シリア、ラン、気をつけて」


 大将が、子どもたちを酒屋へ避難させた。

 

「承知!」

「あいよ!」


 とはいえ、どう攻める?


 相手はガキの背中におぶさったままだ。

 まともに叩けば、マスケンにまで被害が及ぶ。


 それをわかっているのだろう。

 あまのじゃくは、マスケンを盾にするように様子をうかがっていた。


「あまのじゃくのようなオニを打倒するには、直接打撃が一番だよな?」

「エロで吊るか? そのスキにボコるのが手っ取り早いぜ」


 ランがジャージを脱ごうとする。寒がって、すぐにファスナーを上げるが。


「エロ妖怪だから、それは有効なんだ。しかし、マスケンが乗ってくるとは思えない」


 おそらく、マスケンの狙いはチエだ。

 かといって、チエをエサにするわけにはいかない。


「おい、お前の狙いは何だ? 地上にお前の好みなんてないはずだ」

「うるっせえな。オレは呼ばれたから来たんだよ!」


 あまのじゃくから、意外な言葉が飛んできた。


「なんか、ガキが妙な酒を隠し飲みしてやがったからよぉ。それが召喚具になって、オレサマが呼ばれたわけ!」



「……あ! おいシリア、アイツの角!」


 わたしは、ランの指示どおりあまのじゃくの角を見る。


 あの角の形は、この前に酒を買いに来た新婚男と同じではないか。


「すると酒っていうのは?」

「あのマムシ入りの酒じゃねえか?」


 そうかもしれない。


 しかし、あれは新婚の神に送ったものだ。


 どうしてマスケンが?

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