炎上と雪溶け
「別に、バカでいいじゃないか。子どもなんだから。それを許せないなんて、視野が狭い」
わたしが強めに言うと、膝を抱えてチエはうつむく。
「シリア、ちょっと言いすぎじゃないか?」
「いいんだ。チエは、自分の行いが正義だと信じて疑っていない。いわゆる『私、何か間違ったこと言った?』ってやつだ」
「あー。他人から言われると一番ウザいやつだ」
「だろ? 意見は正しくても、その考えは間違っている。絶対的に正しく生きている人間なんて、この世にはいない。わたしたちだって、何かを傷つけて生きているんだからな」
いくら正しくても、引っ込めないといけない意見はゴロゴロあるんだ。
わたしだって善人でも品行方正でもない。
ただ、説教とは言わないが、チエの正義感を修正してやる必要がある。
余計なお世話だし、徒労に終わりそうだが。
「このまま生きていくと、チエは誰にも相手にされず一生を終える」
実際、そうやって生きているヤツは多くいるではないか。
しかもそいつらの大半は、自分に非がある場合もあるなんて自覚がない。
なんでも世間のせいにする。
「いわゆる炎上系というやつだな?」
「そんなヤツらに待っているのは、さっき言ったドーパミン中毒だ。誰かを攻撃して、ストレス発散の毎日だ。気持ちいいのは最初だけ。後に待っているのは、ネットでも孤独になるという地獄だぞ」
そうやって自分にも世間にも目を背けて生きていく覚悟があるのかどうか、知りたい。
わたしの話を聞きながら、チエはずっと膝を抱えてノドを引きつらせている。
「……聞くまでもないか」
チエには、まだ友だちを大事にしたい気持ちはあるようだ。
「なにも、自分を責めなくてもいい。そんな醜い自分もいるんだ。それを許してやりな」
「うん」
「自分を許せるのは、自分だけだ。自分だけがわかっていればいい。そうすりゃあ、相手にだって優しくなれる」
「……うん」
彼女の心は、ひとまず雪溶け、といったところか。
とりあえず、チエは安心だ。けど。
「マスケンがヤバイのは、確かだな」
「シリア、なんかわかりそうか?」
「チエを意識しているのは確かだが、行動がちぐはぐだな。なんか、別の意思を感じる」
ちょっとマスケンに会わせてくれないか、と尋ねてみる。
聞けば、スマホで呼び出してくれるらしい。
すぐに友人たちは電話に出た。
チエは正しくは「
まず千絵子は自身の非を認め、謝罪する。相手もあやまっていた。
その上で、マスケンをここに呼んでほしいと頼む。
友だちも一緒に来てくれるそうだ。
だが、数分後、ここはちょっとパニックになる。
マスケンに、ちょいワルのあやかしが取り憑いていたからだ。
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