かつての魔法少女

「やっぱりシリアちゃんだ! 元気そうでよかった」


 感極まった表情をしながら、ナナミがわたしに抱きつく。

 温かい。

 腕や足、お腹のあたりは太っている。だが、頬は少しこけていた。

 三〇代くらいだろうか。ナナミからは年齢特有の雰囲気を放っていた。


「ほんと、心配したんだから!」


 涙声で、ナナミはささやく。

 

「ごめんね。ナナミちゃんも、元気そうでよかった」

「うん。お酒も飲むようになったよ」


 もうそんなに時間が経っていたか。


 ブラックホールは、時の流れが歪む。


 わたしはブラックホールとの戦いで、長い時間を過ごしていたようだ。


「立ち話もなんだ。こたつがあったまっているから、どうだ?」

「そうだな。あがっていってよ」


 ナナミを家へ上げる。

 

 珍しく、ランがお茶を出してくれた。

 お茶菓子でいつもの駄菓子を出すところは、相変わらずだけど。


「いただきます。あなたは。わたしは月代ナナミといいます」

「ランだ。コイツとは、ちょっとした縁で知り合った。ここで一緒に働いている」


 惰眠を貪っているの間違いじゃないのか?

 わたしは、いつもの口調を飲み込んだ。

 今のわたしは、ナナミと話すことを優先する。

 普段どおりに振る舞うと、ナナミが孤立してしまうだろう。

  

「あれから、どれくらい時間がたった?」

「一四歳で魔法少女になって、さらに一四年経ったよ。魔法の力は持ってないよ」


 わたしとナナミで、ランに魔法少女時代のことを聞かせた。


 当時、ナナミとともに、あやかしを撃退していた。

 今でも出てくるようなタイプである。

 もう少し、子ども向けっぽい魔物ばかりを倒していたが。


 しかし、ラストバトルになって相手が本気を出してきた。


「で、わたしがすべての魔力を使って、あかやしを生み出す渦を破壊したってわけ」

「シリアちゃんが、結局全部の決着をつけてくれたんだよ。私は、なんの役にも立たなかった」

「違う!」


 わたしは、コタツを叩く。


「ナナミちゃんががんばってくれたから、あの渦は弱体化していた。だから勝てた」


 あのままナナミが戦っていたら、ヤツはナナミの魔力を吸って、強くなっていただろう。


 あれで、よかったのだ。


「なるほどなあ。で、離れ離れだった二人が再会したと」

「うん。そうですね」


 ランは「ほうほう」と言いながら、せんべいをバリボリとかじる。


「今は何を?」

「地元を離れて、事務職についているよ」


 今は旅行中で、おみやげを買うつもりだったらしい。

 そこで大将の店を見つけて、寄ったという。


「ありがとうございます」

「こちらこそ!」


 ランとナナミがお互いにお辞儀をした。


 しかし、ランの彼女を見る視線は鋭い。


「なんか、困ったことない?」

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