プレッシャー

 ナナミはランに指摘されて、ため息をつく。


「ああ、やっぱりわかっちゃうかー」

 

 苦笑いを浮かべながら、ナナミはカップに酒を注いで口をつけた。

 アニメのコラボ商品で、ラベルにキャラクターのプリントがされている。


「親が『結婚しろ』ってうるさくて」


 コケたほほに、より陰りが増す。


「こういうのってめぐり合わせでしょ? 私の一存では決められないよ。それに、私はまだ魔法少女だった時代のことを忘れられなくて」


 彼女はまだ、夢の世界にいたいのだろう。


 アニメ調のラベルにも、それが現れていた。


「戻ってこられるわけがなかった。あんな経験をしてしまった以上、普通の人間として過ごしなさいって言われても、困るよ」


 どうやら、ナナミにとって魔法少女時代は、想像以上に刺激的な生活だったらしい。


「死んじゃうかもしれなかったのに?」

「少なくとも、シリアちゃんと一緒に戦った日々は、今の生活よりは強烈だったかな」


 まるで酒に逃げるかのように、ナナミはアルコールの量を増やす。


「なーんか、アイドルみたいな悩みだな」


 ランが感想を述べる。


「自分でも思うよ。アイドルみたいにみんなを楽しませることなんて、できないけれど」


 酒を飲んで夢想することが、今の日課だという。


「男性と交際したくないわけじゃ、ないんだよ。好きな人だってできた。でも、その人は奥さんがいて。ああ、もちろん、声なんてかけなかったけれど。なんかこう、タイミングが悪いっていうか」


 歯切れ悪く、ナナミは自分の過去を語る。


「この歳で誰にも触れてもらってないってのは、それはそれでプレッシャーなんだけれど」

「そうでもないと思うがな。お前の年齢で処女って、珍しくないぜ」


 ランは励ましたつもりなのだろう。

 しかし、余計にナナミを追い詰めてしまった。


「私もそう思っているし、思っていたいよ。でも、自分が欠陥品みたいに思えてさ」


 ナナミは酒をなみなみと注いで、あおる。

 そういう飲み方をする酒ではないのに。


 きっといい人ができるに違いない、って無責任に言えたら楽だ。

 しかし、それは言った自分が気持的に楽をしたいだけ。気休めにもならない。

 本当に心配をしているなら、なんて声をかけてやればいいんだろう。


 こればっかりは、さすがの淫獣でも手助けできなかった。


「待ってろ。ちょっとアテがあるから」


 おもむろに、ランがスマホを取り出す。


「おお、ガキか? お前さ、まだ独り身だったよな? 今から人をよこすから、都合してやってくれねえか? うん、五分で行くから。じゃ」


 ピッと、スマホをジャージのポケットにしまう。


「誰に電話したんだ?」

「三代目の勇者。あたしが仕えていた勇者の、孫」

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